第5話

 朝になり他のグループが野営道具を片付ける音で目を覚ます。初めてテントで寝たが疲れていたからか思っていたよりぐっすり眠れた。

 テントと野営道具をアイテムボックスにしまい、まだ片付け中のラムダさんに挨拶をして出発する。

 昨晩ラムダさんに聞いたところ、ここからテスパトールまで馬車で2日だと言っていたので身体強化とヒールを使って走る私なら1日ほどで着くだろう。

 頑張れば今晩には到着できるよね!


 街道を1人爆走しているとたまにすれ違う人にギョッとされるが気にせず進む。


「ん? 探知魔法に反応があるわね」


 魔物が飛び出してくることが多々あるので探知魔法も使いながら走っているのだがいくつか反応がある。


「そこの林からだわ」


 林に目をやるとちょうど猪型の魔物が3匹飛び出してくるところだった。

 5メートルほどの大きさで下顎から天に向かって大きく鋭い牙が2本伸びている。たしかこれはビッグボアだったかな?

 私は魔物の名前なんてさっぱりわからないけどアデライトだったころの記憶がそう言っている。


「とりあえず、【ウィンドカッター】」


 風の刃を3つ出しビッグボアへと飛ばす。

 さすが私ね! 3匹とも狙い通り首元に当たり首を跳ね飛ばした。

 ここまで来るのにも街道に出てきた魔物を何匹も仕留めながら来たが、今世では今まで全く魔法を使っていなかったのに魔法の腕は衰えていないようだ。


 倒したビッグボアに近づいて鑑定をかけると、お肉も結構美味しいとでる。

 ぜひ持って行きたいがこれほど大きな魔物なだけあって、首を飛ばしたのでかなり血が出ている。

 異空間収納があるからそのまま冒険者ギルドに持って行って解体してもらうにしても、もう少し血が抜けてからの方がいいよね?

 それにこんな血が吹き出しているような状態の魔物、アイテムボックスは汚れないと言ってもなんか気持ち的に入れたくない。

 時間もちょうど良いので血抜きをしている間にお昼を食べることにする。


 まずは魔法でビッグボアを浮かせて木に吊るす。

 このままだと血の匂いに釣られて新たな魔物が来てしまうので結界魔法で覆っておこう。


 うーん。結界のおかげで血の匂いはしなくなったけど、これを見ながら食事はしたくないわね。

 結界で覆っているから盗まれる心配もないし、ビッグボアが目に入らないところまで少し移動して食事を取ることにした。


 お昼ご飯は午後の移動もあるから簡単に。 

 アイテムボックスからパンを出し、昨日焼いて取っておいたソーセージを1本挟む。

 あと昨日のスープも忘れずに皿によそう。

 昨日調理したものだけどアイテムボックスに入れておいたので出来立てほやほやだ。


 ゆっくり食べてお茶を飲み、一息ついたら1時間ほど経っていたのでビッグボアの元へ戻ると、まだ血が出ているが先ほどよりも少なくなっていた。

 後は冒険者ギルドの人に任せよう。

 吊るされているビッグボアを3匹とも下ろし、アイテムボックスに入れ街道を走りだす。


 テスパトールに着くのは夜になるかと思っていたが、辺りがうす暗くなってくるころには門が見えはじめていた。

 門番の人に不審がられるのは嫌なので、門に着くちょっと手前からはスピードを落として進む。


「身分証は?」


 テスパトールには泊まる予定だし騒がれたくないので公爵家の紋章入りバッジは使いたくない。


「身分証は持ってませんが、この町で冒険者ギルドに登録する予定です」


 冒険者ギルドのカードは身分証になるみたいだからね。


「じゃあこの玉に手を置いて」


 この玉は普通は青、犯罪者などは赤に光って知らせてくれる玉らしい。


 それって私やばくない?

