第30話

 「2日間ありがとうございました」


 購入を約束していた初日の夕食ででた魚介類のズッペを鍋3杯受け取ると、女将さんにそう伝えて宿を出る。


 女将さんは「またグレーゲルにきた時は泊まりに来てね」なんて言ってたけれど、残念ながらもうこの町に来ることはできない。


『ノア、いよいよだよ!』


『待ちに待った大森林だな!』


 ノアもフンフンと鼻を鳴らし気合い十分だ。

 まず冒険者ギルドでお肉とお金を受け取ってから門に向かう。  


 今日でこの国にいれるのも最後かぁ、なんて思いながら町を眺めつつ歩いていたらあっという間に冒険者ギルドについてしまった。


 昼だからか冒険者はみんな既に依頼に行っているようで中は空いている。

 ギルドに入ってカウンターの受付嬢に冒険者カードを出すと、魔物の買取量が多かったからかすぐに分かったみたいで倉庫に案内してくれた。


「こんにちは、お肉の引き取りに来ました」


 そう声をかけると奥から解体スタッフのおじさんがこちらへ向かってくる。


「おう! 嬢ちゃんか! この2日間スタッフみんな残業で大変だったんだぞ〜!

肉はそこに出してあるからしまってくれ」


 出来るだけ早くとお願いした解体。

 頼んだ時は任せとけ! なんて言って受けてくれたけれど、ここ2日間はみんなで残業して終わらせてくれたみたいだ。


 ノアとわたしの2人が魔法を使って街道沿いの魔物をバンバン狩っているからすごい量になっちゃうのよね。

 2日前にここに来てアイテムボックスから買取希望の魔物を出した時は、みんな最初は驚いて固まっていたけれどどんどんと魔物を積み上げるにつれ「これを全部解体するのか……?」と顔を青くして引き攣らせていた。


「急いでいただいて本当にありがとうございました!」


 お礼を伝えて山になっている肉をアイテムボックスにしまう。


 解体スタッフのおじさんは「いやぁ、2日前にアイテムボックスから魔物を出すのを見たとはいえ、やっぱりすごいなぁ」なんて言いながら目の前の肉の山があっという間になくなっていくのを見て目を丸くしている。


「受付には既に金額を伝えてあるから受付で金を受け取ってくれ。それじゃあな」


 受付に行くと来た時に声をかけた受付嬢さんがお金を用意してくれていたみたいですぐに受け取ることができた。


「今回は沢山の取引ありがとうございました! またよろしくお願いしますね」


 この町の冒険者ギルドには来れないが、隣国に行ってからも冒険者ギルドで買取をしてもらう予定なので「またよろしくお願いします」と言ってギルドを出る。


『よし、門に向かおう!』


『おー!』


 しばらく歩くと町を出る門が見えて来る。

 さすが大森林側の門だ。大森林は強い魔物が多いからものすごく頑丈そうな立派な門が見えて来る。

 もしも大森林から魔物が出てきても耐えられるようにと作ってあるのだろう。


 いつも通り結構並ぶかな? と思っていたが全然いつもより空いていた。これならすぐに順番が回ってきそうだ。

 考えてみたら大森林を通って隣国に行く人なんて限られているものね。

 並んでいる人を見ると、強そうな護衛を沢山連れている商人や隣国へ向かう高ランク冒険者ばかりだ。


『リア、見られているぞ』


 1人でポツンと並んでいる私はものすごく浮いているようで、さっきからチラチラと視線を感じる。


「次の人どうぞ」


 並んで少しすると私の順番が来た。

 呼ばれたので前へ出ると私が1人なのに気がついた門番さんがギョッとする。


「1人か!?大森林はものすごく強い魔物ばかりだぞ!

隣国へ向かうのなら船で行くんだ。それか腕利きの護衛を何人も雇って大森林を通るかだな」


 何も知らない小娘だと思ったのか自分の実力を勘違いした新人だと思ったのかわからないが、門番は「やめとけ、死ぬぞ!」と言って手続きをしてくれない。


「私、冒険者です。魔法が得意なので1人で大丈夫です」


『そうだそうだ! リアはグリフォンである私が驚くほど強いんだぞ!』


 そう言っても門番さんは胡散臭そうにこっちを見ている。


「荷物は?大森林を通るとなると隣国までひと月はかかるぞ。

ほら、周りを見てみろ。ああやってみんなできる限りの野営道具を担いでいくもんだ。準備してから出直しな」


 ショルダーバック1つの私を見てそう言うと、手をシッシッ払い次の人を呼ぼうとする。


「私、アイテムボックス持ちです」


 そう言って目の前で宿の女将さんから買ったズッペ入りの大鍋を取り出すと門番さんは口をポカンと開け固まる。


 周りでこちらの様子を伺っていた冒険者たちもチラチラどころか驚きでガン見している。


「……アイテムボックス??」


「そう、アイテムボックス」


 目の前で起きたことが信じられないのか目をパチパチとしながら聞き直される。

 私は鍋をアイテムボックスへしまい直し、もう一度目の前で出す。


「おお。これは驚いた。

じゃあれか? 野営道具はちゃんと持ってんのか?」


「もちろん!」と頷くが、門番さんはまだ心配なのか腕を組み「うーん」と考え込んでいる。

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