第5話 いまいちなデート

「デートって釣りなのぉ?」


 近所の防波堤に、俺と初女は並び立つ。

 釣り竿を握って釣り糸を海に垂らす。


「悪いな。俺は遊び方をこれしか知らない」


 俺の住んでいる町は海際の街。そんな場所に当然若者が喜ぶような娯楽施設はなく、休日になると男どもは釣りをして暇をつぶす。


「せっかくデートのコーデをしてきてくれたみたいで申し訳ない」


 初女はフリルのたくさんついたピンクのお姫様のような恰好をしていた。

 いかにもアイドルの休日と言った感じだ。


「もう……!」


 不満だろう。

 頬を膨らませて、ルアーを海に向かって投げる。


(やるんだ……)


 釣り竿を投げ捨ててもいいものなのに、素直に釣りに興じてくれている。

 

 都会との往復のアイドル活動で心身疲労しているだろうに。


「あ~、もう! これってやり方どうやるの⁉」

「海底にルアーが落ちるのを待って、それからゆっくりとリールを巻く。それだけでいい」

「全然おしゃれじゃない!」


 初女は、釣り竿を握りしめしばらく待ち。リールが動かなくなったら巻き始めた。


(やるんだ……)


「なぁ、無理にやらなくていいんだぞ。つまらなかったらつまらないって言っていいんだぞ」

「つまらない!」

「だろうな、じゃあ……」

「でも、鶴来くんはこれが好きなんでしょ? じゃあ、私も知りたいもん。だからとりあえずやってみる」


 そう言って、真剣な目を海に向ける。


「…………そんなことをいってもらえるとは」

「だから、次は私の番ね? 私特撮とか漫画とかアニメとか好きなんだ。だから次は秋葉原デートね?」

「遠い。何キロあるんだと思ってるんだ……まぁ、愛海はそんな距離を平気で往復して仕事と学校両立させているんだけど」


 本当凄い、尊敬する。


「もう! やっと名前を呼んでくれたと思ったら名字⁉ ちゃんと初女って呼んでよ! それに……仕事と学校を両立させてるんじゃない! 仕事と恋愛を両立させているんだよ! 鶴来くん!」

「あ……」

「恋愛をするために、この街に来たんだから」


 本当、こいつ、どんだけ俺のことが好きなんだよ。


「そっか、わる」


「やあっと、み・つ・け・たぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~♪」


 野太い歌声に、俺の言葉が遮られる。


 路地に一人の男が立っている。


 太ってて、脂汗をタオルで拭き、そのタオルには「HAJIMELOVE」と刺繍がされている。


「ようやく見つけたぁよ。初女ちゃん……ダメじゃないかぁ、こんなところにいちゃ」

「………あんたが呼ぶんかい」

 

 初女の目が細められ、冷たくなる。

 タイミング的には最悪だった。

 名前を呼んでくれと言ったタイミングで全く関係ない、知らない男が呼んできたのだから。

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