第4話


 これから大森林を通って隣国に向かうけど、まだ家で匿っていると思われたら困るから私が国外に出たとわかるように髪色や瞳の色などの特徴はそのままにして王都の門や国境を通ることにした。


 貴族街を通り抜ける時は慎重に。 

 私が国外追放を命じられた舞踏会は殆どの貴族が参加するほど規模の大きなものだったからみんなに知られている。

 公爵家をよく思っていない貴族もいるから気をつけないと何をされるかわからないわ。貴族街はみんな馬車を使うから歩いてる人なんてほとんどいないしそのままだと目立ってしまう。

 とりあえず王都の門までは認識阻害と気配遮断に加え、身体強化を使ってさくっと向かおう。


 貴族街と平民街を通り抜けて王都を囲う門に着く。

 認識阻害と気配遮断の使用をやめてローブを取ると多少周りが騒がしくなったけれど、まぁこの程度なら大丈夫でしょう。

 歩いて王都を出るのは冒険者などの平民ばかりなのだけれど、その中に貴族だった私が混ざると髪の長さや艶、荒れのない肌や手、服の仕立ての違いで、いくら動きやすい服を着てきたからといって目立つのだ。


 そんなことを考えているうちにあっという間に私の番が来た。


「身分証はありますか?」


 門番にそう聞かれたので家から持ってきた公爵家の紋章が彫られたバッジを見せる。


 いくら身綺麗にしているとはいえ、高位貴族の女性が1人でこんなところにいるとは思わなかったのだろう。一瞬ギョッとした顔をされたが、貴族に余計なことは聞かない方がいいと思ったのかあっさり通してくれた。


 これで私が王都の外に出たというのは覚えてもらえただろう。  

 紋章の彫られたバッジはこの国の国境を出るところまでは使わせてもらおう。


 ここからは街道を通って国境を目指す。

 国境までは大きな町がいくつかあって、その間にぽつぽつと沢山の小さな町や村がある。

 お金をもっていないから大きな町に寄ってジュエリーを換金しなければ食料も買えなければ宿にも泊まれないし、とりあえずは国境までの道のりで最初に通る大きな町テスパトールを目指して進もう。

 しかたがないけれど、テスパトールでジュエリーを換金するまでは夜は街道沿いで野営をして過ごさなければ。

 幸い公爵家の倉庫から持ってきた野営道具もあるし魔法も使える。前世の記憶もあるしこれなら何とか野営もできるでしょう。


 あれからできる限り早く進めるだけ進もうと、食事以外は身体強化とヒールを使いひたすら街道を走ってきた。

 街道を走っているとはいえ魔物にも遭遇したのでサクッと魔法で倒しアイテムボックスにしまった。

 そろそろ暗くなってくるから野営の準備をしなければ。

 野営場所を探しながら進むこと15分。街道が開けている場所があった。何組か馬車やテントが見えるからみんなここで野営をしているんだろう。

 暗くなってきているのでここで野営することに決めて端の方の空いているスペースを探し、とりあえずアイテムボックスからテントを取り出し設置する。


「後は食事ね」


 枝を拾い集め魔法で乾燥させ、火をつける。

 まだまだアイテムボックスにはそのまま食べられる食料が沢山入っているが、1日中走り通しだったんだもの夕食くらい調理した温かいものが食べたい。


 串にソーセージを刺し焚き火で炙りつつ、鍋を出し風魔法でカットした野菜とベーコンをたっぷり入れてコトコト煮込む。

 スープはアイテムボックスに入れておけば良いので、いつでも食べられるようにたっぷりと作っておく。

 ソーセージは皮がパリッと美味しそうに焼け、蓋をして20分ほど煮込んだスープは野菜がトロトロになって美味しそうだ。


「いただきます」


 まずはソーセージから。齧り付くと皮がパリッと裂け肉汁が溢れ出す。


「はふっ、美味しい……!」


 今世では料理人が調理した後、毒見をしてから出された少し冷めた料理しか食べてこなかったからね。

 それもそれで美味しかったけれど出来立ての熱々の料理は格別に美味しく感じる。


「スープの出来はどうかな」


 ひとくち口に含むとベーコンと野菜の旨味が口いっぱいに広がる。

 1日中歩いた体に染み渡るようだ。

 アイテムボックスからパンを取り出し浸しながら食べるとパンからスープがジュワッと染み出してそれもまた美味しい。


「すみません、さっきからすごく美味しそうな匂いがして。

もしよろしければスープを売っていただけませんか?」


 黙々と食事をしていると、50代くらいだろうか? 先ほど周りを見回した時に隣で野営準備をしていた商人風の男性から声をかけられた。


 はじめは警戒しのたが、貴族社会で揉まれて身につけた観察力でみても、どうやら本当にスープが欲しいだけのようだ。

 1杯200リルで護衛の冒険者5人の分も含めて6杯欲しいと言う。


「たくさん作ったので、どうぞ」


 1200リル。思わぬのところで現金が手に入った。

 今世では初めて手にしたお金だわ! 今までは自分で支払いをしたことがなかったからね。

 大銀貨1枚で1000リル、銀貨1枚で100リルなので大銀貨1枚と銀貨2枚を受け取った。 


 このおじさんはラムダさんといってテスパトールに店を持つ商人で仕入れが終わり町に戻る途中のようだ。

 ラムダさんに聞くとテスパトールはそこそこ治安もよく、王都から国境に向かう時に一番近い大規模な町なので割と栄えてもいるようだ。


 私のような女が1人で旅をしていることを心配され、話の流れで魔法が使えるから街道に出てきた魔物を何匹か狩ってアイテムボックスにしまってあるというと、使える人が少ないアイテムボックスを使えることに驚きつつ買取と解体をしてくれるから冒険者ギルドに登録するのをオススメされた。

 登録の名前は本名じゃなくても大丈夫そうなのでテスパトールに着いたら冒険者ギルドにも行くことにする。


 しばらく話をして、もしテスパトールに行くなら一緒に行かないかと誘われたが身体強化を使って向かうのでとお断りした。

 アイテムボックスを使えると言ったのでかなりできる魔法使いだと思われたのだろう。

 ラムダさんは残念そうな顔をしたが、もし何か必要なものがあればうちの店に来てくれ。安くしておくよ。と言ってくれたので必要なものがあったら、と約束してその日は別れた。

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