第32話


「ノア、あの辺りに下りてもらえる?」


 道を辿りながら大森林の上空を飛び辺りが暗くなって来た頃、道の途中に少し開けた場所を見つけた。

 野営場所っぽいけど誰もいなそうだし、あのくらいの広さがあればノアも下りられるだろう。

 今日はここで野営をすることにしよう。


「掴まっていろよ」


 ノアはいつも風魔法で私が落ちないようにサポートしてくれているが、念のため首もとにしっかりと掴まる。

 ノアは羽ばたくのをやめ、スーッと地面に向かって下りていく。


「うーん、気持ちいい」


 このノアに乗って地面に下りるときのスーッとした感じとフワッとする感じが結構好きなんだよね。


「よし、大森林にとうちゃーく!」


 ノアから降りて伸びをすると、ノアも体のコリをほぐすように体を伸ばしている。


「今日はここで寝ることにしましょう。今準備するからノアはゆっくりしててね」


 昼過ぎからずっと私を乗せて飛びっぱなしだったのだから、今日はガッツリした美味しいご飯を作るぞー! と気合を入れる。

 どこにテントを出そうかな、と野営場所を見回すと木の間でポカンと口を開けこちらを見ている人達と目が合う。


「「「う、うわぁぁぁ!!!」」」

「キャァァァァア!!!」


 上から見て見当たらなかったから人はいないと思っていたが、どうやら森に入っていた人達がいたようだ。

 野営のために枝を拾いに行っていたのか全員手には枝を抱えている。


「なっ、グ、グググ、グリフォン??」


 真ん中にいるリーダーらしき男の人が声を振り絞るように言った。


「グリフォンですが従魔なので襲いません。大丈夫ですよ」


 そう声をかけるが黙ったままピクリとも動かない。


 いきなりグリフォンが飛んできたのだからさぞ驚いただろうとノアをなでなでしながらしばらく待っていると、3分ほどしてから「ほ、本当に大丈夫なのか?」と言いゆっくりと森から出てきた。






「ハッハッハッ! いやー、驚いた! 町を出て2日なのにもう死ぬかと思ったよ」


 そう肉を齧りながら明るく話しているのがこのBランクパーティー【銀色の刃】のリーダーで大剣使いのシメオンさん。

銀色の刃は大剣使いのシメオンさん、短剣二刀流のレジスさん、盾使いのドナシアンさん魔法使いのリーゼロッテさんの4人パーティーだという。

 4人ともルボワール王国出身の幼馴染で他国に行ったことがないためBランクになった記念に隣国のラルージュ帝国に行くことにしたそうだ。


 なぜこの4人と一緒に夕食を食べているのかと言うと、あの後恐る恐る森から出てきた4人に気づかずグリフォンに乗って下りてきたことを謝ると、グリフォンが恐いのは恐いが興味もあるようで色々と話しているうちにお詫びに夕食をご馳走することになったのだ。


「ノアちゃんが降りてくるのを見た時はBランクになったんだから隣国に行ってみようと言ったシメオンを恨みましたよ」


 私の隣に座りノアをモフモフしながらそう言うのは魔法使いのリーゼロッテさんだ。

 森から出てきた時は1番怯えていたのに一旦ノアを触ってからはモフモフの虜になってしまった。


「でも本当にすごいな。

グリフォンを従魔にしている人なんて初めて見たよ!」


 そうキラキラした瞳をしながらノアに興味深々な爽やかな人が短剣二刀流のレジスさんだ。

 盾使いのドナシアンさんは寡黙な人のようで相槌を打ったり頷いたり。


「そうよね!私もノアちゃんみたいな従魔を見つけたい!

リアちゃんはどうやってノアちゃんと出会ったの!?」


 リーゼロッテさんはどうやらノアのようなモフモフを従魔にしたくなってしまったようだ。


「私が怪我で動けなくなっていたのを助けてもらったんだ。

それで私から従魔にさせてもらえるようにリアに頼んだ」


 さっきまでは「大森林を通ってる間に強い魔物と戦って強い攻撃魔法を覚える!」と気合を入れていたのに今は「回復魔法をもっと練習しなきゃ!」とノアのせいで言っていることがだいぶ変わっている。


「魔物に回復魔法をかけてどうすんだよ! 俺たちにかけろ!」


 いや、ほんとに。シメオンさんの言う通りだよ。

 ノアはグリフォンの中でも特に人語が流暢に話せる子だからね?

 適当な魔物に回復魔法なんてかけたら大変なことになるからね??


「ちぇー。 

あ! じゃあリアちゃんも一緒に隣国まで行こうよ!

ノアちゃんがいると言っても1人だと色々大変でしょ?」


 リーゼロッテさんはよほどノアと一緒にいたいらしい。


 まぁ確かに普通ならありがたい申し出なんだけどね。野営の準備とか戦闘とか1人じゃ大変だし。

 でも私はアイテムボックスからパッと出すだけだし、戦闘も1人で全く問題ないんだよね。

 それに身体強化をかけて進む私とじゃペースが合わないだろう。

 なによりノアのお家に寄ってからお友達のところへ挨拶に行かなくてはいけない。


「ごめんなさい。私とノアは隣国に行く前に寄るところがあるの」


 リーゼロッテさんたちは「え? 大森林で、寄るところ……?」と不思議そうな表情だ。


「隣国にはノアの友達のところに寄ってから行くわ」


 4人は「ノアちゃんのお友達!?」「それって魔物だよね?」「グリフォンの友達って絶対やばい魔物だぜ!」「そうだな」となにやらコソコしている。

 うち1人はなぜかとても喜んでいるけれど。


「いやー、まぁ、せっかく知り合えたのに残念だな。

隣国でまた会えたらいいな!」


 4人は次の日の早朝に出発して行った。

 リーゼロッテさんは最後まで「ノアちゃ〜ん!! 離れたくないよぉ〜!」と騒いでおり他のメンバーにズルズル引きずられて去って行った。

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