また帰りに…

 サークルの帰りだった。また先輩に駅まで一緒に帰る事になった。

 サークルから一緒に帰るなんていつもの事。今日も先輩は自転車を押しながら同じ歩幅で歩く。


 「今日も面白かったですね、蓮先輩は」


 「あぁ、蓮は本当に馬鹿な奴だからな。大学生とは思えない程にな。まぁ、ああ言う奴が将来出世したりすると言うのが面白い所ではある。海外で出世しやすい人間のデータを見た事あるんだが、蓮は当てはまる項目が幾つもあった」


 「へぇ、凄いじゃないですか。それ」


 「あくまでデータだ。可能性はあるっていう話なだけだからな。できるかどうかなんて蓮次第だ」


 「でも、それも一つの才能だって思うと、凄い事ですよね」


 「才能…か」


 何か悟り始めた。


 「なぁ、蜜樹。才能で少し考えたんだが」


 「はい?」


 私は先輩の何かを考えている姿をじっと見る。そして2人共足が停まった。


 「どうしたんですか先輩?」


 また変な事話すんじゃないだろうか…


「人間って、凄い賢い生き物って思ったんだ。そう思わないか?」

 

 よかった…問題発言ではなくて…

 

 「…賢い…ですか?」


 「蓮は出世の才能があると言ってたよな。それで、そういう奴らには何かしらの共通点があり、蓮はそのいくつかに当てはまった。しかし、蓮がそんなチャンスを逃してしまうような奴だったら、それって勿体ないだろ?」


 「はい。でも先輩は、蓮先輩次第だって言ってましたよね?」


 「まぁな。人間って言うのは本来誰でも1つや2つ、何かよ才能があるんだろう。ただそれに気づかない人間なんて山程いるだろう。蓮だって自分がその才能を持っている事を自覚していないだろう。だからチャンスを取りこぼしたら勿体ないなって思った。俺達だって何かしらの才能はある筈……そうか!俺の中にもうちに秘めたる隠れた才能が眠っているだろう!あぁ、人間とは皆可能性大だ!」


 何を言ってるんだこの人…。また厨二発言をしだしたよ。ここではそれはやめて欲しいなぁ。


 「そ、そうですね。誰しも隠れた才能とかあるでしょうし」


 先輩の才能は、場を考えずに恥ずかしい事を平気で出来る才能ですね。


 「そうか!お前が色々と叫んだらするのは、内に秘めたるもう1人の俺がそうさせているのか!」


 「厨二発言はよそでやってください…」


 「俺、厨二なのか?」


 「それに自覚なしで出来るのも、先輩の才能ですね…」


 「そうか…俺にも何か気づかない才能があるかもしれん!今のうちに開花させなければ!これがきっと将来に繋がると思うと、なんだかテンション上がって来た!」


 また1人で盛り上がっている…。

 思えばこんなふうになってしまったのは、私のせいだろうか?私が告白してから、先輩は変わってしまった…

 いや、これは元々の性格なのかも。それが私のせいで何か覚醒して、本来の先輩の姿を露わにさせてしまったのかも。


 そして私達は再び足を動かして、駅まで向かった。


 「あぁ、先輩!もうそういうのは帰ってからしてくださいね」


 「そうか。わかった。そうする」


 「だからと言って犯罪に手を染めるような事とかしないでくださいね。それこそ、蓮先輩が言ってたように、警察にお世話にならない為にって。ゆっくり休んでくださいよ。今日は」


 「あっ、そういえばそれで思い出した」


 さっきまでの熱心に取り組んでいた厨二的行動からいつもの先輩に戻った。


 「求愛行動の続きについてなんだが…」


 隣にいたカップルが先輩の言葉に反応し、こちらに視線を向けて来た。

 

 「求愛行動がもたらす影響としては、新たな子孫の誕生。その遺伝子が受け継がれていく事によって、その子孫の意思に宿る」


 雑談をしていた主婦の方々が私達に気づく。


 「あいつの出世の才能の話にも繋がるのだが、もしかしたらアイツの両親にもそんな才能があったのなら、それは1つの運に恵まれていると思わないか?」


 土日休みで友達通しで戯れている学生達がこちらに気づく。


 「蓮の両親は決して社長や金持ちなどではないらしいんだが、アイツには出世の才能があるとすれば、どこでそんな才能を身につけたんだ?」


 真面目な会話をしているサラリーマン達がこちらを振り向いた。


 「……先輩…皆こっち見てます…」


 「俺達には何か自ら気付かない才能とやらに…」


 「先輩、ちょっと先輩やめてくださいよ!」


 「あぁ、俺の中にいるもう1人の俺とやら。答えてくれ!俺達は何者なんだ!」


 「もうやめてください!先輩!」


 そして足を停めた先輩。


 「………もう、家でやってくださいって言ったじゃないですか!」


 すると、何かに怯えているような、驚愕した表情になっていた先輩。汗が額からゆっくりと流れ落ち、手が震えている。


 「せ、先輩?大丈夫ですか?先輩!」


 「蜜樹…あれなんだっけ?お前がやってた現実に戻る方法っていうやつ」


 「いやいや、あれただのフリなんでやっても何も変わらないですって」


 「思い出した!」


 そして自分の頬をビンタした先輩。


 「これで目覚めるかもしれない!もう1人の俺が!」


 「何やってるんですか!」


 「さぁ!俺の才能を開花させる!」


 「ここではやらないでください!」


 周りが何やら見てはいけないものを見た雰囲気になってしまった。

 私は先輩を駅まで取り敢えず向かわせる。


 「もう!何やってるんですか!」


 「お前も知りたくないか?本当の自分を」


 「私はこれ以上知りたくないです…本当の姿の先輩を」


 「未だに俺の中に眠っている俺の正体が分からん…このままでは、朝も起きれん!」


 いや、夜は眠れるんだ…健康じゃないですか。


 「だったらゆっくり寝てください…」


 「そうだな…済まないな、こんな事に付き合わせてしまって」


 「本当にその通りですよ…」


 私は先輩を見送った後、真っ直ぐ帰れるか心配だったが、今日はまた先輩に振り回されて疲れたので、そのまま帰る事にした。



 

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オー・マイ・ゴッド 私が好きになった人が変態フィロソファーである 森ノ内 原 (前:言羽 ゲン @maeshin

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