変人です…

 私は先輩との駅でのやりとりが未だ恥ずかしくて思い出したくなかった。つい私も先輩のペースに乗せられてあんな事をしてしまった。かなり後悔している。


 「……恥ずっ」


 「何だ?」


 「いや、なんだか疲れました。先輩何であんな大声でいきなり叫んだんですか」


 「いや、分からん。俺の内なる何かが突き動かされて…」

 

 「あぁ分かりました分かりました」


 また独り言が長くなるだろうと思い途中で止めた。もうあんな事起きて欲しくないから。

 そういえばまた私の告白の返事が来てない。私の気持ち、ちゃんと伝わったのだろうか?


 「先輩…」


 「うん?どうした?疲れが限界まで達したのか?これ、乗って行くか?」


 「いや大丈夫です。それより…私への返事…」


 「返事?何の事だ?」


 えぇぇぇぇぇ!こんな風になっているのは私の告白からでしょ!?忘れるとか、ちゃんと聞いてなかったのかなぁ?先輩は!

 いやそんな事なかった筈。だって好きと答えた後に心がどうたらこうたら言ってたからちゃんと話は繋がってたんだ。

 ……いや繋がってはないか。だいぶ逸れてるわ。

 まぁ家に着いてからゆっくりと話を聞きましょ。その方があんなややこしい事なんて起きやしないだろうから。


 私が着いて行った先輩の家。なんか見た事あるような…


「着いた。ここだぞ」


 「え?先輩って!学生寮に住んでるんですか?」


 「あれ?サークルの時言わなかったか?あ、蜜樹だけ言ってなかったのか。確か、蜜樹が初めてサークル入ったのって先月だもんな」


 「はい、そうですよ。えっ?みんなには伝わってるんですか?」


 「あぁ、俺の同世代の奴らなんか皆で、俺の家で泊まって行ったりしてた。大学近いから泊まらせてとか言われてさ」


 「へぇ。いいなぁ。先輩の家で…」


 「俺の家で?」


 「あっ!いや、何でも!ありません!フン!」


 私は、先輩の家であんな事やこんな事をしている妄想に浸ってしまう所だった。だから思い切り自分にビンタした。


 「それは!今日教えてもらった集中力を高める方法のやつか!」


 「いや違います。現実に戻る為の方法です」


 「現実に戻る…お前まさか!異次元から来てるのか!?」


 さっきまで現実世界から遠い場所にいてブツブツ喋ってた人に言われた!


 「この世界の住人です!」


 プンプン!

 私はもう駅でのやりとりみたいな事はしたくないって思ってたばっかりだったのに。また先輩のペースに飲み込まれるのややこしい事になる。


 落ち着け私!一旦自分を落ち着かせよう。


 私は両手で頬を軽くポンポンと叩く。


 「!?。今のはどっちだ!」


 先輩が反応した。

 

 しまった。あーーー!またやっちゃった!


 「よし!俺も!フン!」


 さっき私がやってた、現実に戻る方法のビンタをやった。


 「やめてください!なんでやったんですか?」


 「いや、蜜樹さっき現実から戻ってくる為って言ってただろ?それが気になった。この世界は、仮想の世界なのかもしれない。だから現実を見る為に俺もと思ってな」

 

 「それって、先輩から見た今の私は幻か何かって事ですか?」


 「うーん。そういう事なのかも」


 「いや!否定してください!」


 「まぁこんな所で立ち話も何だし、上がれよ」


 何でそんなマイペースなんだ…


私は先輩の家にお邪魔する事となる。

 2階建ての寮であり、それぞれ5つ程ドアが並んでいた。先輩は2階の丁度真ん中だった。


 「まぁ狭いけど、どうぞ上がって」


 「お邪魔しまーす」


 もう玄関から中の部屋が見えるようになっており、殆ど物なんて置いてなかった。

 綺麗な部屋には勉強用に置いてある白いデスクが壁際に設置してあり、後はキッチン、トイレと風呂一緒のドアがある。


 「靴は脱いで上がれよ」


 「当たり前です…」


 何故そんな事言ったのかわからないが、常識通りに私は靴を脱いだ。


 白いデスクには何冊か本が並んであり、見た事ない本だった。


 「へぇ、色んな本を読むんです……ね」


 『宇宙の歴史』

 『宇宙の仕組みを知る』

 『星座の事が学べる大図鑑』

『未だに謎 ファンタジーミステリー 星達の姿とは?』

『精神は鍛える』

『貴方の未来教えます。幸せである意味』

『この世の苦しみから解放される人』

『幸福論』

『ザ・スピリチュアルワールド』


初めの方は宇宙に興味があったのかと理解できる本が並んでいたが、途中から大学生が読むような本ではない気がする物が存在していた。

 鬱なのか…先輩は…


「適当に読んでいいぞ」


 「あぁ、大丈夫です。私は…」


 先輩は緑茶を注いでくれていた。

 持ってきてくれたお茶を、持ち手のない丸いコップに入れて持ってきてくれた。


 おばあちゃんとかが使いそうなコップ…。みんなこれに入れて飲んでるんだ…。


 「ありがとうございます」


 私は机に置かれたお茶を頂く為机に向かった。

 

 「しかし珍しいなぁ、今日真っ直ぐ帰らず寄り道とは」


 まぁ色々ありましたからねぇ…


 「ま、まぁ…」


 「俺も女の子を家に連れてくるなんて初めてだから色々分からん」


 「そんなんですか?」


 って事は…もしかして先輩!彼女とか今までいなかった!?

