第3話 理由 ~わけ~
波乱のホームルームが終わり、授業に入ったその間延々と男子共の怨嗟の視線を感じ続け、胃がキリキリと締め付けられた。
だが、そのストレスの時間も終わり。
俺は昼休みになるなり、愛海初女の手を引いて屋上へと向かった。
「昼休みに屋上にって……一緒にお弁当でも食べるの?」
そう言いながら、
ここは、普段は閉鎖している場所で、テープで階段と入り口をふさがれている。
だが、公然と不良共が剥がしたむろしているので、他の普通の生徒も剥がして屋上を利用している。
俺たちも同様だ。平然とテープをはがして屋上に来ている。
だって仕方がないだろう。
誰にも聞かれたくない話をするのに、これほど格好の場所はないのだから。
「どうして、俺なんだ?」
「ん? 何のこと?」
「俺はあんたのファンだ。だから、この展開が嫌だとは言うつもりは毛頭ない。棚から牡丹餅のような、飛び上がるほど嬉しい話だ。だけど……どうして俺だ? 冷静に考えると訳が分からない……俺はファンイベに参加したこともないんだぞ?」
「ハハハ……! 何言ってるの。約束してたじゃない」
「約束?」
「私、あなたにふさわしい人になって帰って来るって」
「帰る? ……は?」
「え、本当に覚えていないの?」
覚えていない? 何の話だ?
不安そうに初女の眉尻が下がる。
「子供の頃。よく男子からいじめられていたのを助けてくれたじゃない!」
「…………あああああああぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
思い……出した!
「お前! ジャイコかぁ!」
初女を指さす。
「そうだよ! 君の家の隣に住んでいた、
俺は、彼女と会ったことがあった。
小学2年生のころまで俺の家の隣に住んでいた。益子家の長女。
益子初女———当時は太っていて、「マスコ」という苗字から「コ」が一致していると言う理由だけで「ジャイコ」を連想させられて、いじめられてた。
そして、
「あの頃は辛かったけど……いじめられるたびに君が助けに来てくれて……嬉しかったぁ……」
「いや、それは、あれはその」
年齢一桁の男の子なんて、特撮ヒーロー大好きだ。
自分もそうありたいと体を鍛えて、弱いものを見つけるとすぐに助けに入った。
ジャイコはその常連さんだった。
ぶっちゃけ、助けたのはジャイコだけじゃない。その地域に住んでいるいじめられっこを見つけては、いらないおせっかいを焼いていた。流石にそんなことをやっていると誤介入も多くあり、ヒーローのつもりがただの迷惑野郎になり下がってしまったので、ジャイコがいなくなるとすぐにやめた。
「昔からずっと好きだったの! だけど、私真ん丸に太っていたし、まさに「ジャイ子」だったし、告白する勇気が出なくて……だから、転校を機に決めたの! 鶴来くんにふさわしいヒロインになって自分に自信をつけて告白しようって! ヒロインって言ったらアイドルでしょ? そのトップに立って、告白しようって!」
「極端すぎる!」
俺の叫びが屋上にこだまする。
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