第27話
2人に教えてもらったおすすめの宿に入る。
この宿はいつも2人を心配して声をかけてくれる老夫婦が営んでいる宿らしく、こじんまりとしているが雰囲気がよく落ち着いた宿だ。
小型なら従魔も預かってくれるそうなのでノアは外の小屋へ預けた。
「ロルフとミルルの紹介で来ました。とりあえず2泊お願いします」
受付にいたシルバーヘアの優しげでふくよかな女性に声をかけると、「まぁ! あの2人からの!」と嬉しそうだ。
「お友達かしら?」と聞かれたが、2人が魔物に襲われたと知ったら心配するだろうから、この町に来る途中で素材採取から帰る2人と知り合い町を案内してもらったと話す。
色々と省いて説明したがニコニコと聞いていたので問題はないだろう。
「部屋は2階の奥の部屋で鍵はこれよ。食事は1階に降りてきて食堂で食べてね」
ロルフとミルルからこの町は港町だから夕食には新鮮な魚介類が出ると聞いてとても楽しみにしていたのだ。
「美味しい!」
楽しみにしていた夕飯は魚介類のズッペとパン、サラダだった。
このズッペ、魚介類の味がギュッと濃厚で控えめに言っても最高だ。
「そんなに美味しそうに食べてもらえて嬉しいねぇ。このズッペは料理人の夫の得意料理なのよ」
この宿では奥さんが接客、旦那さんが料理を担当しているらしい。
宿の食事とは別でお金を払うので鍋ごとズッペを買えないか頼んだら「そんなに気に入ってくれて嬉しいわ」とあっさりOKしてくれた。
出来るだけ多くほしいと言ったら「そんなに!?」と驚かれたがアイテムボックス持ちだと言ったら納得してくれたようだ。
普段の仕事の合間に作るのを考えると鍋3杯までならというので2日後に宿を出るときに鍋3杯分受け取ることにした。
ふっふっふっ、これでこの町を出た後もしばらくはこの美味しいズッペを堪能できるわ。
『さ、ノア、行きましょう!』
今日は丸一日買い物の日だ。
この町を出たら大森林に入るので必要なものを買い込まなくてはいけない。
『なにを買うんだ?』
ノアは今までその身一つで大森林で生活していたので必要なものと言っても特に思いつかないようだ。
『まず調味料を含めた食料でしょ。あと野営道具も買い足さなきゃ。あ、あとノアのお友達にもお土産が必要よね!』
そう言うとノアは不満そうに私に乗って行けばすぐだぞ。私が飛べることを忘れていないか? と言う。
『確かにノアに乗って行けばすぐだけど、隣国に行った後の費用もできればもう少し用意しておきたいから歩いて狩りをしながら進みたいの。大森林なら高額で買い取ってもらえるような強い魔物も多いし。大森林は普通なら歩いて1ヶ月くらいだけど、私とノアなら10日くらいで通り抜け出来ると思うわ!』
そうきちんと説明してあげると自分に乗れるのを忘れられた訳じゃないと知り、今度は「強い魔物を狩ってやる!」と急にご機嫌になった。
『まずはあそこにあるパン屋さんに行きましょう。2週間分のパンを買い込まないと!』
そこにあるパン屋さんはロルフとミルルおすすめのパン屋さんだ。
町にあるパン屋さんの中でも特に美味しいと地元の人に人気らしい。
ノアは連れては入れないので入り口近くの木に止まって待っててもらう。
カランコロン
「いらっしゃいませ!」
店に入ると若い女性が店番をしていてる。
ハキハキしていて笑顔が素敵な人だ。
「パンをたくさん買いたいんですが可能ですか?」
人気店なだけあってまとめ買いする人が他にもいるのかあっさり「大丈夫ですよ。おいくつですか?」と聞かれる。
大森林だし何があるかわからない。念のため多めに買っておこう。
「とりあえず200個お願いします」
「にひゃ!? わ、わかりました。ちょっとお父さんに確認してきますね」
お父さんが店主なのだろうか。思ったよりも数が多かったらしく奥に確認しに行ってしまった。
少しするとガッチリとした男の人が店員さんと一緒に出てくる。
「パンを200個買いたいってのはお前か?」
そう聞かれたので頷くと、「そんなに買ってどうするつもりだ? 俺はパンに人生をかけて作ってるんだ。たくさん買うって言われても、食べきれず捨てられるくらいなら売ることはできねぇ。それかあれか? どっかでうちのパンを転売でもするってのか?」
なるほど。
たしかに小娘1人で買いに来て、パンを200個も食べ切れるとは思えないよな。
でもまさか転売を疑われるとは。
「きちんと美味しいうちに全部食べますよ。アイテムボックス持ちなので」
そう言うと店主の男の人も店員の娘さんも目が点になる。
「「……アイテムボックス??」」
「そう。アイテムボックス」
そう言って目の前でパッとアイテムボックスに入っているパンを出してみると、「うぉっ!」と声を出して驚く。
「全部美味しく食べるので、200個、購入させていただけませんか?」
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