第3話
言った。
言っちゃった。
おれはホモなんだって。おかしいんだって。今まで誰にも言わなかったのに。親にも秘密にしてたのに。
響木先生はどんな顔をしてるんだろう。気持ち悪いって思ってるんだろうか。こんなホモなんかの近くにいたくないって思ってるんだろうか。嫌だ。胸の中がグチャグチャする。嫌だ。泣きたい。吐きたい。言わなきゃ良かった。死ねば良かった。おれなんか死ねば良かった。もっと。もっと普通に生まれたかった。なのに。何で。なんで……
「……普通、って?」
だから、響木先生にそう聞き返された時、おれはすぐに答えられなかった。頭の中でグルグル考えてて、上手く返事が出来なかった。「はっ、はい……!?」
「弓槻くんは『普通』になりたいって言ったね。なら、君の言う『普通』とはなんだろう」
「えっ……」
そんなの、考えたこと無かった……「あ、あの、普通の人は男なら女を好きになって、結婚して、子どもを産んで……それで……」
「じゃあ結婚していない人は全員『普通』じゃないのかな? 独身である僕のこともそう言える?」
「えっ……違う、ますっ……」
おれはあせって変な敬語を使ってしまう。でも響木先生はそこにはこだわらず、何でもないような口調で話を続けてくれた。
「結婚して、子どもを産んで、そうして社会に貢献していく……それ自体は何も間違っていないんだけれど、生き方の選択肢がそれしか無いように感じるのは優生思想の影響もあるのかもしれないね」
「……? ゆうせい、思想……?」
きょとんと首をかしげるおれに響木先生はふふっと笑った。
「……完全な男性、もしくは完全な女性しか認めない社会のことさ。元々は欧米で生まれた思想なんだが、現代の日本においてもまだ根強く残っている考え方なんだ。
西洋医学は基本的にこの思想に基づいているから、本来なら治療の必要が無い同性愛者に対しても強引に改変してしまおうと薬や手術を試みるんだ。嫌がる相手に対して『普通の人間』になりなさい、とね」
………………
なんだか身体が寒くなったように感じた。エアコンが効きすぎている訳でもないのに、ぞくっとする感じ。
……ひょっとして、おれ、怖がってる? でも何で? 何が怖いんだ?
「……さて」
そんなおれに優しく微笑んでくれると、響木先生は落ち着いた声でこう言ってきた。
「じゃあ『同性愛者』や『異性愛者』というのは、誰がどうやって決めるんだろう?」
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