第26話


 2人はグレーゲルに住んでいるというので町に向かうついでに送って行くことにした。


 兄のロルフが13歳で妹ミルルが10歳。

 町に向かいながら詳しく話を聞くと、父親が早くに亡くなっていて母親も体が弱く働けず、生活費の為にいつも2人で林の外側で薬草や木の実を採取して売っているという。

 今日は薬草が生えているのを見つけいつもより少し林の奥に入ったところをワイルドウルフに見つかって、逃げているうちに林の中に誘導されあっという間に複数のワイルドウルフが集まってきたらしい。


「今回は間に合ったからよかったけど、今度からはもっと気をつけるのよ」


 そう言うと、2人とも今回のことで懲りたのか取れそうなほど首を縦に大きく振る。


「はぁ、でも今日は大損だ。

採取した薬草どころかバッグまでなくなっちゃった」


 そういえば、と思い2人を見ると薬草を取りに来たと言っているが何も持っていない。

 逃げる時に邪魔になりその辺に捨ててきたと言う。


 それに服も体も擦り切れてボロボロで、ところどころ血が滲んでいる。


 服は直せないけど、と言い2人をヒールで包む。

 光が収まると傷一つない状態の2人が立っていた。


「なんだ?今の光……」


「お兄ちゃん! 傷が治ってるよ!!」


 そう妹のミルルに言われて兄のロルフも全身を確認する。


「本当だ! すごい!!

これもお姉さんがしてくれたの!?」


「そうよ。2人とも血が出てて痛そうだったからね」


「「すごーーーい!!!」」


 いつも通りヒールを使っただけなんだけど、こんなにキラキラした瞳を向けられるとなんだかむず痒くなってくる。


「ほら、もう門に着くわよ」


 そう言うと無事帰って来れたことに安心したのか、2人とも目に涙を浮かべる。


「ん? ロルフとミルルじゃないか。

どうした? その人は誰だ?」


 いつも林の外側で薬草や木の実の採取をしていると言っていたから門番さんとも知り合いなのだろう。

 2人と一緒にいる私をみて心配したのか声をかけてくる。


「林で魔物に襲われたところをこの人に助けてもらったんだ」


「そうなの! すごく強かったのよ!」


 2人がそう言うと門番さんはまず魔物に襲われたというのに驚き、次に助けてもらったと聞いてお礼を言ってきた。


「2人を助けてくれてありがとう。

生活のためとはいえいつも子供2人で林に行くのを心配していたんだ」


 心配はしていたけれど2人も生活がかかっているとわかるから止めることはできなかったようだ。


「ねえ2人共。大銀貨5枚で臨時の仕事をする気はない?

冒険者ギルドと買取をしているジュエリー店への案内の仕事なんだけれど」


 そう言うと落ち込んでいた2人はパッと顔を上げ、「「する! する!」」とあっという間に元気を取り戻し、「こっちに冒険者ギルドがあるの!」と走り出した。


 冒険者ギルドで狩った魔物を買い取ってもらう。今回も量が多いのでまとめて倉庫で出すことになりいつも通りアイテムボックスに驚かれた。量が量なので明後日の昼以降に肉とお金を取りに行くことになった。

 ジュエリーの買取も2人がきちんとしたお店を教えてくれたので最初に入ったお店でスムーズに取引ができた。


 ロルフとミルルは流石にこの町に住んでるだけあって色々と詳しい。

 冒険者ギルドとジュエリー店だけでなく、あの屋台が美味しいとか、ここの店は大きいけど態度が悪いとか、あっちの店は小さいけど意外と品揃えがいいとか、いろんなことを知っていた。

 2人に案内を頼んで正解だったわ。


「はい、今日は案内ありがとう」


 最後におすすめの宿を教えてもらい、2人に大銀貨5枚ずつ渡す。


「え? これじゃあ貰いすぎだよ! 2人で大銀貨5枚じゃないの?」


「そうだよ。案内しただけでこれは多いよ!」


 2人はそう言うけど色々と教えてもらったおかげで明日からの買い物がかなり楽になりそうなのだ。

 金貨1枚の価値はあったと思っている。


「2人のおかげで明日からの買い物がだいぶ楽になるわ。

これはそのお礼なの。受け取って」


 2人が本当にいいの? と言うようにおずおずと出してきた手に大銀貨を5枚ずつ乗せ、「これはお母さんと3人で食べてね」とさっき2人においしいと教えてもらった屋台で買った煮込みを渡す。

 2人はパアッと笑顔になり嬉しそうに受け取り、「ありがとう!」と何度も頭を下げながらお礼を言い帰っていった。

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