第2話
……う、ん?ここは……私の部屋だわ。
そうだ、昨日の舞踏会!
あの後どうやって帰ってきたのか記憶がないけれど自室のベットで寝ている。昨日は家族も一緒に参加したから誰かが運んでくれたのかしら。
それにしても大変なことになってしまったわ。
婚約破棄の上国外追放だなんて!
「痛っ!」
突然の頭の痛みに思わず手を当てる。
頭痛と共に昨日倒れる瞬間、頭に記憶が流れ込んできたことを思い出す。
なんなの! この記憶。
私には全く覚えのない記憶ばかりだ。
なのに何故か鮮明に思い出せる。
……これは、この公爵家を興した伝説の魔法使い、アデライト・アールグレーンの記憶だわ。
そうだわ、わたし、アデライト・アールグレーンだったんだわ。
私、婚約破棄と国外追放のショックで頭がおかしくなっちゃったのかしら? なんて思ったけど、アデライトの記憶を思い返すと、そうそうこんなこともあったわ! なんて自分のことのように思うし、何より今までどう頑張っても全く使えなかった魔法が記憶の通りに魔力制御をしたらすぐ使えたのだ。
起きたばかりで喉が渇いていたから、手のひらに水を出そうと魔法を使ったらすんなり水が出てきた。
私は魔力がものすごく多いみたいで今までは膨大な魔力を無意識に抑え込もうとして魔法が使えなかったみたいね。
でも伝説の魔法使いだった記憶が戻った私には魔力操作くらいなんてことなかった。
コンコンッと部屋の扉を叩く音が聞こえ侍女が入ってくる。
「失礼します。
……っお嬢様!目を覚まされたのですか!」
彼女は私付きの侍女サーラ。
私が眠っている間も看病してくれていたようで水桶と体を拭く布をもってきてくれたみたいだ。
私を見たサーラは安堵からか目に涙を浮かべている。
「えぇ、心配をかけてしまってごめんなさい。
お父様とお母様、それにお兄様はいるかしら?」
そう聞くとサーラは、お嬢様が起きたことを伝えてきます! と急いで部屋を出て行った。
「オレリア! よかった、目を覚ましたのね!」
サーラが部屋を出てから5分ほどだろうか。
私が起きたと聞いて急いで3人が部屋に来てくれたが、顔色も悪く疲れも見える。
状況はあまり良くなさそうね。
なんと私はあれから2日間も寝込んでいたみたい。
みんなにはかなり心配をかけてしまった。
「お父様、お母様、お兄様、迷惑をかけてごめんなさい。
私は会場で倒れてしまったから、あれからどうなったのかが知りたいの」
そういうとお父様は一瞬どう伝えるか迷うような顔をしたが、誤魔化すことはできないと思ったのだろう。最初から順にあの後のことを話してくれた。
殿下が私に国外追放を言い渡した時、3人は周りで見ていたが相手が王族だったので口を挟めなかったそうだ。
私が倒れた後はお父様が運んでくれてすぐに馬車で家に帰ってきたみたい。殿下は倒れたふりだとかあーだこーだ言っていたみたいだけどそこはどうにかお父様が連れ出してくれたという。
「次の日には国王陛下に連絡をしてオレリアは毒を盛ったりしていないと説明し、せめて国外追放は取り消してもらおうとしたがダメだったよ。
王家はもともと才能のある魔法使いの血を欲して有能な魔法使いが多い我が家のお前を婚約者にしたが、お前は魔法が使えなかった。
第二王子の新たなお相手のシャルロッテは男爵令嬢だが爵位の割に魔法が得意なことで有名だ。
婚約破棄も国外追放も王子が勝手に言っていることだと思って陛下に連絡したが、陛下もこの機会に魔法が得意なシャルロッテを取り込もうとしているようだ」
そんな……。
あ! でも私、アデライトの記憶を思い出して魔法が使えるようになったわ!魔法使いを王家が欲しているならこれでどうにかなるかもしれない! あのシャルロッテという令嬢より私の方が魔力が多いし身分も高い。そうなったら才能ある魔法使いを欲している王家は私を殿下の婚約者に戻すはず。
幼い頃から将来殿下をお支えできるようにと子どもらしい遊びもせずにひたすら妃教育を頑張ってきた私を捨てた、あの殿下の婚約者に。
幼い頃から婚約者として一緒にいたが、恋心を抱いたことなどお互いに一度もなかった。そもそも殿下の女性の好みに私は全く当てはまらないのだ。
殿下の恋人のシャルロッテさんはウェーブのかかったふわふわな薄茶のロングヘアに、薄紅のぱっちりとした瞳。小柄でとても可愛らしい見た目だ。それに比べて私は真っ直ぐな黒髪につり気味の薄灰色の瞳で正直地味な色合いだ。身長も女性にしては高い方に入ると思う。
それに私も殿下を支えなければと思ったことはあっても一緒にいたいだとか好きだとかは思ったことがない。
うん、やっぱり婚約者に戻っても上手くいくとは思えない。魔法が使えるようになったというのは内緒にしておこう。
そもそも伝説の魔法使いアデライト・アールグレーンの生まれ変わりですなんて話しても信じてもらえないと思う。婚約破棄と国外追放のショックで頭がおかしくなったと思われてしまう。
つい考え込み過ぎてしまったらみんな私がショックで言葉も出ないのだろうと思ったようで次々に慰めの言葉をくれた。
お父様なんて冤罪なんだから国外追放なんて聞く必要はない! ずっとうちにいていい、なんて言っている。
「お父様、お母様、お兄様。慰めてくれてありがとう。
今日はこれからどうするのか1人でゆっくり考えようと思うわ」
お母さまは私を1人にするのを躊躇っていたが、1人で考える時間も必要だろうとの父の声で夕食をみんなで一緒に取る約束をして部屋から出て行った。
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