第25話


「ノア、あの町がグレーゲルよ!」


 思わぬところでデブブ伯爵と揉め事になってしまい、逃げるようにノアに乗って空を飛ぶこと3日。

 追手が来ていたら面倒なことになるので途中の町には寄らず、食事と睡眠以外は真っ直ぐグレーゲルに向かってきた。

 そのおかげで普通に向かったらバルタザールからグレーゲルまで10日は掛かるだろうと思っていたところを4日でたどり着くことができた。


「一旦あの林のあたりに降りて、そこからは歩きで行きましょう」


 流石に町の門までノアに乗って行ったら皆んなを驚かせてしまうので、ここからはいつも通り鳥魔物に擬態したノアと歩いて行く。


 林の上空へ向かい降りられるスペースを見つけると周りに人がいないか確認し、徐々にスピードを落とし林の中に降り立つ。


「お疲れ様! 長時間ありがとう、ノア」


 そう言いノアの頭を撫でると気持ちよさそうに目をつぶる。

 鳥魔物に擬態する前にグリフォン姿のノアと戯れていると、ノアが急に頭を上げてキョロキョロと周りを確認し始めた。


「今何か聞こえなかったか?」


 そうノアに言われるが私は何も感じない。


「そう? 私には何も聞こえなかったけど……」


 グリフォン姿のノアを見られたらまずいから降りる前に周囲は確認したはずなんだけど。

 念のためもう一度確認しておこう。


「【探知】」


 自分を中心に魔力を薄く広げていく。

 ……うん、問題ないわね。

 そう思い探知魔法を消そうとした瞬間、何かが探知魔法範囲内に飛び込んできた。


「これは……ノア! 人が魔物に追われているわ!」


 探知魔法範囲内に人が飛び込んできた後、それを追うように複数の魔物の反応が現れる。


「先に助けに向かうわ!

ノアは鳥に擬態してから追ってきて!」


 走り出しながらそう言うと、探知魔法を発動しながら反応のある方へ急いで向かう。


「はぁ、はぁ」


 探知魔法に反応がある人は2人。

 怪我をしているのか、普段魔物との戦闘経験のない人なのか、魔物から逃げているというのに動きが遅い。

 でもそのおかげでこの様子ならすぐに追いつけそうだ。


 魔物は複数。群れを作る魔物なのか、逃げる2人を囲うように追い立てている。

 すぐにでも捕まえられる距離なのに捕まえないのは狩りを楽しんでいるのだろう。

 逃げている2人は恐怖を感じているだろうけど、そのおかげで助けが間に合いそうだ。


 逃げる2人に大分近づいたのだろう。

 群れの最後尾にいるであろう数匹のワイルドウルフの姿が見え始める。

 ワイルドウルフを倒しながら身体強化で視力も強化し、2人の反応のある方向を探してみると木の間からチラチラと姿が見える。


「っお兄ちゃん、もう無理だよ!

もう私、疲れて足が動かないよ! お兄ちゃんだけでもっ、逃げて!」


「大丈夫だ! もしミルルが動けなくなったら兄ちゃんが抱えて走るからなっ!」


 子供!?こんなところになぜ!

 やけに逃げ足が遅いと思ったら、そういうことだったのね。


 2人とも大きな怪我はしていないようだが、逃げている途中にできたような切り傷や擦り傷があちこちにある。

 それに妹の方は体力の限界が近そうだ。


「こっちよ! こっちに来て!」


 走りながら2人のいる方にそう声をかけると2人とも驚いたようにこちらを振り向く。

 振り向いた瞬間は「助かった! 」と言うような安心した顔をしたが、私を見ると絶望の表情に変わる。


「魔物に襲われています! 逃げてください!」


 私が女1人だから危険だと思ったのだろう。兄の方がこちらに逃げろと声をかけ、妹の手を引きながら私がいる方とは反対に走り出す。


「私は冒険者よ!大丈夫だからこっちに来て!」


 そう叫ぶと一瞬迷うような素振りを見せたがこちらに走って向かってくる。


「もう大丈夫よ。私の後ろに下がっていて」


 そう言い不安そうな2人を背中に隠すと、念のためシールドで囲む。


 グルルルルッ!!


 私たちの周りを囲んだワイルドウルフは、せっかくの狩りを邪魔されたからか怒りで顔に皺を寄せ牙を剥き出しにこちらを威嚇する。


「こんなに集まってきた……。もう、ダメだ」


「お兄ちゃん……」


 そんなワイルドウルフの群れを見た2人は青ざめた顔で目に涙を浮かべ身を寄せ合っている。


「安心して。これでも私、結構強いんだから」


 私はそう言うと魔力をいつもより多めに込め、風の刃をワイルドウルフと同じ数創り出し一斉に放つ。


「【ウィンドカッター】!」


 勢いよく飛んでいった風の刃は1匹残らずワイルドウルフの首を切り飛ばした。


「ほらね」


 そう言い後ろを振り返ると、2人とも信じられないものを見たように口をポカンと開け目を見開き倒れたワイルドウルフを見て固まっている。


「おーい、大丈夫?」


 そう声をかけるとハッとしたようにこちらを見て、頬を赤くし目をキラキラさせて途端に嬉しそうな表現に変わる。


「凄い! お姉さん凄いよ!!」 


 そうお兄ちゃんが言うと妹ちゃんも「すごい! すごい!」と繰り返す。


「お姉さんのおかげで助かりました。本当にありがとうございました!」


「ありがとうございました!」


 2人揃ってぴょこりと頭を下げるのがかわいらしい。


『おーい、リア!』


 ちょうど良いタイミングでノアがこちらに飛んでくる。


『ノア!』


『やっと追いついた!鳥に擬態しているとはいえグリフォンの私が追いつけないとは、リアの本気は流石だな』


 ノアもあの後すぐに鳥に擬態して追いかけてくれたようだが戦いに間に合わなかったとしょんぼりしている。

 たとえもっと早く追いついていたとしても鳥の状態のノアは戦いに参戦できなかったよ、と言うとまたしょんぼりした。

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