第34話

 こちらに気づいたキマイラはすぐに立ち上がると声を出して威嚇し今にも飛びかかってきそうだ。

 キマイラはグリフォンであるノアばかり見ていて人間である私はいつでもどうとでもなると思っているのか目もくれない。


 キマイラもものすごく強い魔物だけど、私とノアの2人なら余裕ね。

 けどここはノアの家の中だし、キマイラもそれなりに知性のある魔物だから出来れば戦わずに出て行ってほしい。


「ここはこのグリフォンの住処なの。大人しく出て行ってもらえないかしら?」


 とりあえず言うだけ言ってみたが無駄だっだようだ。

 キマイラは一瞬私をチラッと見てフンッと鼻で笑いまたノアの方へ向く。


 へぇ、人間の私の言うことは聞けないってわけ?


 キマイラはこちらを威嚇したまま、退く様子はない。


「このままじゃどうしようもない。倒してしまうぞ?」


 そう言ってノアがこちらを見た瞬間、隙ができたと思ったのかキマイラが飛びかかってくる。


「【シールド】!」


ガキンッ! ガリガリガリ! ガンッ! ガツンッ!


 はじめはシールドを見ても余裕の表情だったキマイラだが、簡単に破れないとわかると徐々に攻撃を強くし、今はこのままじゃヤられると思ったのかどうにかしてシールドを破ろうと涎を垂らしながら必死になって攻撃をしている。


「【ウィンドカッター】」


 あ。


 もう我慢ができなくなったのか、ノアが風魔法を使いキマイラの首を掻き切った。


 弱い。キマイラってこんなに弱かったっけ?


「なんか呆気なかったね」


 ノアはフンッと鼻を鳴らして倒れているキマイラを見ると、「こいつはまだ若いキマイラだからな」と言う。


 まだ若かったからこそ、今まで自分よりも強い者と戦った経験もなく相手の力量も読めなかったようだ。

 若気の至りみたいな、自分が1番強いと勘違いしちゃう時期らしい。

 普通はそれでいろんな相手と戦って力をつけて、自分より強い相手がいることを知り、相手の力量を読む経験を積むみたいだけど、それで命を失っちゃったら意味ないよね。


 まあキマイラは素材も高く売れるし強い魔物だから肉もすごく美味しいし私たちはいいんだけどね。

 美味しくいただきます。


 魔法で血抜きをしたキマイラをアイテムボックスにしまい部屋を見回す。


 広いだろうとは思っていたけれどこんなに広いなんて。

 一般的な家ならこの部屋にすっぽり入ってしまいそうだわ。


 こんなに広いのにノアは寝るだけにしか使っていなかったようで部屋には何にもない。

 唯一寝床のような草が敷き詰められた場所が端にあるくらいだ。


「あ、あいつ! 私の寝床をー!」


 寝床はキマイラが使っていたようで敷き詰められた草の上にキマイラの物と思われる毛がふわふわと落ちている。


 ノアが、このままじゃ寝れん! と怒っているので私がもっとふわふわな寝床を用意することにした。


「リア、こっちに来てくれ!」


 ノアの後をついていくと小さめの空間に出る。


「これをリアにあげようと思っていたんだ。私には必要のない物だからな」


 そこには武器や防具、魔道具やジュエリーなどがたくさん乱雑に詰め込まれていた。

 しかも高価そうなものばかりだ。


「こんなにどうしたの!?」


「ここにある物は全部大森林にきた冒険者が身につけていた物だ。私は別に好んで人間と戦ってはいなかったが向こうから挑んできたら話は違うからな。

後はその辺で力尽きて倒れていたり、他の魔物の餌になった人間が身につけていた物を拾ったりだ」


 最初は綺麗だと思って集めはじめたけど最近は癖になっていて見かけると拾ってくるようになっていたらしい。


「ということで、これはリアにやる。次に町に行った時にでも売ったらどうだ?」


 ノアが集めていた物だしこんなに高価な物貰えないと言ってもノアは自分には必要ない物だからと言って聞かないのでありがたく貰うことにした。

 今日はお礼にご馳走を作ろう。


 ということで今日の夕食はキマイラのお肉にする。

 魔物のお肉は魔物が強いほど美味しいのでキマイラのお肉は期待できそうだ。

 丸々捌くことはできないので脚だけ切ってもも肉を使うことにする。

 美味しいお肉はシンプルイズベストよね!

 厚めに切ったお肉に塩胡椒をしてフライパンに入れるとジュワッと美味しそうな音が鳴る。


う〜ん! 美味しそうな匂い!


 表面がカリッと焼けたらお皿にのせてアイテムボックスからグレーゲルの宿で買ったズッペと、ロルフとミルルに教えてもらった美味しいパン屋さんで買ったパンを出す。


「ノアー! ご飯できたよ!」


 縄張りを見回ってくると言っていたノアはかなりお腹が空いていたようで呼ぶとすぐに森から飛び出してきた。


「いい匂いがするな! 今日の夕食はなんだ!?」


「じゃーん! キマイラのステーキだよ! 脂が乗ってて美味しそうでしょ!」


 ノアは待ちきれないと言わんばかりに涎を垂らしながら目をキラキラさせている。 


「さ、食べよう! いただきます」

 

「いただきます!」


 ノアは真っ先にキマイラの厚切りステーキにかぶりつくと「美味い!」と叫んだ。


 私も食べてみよう。

 ナイフとフォークで切り分けると脂の乗ったお肉を口へ運ぶ。


「美味しい!ノア、このお肉美味しいね!」


「あぁ! 私の寝床を使ったのは許せんがこの美味さならまたキマイラが来てもいいな!」


 ノアは相当キマイラのお肉が気に入ったようでまた見つけたら狩るつもりらしい。

 キマイラって普通は冒険者でも見かけたら即逃げ出すような魔物なんだからね?


 夕食を食べながらノアと今後の予定について話していたら、「ここは大森林の中でも奥のほうだからキマイラのように強くて高く売れる魔物が多い。うちに泊まってしばらく狩りをしてから隣国に行くのはどうだろうか? 」と言うのでお言葉に甘えてしばらく泊まらせてもらうことにする。

 ノアはキマイラを狩りたいんだろうけどね。


 しばらくここに泊まるのにテント生活は嫌だ。

 今日はもう暗くなっちゃったから一旦洞窟の中にテントを出して寝るが、明日は1日ノアの家を大改造することにした。

 ノアの家は洞窟そのままで草の寝床を置いてあるだけだからね。

 ノアも住み心地が良いほうがいいと言うので遠慮なく手を加えさせてもらうことにする。


 テントを出して寝ようとしたら、ノアは自分の寝床があるのにキマイラが使っていたから嫌だと言って鳥に擬態し私のテントに潜り込んできた。

 これはノアの寝床と私のベッドを最優先で作る必要があるわね。


 後回しになって申し訳ないけれど、ノアのお友達のところへは家の改造が落ち着いて泊まれる状態になってからいくことにしよう。


 ノアは自分の家だから安心しているのかもう眠りについている。


「おやすみ、ノア」


 ノアの頭におやすみのキスを落とした後、疲れからかすぐに私も眠りについた。

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