第3話


「さて、どうしようかしら」


 お父様はこのまま家にいていいと言っているけれど、第二王子からの命令で国王陛下も認めているんだものこのまま家にいたら家族に迷惑がかかるわ。

 それどころか罪人を匿ったと家族まで罪に問われるかもしれない。

 それは避けなければ。……となったらやっぱり国外に出ることは必須よね。


 私の住んでいるルボワール王国は大陸の海側に面しており、隣国との間には強い魔物が多く住む大森林が広がっている。 

 一部森が途切れて道になっている箇所もあるがそこを通るには腕利きの冒険者や護衛を何人も雇わなければならない。そのため他国との交流や交易は主に船で行なっているのだ。


 この大森林は未だ開拓できていないのでどちらの領土にもなっておらず、ルボワール王国も隣国も幾度となく兵を送り込んでいるが全て失敗に終わっている。


 うーん、こう考えると船で他国に行くしかないのよね。

冒険者を雇って隣国に行くのは現実的じゃないし。

 身分もなくなるし、行くなら治安の良い国がいいよね。治安が良い国となると隣国のラルージュ帝国かちょっと遠いけどセフィーロ神聖教国かしら。けどセフィーロ神聖教国は宗教色が強いと聞くし、やっぱりラルージュ帝国かな。


 そうと決まれば早い方がいい。隣国へ船で行くことにしたと、さっそく夕食の時に家族に伝えた。

3人とも悲しんでいたが隣国はルボワール王国よりも大きく治安も良い国なので納得はしてもらえたようだ。


「オレリアは商船にはツテがないだろう?

私が知り合いの商会に船の手配を頼んでみるよ」


 お父様は公爵として色々な仕事をしているから交友関係が広い。そんなお父様がこう言ってくれたので船の手配はお願いすることにした。


 次の日は朝早くからお父様が出かけていった。

 さっそく隣国まで乗せてくれる船を探しに行ってくれたのだろう。私はその間に準備でもしようとお母様に持って行ってもいい物を聞きとりあえず倉庫に集める。


 持っていくものを選んだり纏めたりしているうちにあっという間に時間は過ぎたが、朝早くに出ていったはずのお父様がなかなか帰ってこない。

 お母様とお兄様と心配して待っていたら夕食ギリギリの時間になって帰ってきたが、お父様の顔は暗かった。


「すまない。助けになりたいが王族に睨まれてしまうと断られた。王と第二王子が手を回しているようだ」


 そうお父様は言った。

 隣国へ乗せてくれる船を探したが見つからなかったので他の国でも良いからと聞いてみたがダメだった。

 これはおかしいと思い、馴染みの商会の商会長に話を聞いたらこっそり教えてもらったそうだ。


 船が使えないなら仕方がない。リスクは高いけれど諦めて大森林を通って隣国まで行くしかないわ。


 大森林は強い魔物がものすごく多いから船に比べたら格段に危険は多い。お父様ができる限り沢山護衛の腕利き冒険者を探してくる! と言っていたが、こちらも上手くいかなかった。


「だめだ。冒険者にも王と第二王子の手が回っている。

婚約破棄に国外追放だけでは飽き足らず、オレリアに死ねと言うのか!!」


 船もダメ、冒険者もダメとなると、大森林を1人で通って隣国へ行くしかないが、強い魔物がうじゃうじゃいる大森林を1人で行くなんて自殺行為だ。国外追放だなんて言っているが事実上の死刑だ。

 魔法がそれなりに使える者なら可能かも知れないが、私が魔法を使えなかったのは知っているはずなのに。


「なんとか方法を考えてみるから」


 そうお父様は言ってくれたけれど、もうどうにもならないだろう。


 国外追放になったのにいつまでも家にいるのはまずい。

 お父様は倒れた娘の体調が良くなるまではと説明してくれているようだが、何度も第二王子と国王陛下から娘を家から出せと使者が来ていると屋敷の侍女が心配そうに言っているのを耳にした。

 もうそろそろ限界だ。このままでは罪人を匿っていると家族まで罪に問われてしまう。


 今日の夜、家を出よう。


 そう決めたが時間がない。

家族にバレたら止められてしまうからこっそりと準備を進める必要があるわ。

 夕飯をいつものように家族でとり、気分がすぐれないから早めに寝ると伝えて部屋に戻って急いで荷造りをする。


 記憶通りアイテムボックスを使ってみたら上手くいった。

心配だったので始めは棚に飾っていた置物を試しに出し入れしてみたが大丈夫そうだ。

 幸い今世も魔力が多いので容量は沢山あるし時間停止もつけられそう。


 とりあえずまずは持っている服の中でも動きやすそうなものを探してアイテムボックスに入れていく。

 こんな事が起こるなんて思っていなかったから持っている服はドレスばかりだし、収納は侍女のサーラに頼んでいたから何がどこにあるのかもわからないので苦労した。


 服が終わったら下着や靴、クシに鏡まで、とりあえず必要そうなものを片っ端からアイテムボックスに入れていく。


「まるで物取りが入った部屋のようだわ」


 何がどこにあるのかわからず、あまり時間もない中片っ端から引っ張り出してアイテムボックスに突っ込んだので部屋が酷いことにっている。

 サーラが見たらショックでひっくり返りそうね。


「次は食料ね」


 みんなが寝静まった後に念のため認識阻害と気配遮断を使い食料庫に向かう。  

 食料庫の場所は知っていたけど今までは特に用事もなかったから来たことがなかった。さすが公爵家の食料庫。なんでもあるわ。


 隣国まで歩きで行くとなるとそれなりの日数がかかるもの、その分の食料を持っていかないと。

 異空間収納に入れておけば時間は停止するので日持ちは気にせず米、小麦、肉、魚、野菜とバランスよく入れる。

今日の余りのパンだろうか?

 焼いてあるパンを見つけたのでこれも全てアイテムボックスに入れる。



 あ! あと調理器具もないとね。


 料理人達には申し訳ないけれど、鍋やフライパン、お玉に包丁やまな板と、一通り調理器具をアイテムボックスに入れていく。

 あとお皿とカトラリーも持っていかないとね。


 高位貴族令嬢が料理なんてできるの?と思うかもしれないが、もちろん今世では料理なんてしたことがない。

 でも前世でアデライト・アールグレーンだった時は叙爵するまで平民だったからもちろん料理も自分でしていた。魔法も記憶通りやればできたので料理もきっとできるだろう。


 次に倉庫に向かうと事前にお母様に聞いて準備しておいた荷物をしまう。その他にも野営する事を考えてテントや毛布、椅子なども貰っておこう。


 あとは隣国に到着した後に家を借りたり、必要なものを買い足したりするためにお金が必要だ。

 だけど今までは家まで商人が来て買い物をしていたし、支払いは侍女がやっていたのでお金を持っていない。

 うーん、とりあえず思い入れのないジュエリーを持っていこう。売ってお金にすればいいや。


 そして家を出る前に家族に手紙を書いた。 

 朝になって急に私がいなくなってたら心配すると思うから。


 隣国に向かうということ。

 こんなことになって迷惑をかけてしまったことへの謝罪。そして今までの感謝。

 無事着いて住む場所が決まり落ち着いたら手紙を送ります。と書き、見つけやすいように机の上に置く。


 これから長時間歩かないといけないことを考えて動きやすいように乗馬用にあつらえた服を着て、足も膝下までの皮の編み上げブーツを履いた。


 よし、これで準備は完璧。


 今までありがとうございました。

そう心の中で呟き頭をさげると、認識阻害と気配遮断を使い屋敷を出た。

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