第31話


「お姉さーん!」


 ん? なんだか聞いたことある声だわ。


「お姉さーん!!」


『リア、後ろを見てみろ』


 ノアに言われて後ろを振り返ると、ロルフとミルルがこちらへ走って来ているではないか。


「2人とも! どうしてここに?」


  2人はゼェゼェと膝に手を当てながら息を整えている。

 相当急いで走って来たようだ。

 まさかまたお母さんに何か!? と思ったが、表情を見るにどうやら違うらしい。


「昨日のお礼を言いに宿に行ったら宿のおばあちゃんが今朝出てったって言うから慌てて追いかけて来たんだよ!

まだちゃんとお礼も言えてないのに、なんで黙って出て行っちゃうんだよ!」


 昨日3人ともすごくお礼を言っていたからこれで一件落着と思ったら違かったらしい。


「お前たちこのお嬢ちゃんと友達か?

この嬢ちゃん、1人で大森林を通って隣国へ行こうとしてるんだ。

2人からも辞めるように言ってくれ」


門番さんにそう言われたロルフとミルルは顔を見合わせ「大丈夫だよ」と言った。


「このお姉さん強いもん」


「そうだよ! 私たちが魔物に襲われてたの助けてくれたんだよ。いっぱいいたのに魔法を使って一瞬で倒しちゃったんだから!」


 ミルルが何故か胸を張って言う。


「う〜ん、そうかぁ……。

まぁ、俺ら門番には無理矢理止めることはできないからな。

お嬢ちゃん、魔法が得意だからって油断するなよ。無理だと思ったらすぐ引き返して来るんだぞ」


 2人からそれなりに魔法が使えることを聞いてやっと門を通してくれる気になったらしい。


「身分証はあるか?」


 いつものようにポケットから出したと見せかけてアイテムボックスから冒険者カードを出そうとし、ノアに『リア、それじゃ冒険者のリアが出国したことになってしまうぞ』と言われて気づく。


 そうだった。オレリア・アールグレーンが国外に出たということをわからせなければ。

 冒険者カードの代わりにアイテムボックスからアールグレーン家の紋章の彫られたバッジを取り出す。


「なんだぁ? 冒険者カードじゃないのか? えらく小さいな。」なんて言いながらバッジを受け取った門番さんはサッとバッジを見て一旦目を逸らすと、ものすごい勢いでもう一度手元のバッジを確認する。


「なっ、え!? えぇ!?」


 門番さんは何度もバッジと私の顔を確認し、「え? 嘘、え? 本当に!?」とかなんとか言ってる。

 しばらくそのままにしておくと、門番さんは何度か深呼吸をして無理矢理自分を落ち着かせてこちらを見る。


「あの、これ、本物ですか?」と。


 そりゃあ公爵令嬢が1人で冒険者の格好をして大森林に向かおうとしてるなんて信じられないよね。


「本物ですよ。私はオレリア・アールグレーンといいます」


 そう言って私はローブのフードを取る。


 しばらく旅をしていたとはいえ戦闘はしたが怪我はしていないし、クリーンも毎日かけているからサーラがケアしてくれていた頃のまま髪も肌も艶々だ。

 貴族でもなければここまで美しく保つのは無理だろう。


 私の顔をマジマジとみた門番さんは、「失礼しました!」とピシッと姿勢を正すとササッと手早く手続きをする。


「手続きが終了しました! こちらお返しします!」


 早っ! さっきまでグダグダ言ってたのは何だったのか。

 こんなことなら最初からバッジを出していればよかったかも。


 手元に戻ってきたバッジを見て、私は今からオレリア・アールグレーンじゃなく冒険者のリアになるんだ、と実感が湧く。


 よし、行こう。


「ロルフ、ミルル。もう行くね!」


 そう言って振り返ると、2人は泣きながら笑顔で「ありがとう!」「またグレーゲルに来てね!」と手を振る。


『すんなり出国できてよかった。

まだデブブ伯爵の追手は来ていないと言うことね』


『そうだな。あの後すぐ早馬を飛ばせばそろそろグレーゲルに着く頃だろうが、もう私たちは大森林の目の前だ。もう追いつかれることはないだろうな』


 何度か後ろを振り返りロルフとミルルに手を振りながら大森林の方へ歩いていると、遠目に門に人が集まっているのに気がつく。


『何だ? さっき並んでいた時あんな奴らいたか?』


 リアは身体強化で視力を強化し、門の様子を確認する。


『あれは……。

王国軍の騎士だわ!! 追手よ!!』


 門には門番をしていた兵士より格段に豪華な鎧を着た人が数人集まっていた。

 さっき手続きをしてくれた門番さんは王国軍の騎士に尋ねられたのかこちらを指差している。


『まずいわ、私が今さっき出国したのを知られたみたい。

追ってくるわ!』


 王国軍の騎士たちは馬に乗り門を出てこちらに走ってくる。


『ノア! 背中に乗らせて!』


『任せておけ』


 ノアは肩から飛び降りるとみるみる大きくなり元の姿に戻った。


「ありがとう!」


 急いで背中に飛び乗ると、ノアは助走をつけて翼をはためかせる。


「待て!」

「待つんだ!!」


 騎士は私がノアに乗って飛ぼうとしているのを見て飛ぶのを止めるよう必死に叫ぶ。


「飛ぶぞ!」


 ノアに乗って飛び立つと騎士は諦めたのかその場で立ち止まる。


「見てみろ、あいつらアホみたいな面して見上げているぞ」


 ノアは面白そうに騎士たちを見下ろし、騎士の上を旋回する。


 騎士たちは命令されて来ただけなので可哀想だが、私も捕まるわけには行かないので仕方ない。

 騎士たちはこのまま手ぶらで帰って大人しく怒られてもらおう。


「このまま大森林に入るぞ」


「うん!」


 最後にぐるっと大きく旋回すると、ロルフとミルルが手を振っているのが見える。

 上から手を振り返すと嬉しそうに飛び跳ねながらまた手を振り返してくる。


 さようなら、お父様、お母様、お兄様。

 さようなら、ルボワール王国。

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