おれはおかしい

横倉 悟

第1話

 おれはおかしいのかもしれない。そう思ったのはいつからだろう。

 たとえば、体育の着替えの時に友だちのほうをじっと見ちゃう。がっしりした先生や男のひとがいるとなんだかぼうっとしちゃう。


「トウジってさ、クラスの女子ならぶっちゃけだれが一番気になる? お前いつも彼女ほしいって言ってるじゃん。なあ、だれ?」


 去年の六年生の修学旅行の時も、友だちからそう聞かれて上手く答えられなかった。なんだかモニョモニョごまかしてたら「なんだよ、ノリ悪ぃなー」なんて言われたけどそっちのほうがマシだ。


 だって、おれはたぶんホモってやつだから。男なのに男が好きっていうイジョーシャだから。それがバレたらどうなると思う?

 ……ぜったい、いじめられる。笑われる。バカにされる。そんなホモなんか気持ち悪いだけじゃん。いやがられるじゃん。いるだけで迷惑じゃん。いくら「差別はよくない」とか「みんな平等に生きる権利がある」とか言っても、それはひとごとだからだ。自分に関係ないうちはそんな意識高いこと言えるけど、自分のすぐそばにそんなホモがいたらみんなイヤだって思うよ。それが普通なんだから。ホモなんかに生まれたおれが悪いんだから。


 だから、おれはウソをつく。女の子が好きなんだよ、彼女がほしいよって言うことにしてる。そうすれば怪しまれないから。自分でそう言い続けていれば、いつか『普通』になれる筈だから。


 そうだよ。おれはおかしいよ。ホモなんておかしいよ。だから、おかしくない『普通』のフリをしていなきゃいけないんだよ。ずっと、ずっと。



 死ぬまで、ずっと。

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