第5話
「まずは、肉体的な性別を組み替えてみた場合だね」
響木先生は手元のメモ帳にささっと図を書いていく。
「肉体的には女の子で、でも性自認は男のままだし同じ男子を好きになる。これは『普通』かな?」
「え? えと……」
おれは頭の中で考えを組み立てる。ええと、この場合は見た目は女子だから……
「……『普通』?」
「じゃあ、その状態で女の子を好きになる場合は?」
え……と頭の回転に急ブレーキがかかった。
「だ、だって、それは流石におかし……」
「どうして? その場合本人は男の子として女の子を好きになっているんだよ? 何の問題があるのかな?」
「え、でも……だって見た目が……」
「うん。見た目からは分からないね」
響木先生はニヤリ、と意地悪く笑った。
「これで、性自認が常に固定されている訳ではなく誰もが常に揺れ動く可能性があること。性的嗜好の中にはエイセクシュアルのように基本的に性欲を抱かなかったり、デミセクシュアルやサピオセクシュアルのように特定の相手にのみ強い興味を示す場合があること。そして、男性としての要素と女性としての要素は必ずしも半々ではなく、個人によって差違があること。
……こうしたデータを付け加えると訳が分からなくなっちゃうだろう? しかも、みんな外側からは見えないものや分からないものばかりなんだから」
ぅっ…………
おれは悔しくなって響木先生から目を逸らす。……考え過ぎかもしれないけど、なんだか上手く『罠』にはめられたような気がして。
そんなおれの頭を先生はぽふ、ぽふと優しく撫でてきた。
「……性の在り方だけじゃない。好きなものも、嫌いなものも、口癖も、ひととの距離の取り方も、受け入れ方も、それぞれに一人ずつ違う。誰かと全く同じ人間なんて、たぶん地球上のどこを探したっていないし、見つけたと言い張るならそれは相手の違う部分を無視しているだけなんだ。
みんな違っているのが『当たり前』で『普通』なんだよ」
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