 中身は少しアレだが、美貌がある人物は異性からしたらモテモテじゃないのか?それとも私だけなのだろうか。


 「あぁ、彼女とかいなかったから」


 …………!?自分から発言した!


 「先輩が?嘘でしょ!?」


 「本当だ。出来たことなんてない。異性に感情移入とかそういうのがなかった。俺は男子からも言われる事が多いのが、『第一印象は抜群にいいのに勿体ないんだよ』だ。よく分からん。第一印象がなんなんだ?そもそも世の中見た目が7から8割で決まるというが、何を基準にして見た目が大事なのか。この世のオスやメスはどういう反応で判断するのか。そういう所が未だに俺にとって分からんのだ」


 そんな感じだろうな、先輩は。さっきの駅での質問が正にそれだった。

 じゃあ私の告白の返事なんて分からないで返されるかもしれない…


「じゃあ先輩…」


 コップから手を離した先輩はこっちを見る。


 「私のさっきの返事……って言っても忘れてたんですよね。あの、先輩の事がずっと好きだったんです。私が人として、いや男性として……いや、両方共好きです。そんな私のメッセージを受け取って、先輩からの返事が聞きたいです」


 「ちょっと待て!何がお前にそうさせたんだ?悪かった!俺はどうすればいい?」


 「いや、何も悪い事なんてしてないですよ。寧ろこうしてお邪魔させていただいているし、感謝しています。私はただ、自分の想いを伝えたかったんです。先輩は、私の事どう思ってるんですか?」


 「…お、俺は」


 しばらく沈黙が続く。この感もドキドキしてくる。どう返してくる…


「それはつまり…俺がお前の事を人として評価するって事か?」


 「……うーん?そう…いう感じですかね?」


 「そうだなぁ。蜜樹はすごく好奇心旺盛で、学習能力も高く、人懐っこい所があるから、誰とでも仲良くなれる人だと思ってるんだが…」


 「そういう事じゃなくてですね…私の事が…」


 この先の事を伝えるのに焦らしてしまった。でも聞かなきゃいつまで経っても分からない。だから伝える。


 「あの!私の事好きですか!?」


 「好き?好きとはお前がさっき言ってた人とし…」


 「両方です!全部踏まえた上でどうなんですか?」


 「両方…あの、何が正解なのかが…」


 「正解なんてないです!先輩が私の事をどう思っているのか。それだけです。心のままに伝えてほしいんです!」


 「心のままって…ちょっと待て!そもそも心がどういうものかが…」


 あーー!こんな事だとキリがない!

 もう人として、女として、その両方の面で私の事どう評価してくれているか知りたいだけなのに!先輩難しいように考えすぎです!


 「……もう!私は!先輩の事が大好きです!はい!先輩は!?」


 「そうか…よく分からんが」


 そういう所ですよ先輩。先輩が彼女が出来なかった理由は。シンプルに何点くらいなのかだけ聞けばいいか。


 「じゃあ私の事を…」


 「お前の好きな所はたくさんあるぞ。例えばお前の笑っている表情。いつも楽しそうにしているとこっちも自然と楽になれるし、後はお前がいつも俺の好きな話題を共有してくる所とかもな。理解し合える仲間がいると思うと楽しいものだ。後、お前は俺の好奇心を引っ張ってくる。未知の世界を教えてくれるお前のその探求心は俺の退屈を忘れさせてくれる。いつも楽しいな、そういうの。後はそうだなぁ、うーん………俺にやたら優しい………まだあるかな?」


 「…………せ、先輩」


 そんなにいっぱい褒められると…照れる!私の事そこまで思ってくれるなんて!私はなんだか照れと嬉しさが混ざり合った感情が、先輩の言ってた内なる何かを覆い尽くす。


 「以上だな。それくらいしか…って!蜜樹?顔が赤いぞ!」


 「ひゃっ!え?いや、その!ひょてもなんだか…そんな事言われてテンパっちゃったんです!」


 「すまん!謝る!」


 「いや寧ろ謝らないで!」


 「そうか!じゃあ、お茶!入れ直そうか?」


 私はいつの間にかなくなっていたお茶を見下ろす。

 

 「あっ、お、お願いいたします!」


 コップを先輩に渡すと、なんだか体が落ち着かない。ソワソワが止まらなかった。

 

 あんなに一気に褒められるなんてびっくりする。でもそこまで思ってくれたんだ。

 なんだかますます先輩が好きになっていく。


 私にとって先輩の中身の異常さなんてどうでも良くなっていた。そしてもう一度お茶を頂く事に。


 「どうぞ」


 「ありがとうございま…」


 お茶には茶柱が立っていた。思わずにっこり笑う私の表情がお茶に反射して映っていた。そしてゆっくりとお茶を頂くのだった。

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