 冤罪だけど、一応第二王子の恋人の毒殺未遂で国外追放になっているんだけど。


 どうしよう、と思いつつ、国外追放になったから国境に向かってるんだし、逃げてるわけじゃ無いから大丈夫よね。と玉の上に手を置いた。


 玉は青に光り、ホッとして手を下ろす。

 よかった。

 そりゃ国外追放になったのに国境に向かう途中で玉が赤に光って通れなかったら国外にすら出られないわよね。きっと私が国外に出てからこっそり戻って来れないように赤く光るようになるんだわ。


 もう暗くなってきているが、お金がなければ宿にも泊まれない。

 とりあえずジュエリーはちゃんとしたお店で売りたいから明日いくつかお店に行って査定してもらうとして、今夜の宿代を作るために冒険者ギルドに行って登録と魔物の買取をしてもらっちゃおう。


 そう思い門番さんに冒険者ギルドの場所を聞いたら快く教えてくれた。

 依頼を受けた冒険者が町の外に出やすいように門からはそんなに遠くないみたいだ。


 あれから大通り沿いを15分ほど歩くと冒険者ギルドらしき建物が見えてきた。


「……冒険者ギルド、って書いてある。ここで合ってるわね」


 重い木の扉を開けるとカランコロンとベルが鳴った。


 右がギルド職員がいるカウンターになっていて、左は酒場になっているみたい。

 今日は時間が遅いからかカウンターは空いていて酒場のほうは賑わっている。


「すみません、冒険者登録をお願いします」


 入り口から1番近いカウンターのお姉さんに声をかける。


「かしこまりました。

こちらの紙に記入をお願いします」


 名前と出身地と特技ね。

 名前は本名だとまずいからオレリアから取ってリア。出身地は町名を書いた方がいいんだろうけどあんまり細かく書きたく無い。ルボワール王国でいいや。特技は魔法っと。

 これなら誰が見たって私ってバレないでしょ! みんな私は魔法が使えないと思っているし。


「記入終わりました」


「はい、ありがとうございます。

……わ! 魔法が使えるんですね!

なかなか戦闘に使えるほど魔法が得意な方がいないので歓迎します!」


 魔力は生まれつきみんな持っているが魔法をきちんと使える人はそれほどいない。

 大体は1日に何度か火を起こせるとか、コップ一杯の水を出せるとか、そんなもんなのだ。


 受付のお姉さんの声が聞こえたのか酒場にいる冒険者たちがチラチラとこちらを伺っている。

 魔法使いがパーティーにいるとかなり有利になるらしいのでそれでだろう。


「では魔力登録をするので、最後にこちらに手を乗せてください」


 町に入る時に使った玉に似ているが、これは冒険者ギルドに魔力を登録するものらしい。

 手を乗せるとピカッと光った。


「こちらが冒険者カードです。

再発行には5千リルかかるので無くさないように気をつけてくださいね。こちらで以上です」


 カードは赤銅色で名前とランクが書いてある。

 冒険者ランクはFからSランクまであり、受けた依頼のポイントや買取に出した魔物の強さ、素材の希少性でランクアップするらしい。

 私は登録したてなのでFランクだ。


「買取もお願いしたいんですけどいいですか?」


「買取ですか?

ではこちらに出してください」


  殆どの荷物はアイテムボックスに入っていて、飲み水などが入った小さなカバン1つしか持っていないのでカウンターで大丈夫だと思ったのだろう。

 受付のお姉さんがカウンターを指すが、ここに来るまでの2日間で街道に出た魔物は全て狩って持ってきているので全く乗りそうもない。


「え?でも……」


 そう言って私のカバンを見るので、大きい声は出さないでくださいね。と前置きをして小声で言った。


「アイテムボックスが使えるんです」


「あ!? アイテ……!?

……失礼しました。

でしたら裏の解体用倉庫までお願いします」


 おーーーい!!

 お姉さん、大きな声出さないでって言ったのに!!

途中まで言っちゃったよ。

 さっきから聞き耳立ててた酒場の冒険者達にも絶対に聞こえている。

 小さいカバン1つなのに倉庫になんて向かったら勘がいい人なら私がアイテムボックスを使えるって気がつくだろう。


 今更考えても仕方ない、とりあえず買い取りは今日してもらわないと。


 帰りのことを考えてはぁ、とため息を吐くと、お姉さんの後に続いて裏の倉庫へと向かった。

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