第2話
「すいません……」
そう言って保健室に入ってきた男子生徒を目にした途端、僕は眉間に皺を寄せてしまった。
……弓槻 藤治くん。
帰宅部の一年生だが、入学からまだ二ヶ月も経っていないというのにもう保健室の常連と化している。担任の教諭とも何度か話してみたのだが、繊細な部分があるためまだ中学校に慣れていないのではないか、という様子見発言を繰り返すばかりだ。
「……あの、なんか、腹痛くて……休んでていい、ですか?」
チラチラとこちらを窺うその様子からは、媚びているというより不安で仕方ない、という印象を抱く。間違いなく何かしらの悩みがあるのだろうが、なかなかそれを話してはくれない。
だから、僕は別のアプローチを試してみることにした。
「ああ、勿論構わないけれど……弓槻くん。君、体育が苦手なのかい?」
僕の言葉に彼はあからさまにびくりと身体を震わせる。
……やはり、か。
弓槻くんが保健室にやって来るのは決まって週三回。担任に確認したところ、全て体育の時間帯だった。
最初の頃こそクラスメートが心配して覗きに来てくれてはいたが、最近はそれも無い。彼の実際の運動能力がどの程度のものかは知らないが、このままの状況が続けば成績も危うくなるし、何より自身のクラス内での孤立を加速させるだけだ。そこからいじめ問題へと発展するには時間はかからないだろう。そんな事態は絶対に防がなければ。
「………………」
弓槻くんは黙って保健室の入り口でうつむいていたが、やがて中に入ってくるとドアを丁寧に閉めて僕の隣の椅子に腰かけた。
「…………響木先生」
「ん?」
「……絶対、誰にも言わない……?」
「そうだなぁ……」
僕は彼の目をじっと見つめながら、頭の中で言葉を選ぶ。
「話の内容を知らないままで約束は出来ない。でも、養護教諭として君を傷つけたくないから、話す相手は慎重に選ぶつもりではある。……それでどうかな?」
「………………」
弓槻くんはしばらく押し黙ったままだったが、やがてぽつりと口を開いた。
「…………おれ、ホモなんです。クラスの友達の着替えとかじっと見ちゃうし、そんな自分がすごい嫌だからここに来て、でも、普通の友達も欲しくて……!
あのっ……おれ、どうしたら『普通』になれますかっ!?」
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