厨二?地球外生命体?それとも…

 講義が終わる寸前。みんな集中して教授の話を聞き入れていた。この講義はチャイムがなる10分前になると講義を終了する為、みんな早めに解散するようになっている。


 ピピピピッピピピピッ


 スマートフォンのアラームが鳴り響く。教授のスマートフォンからだった。

 皆一斉に帰る準備を済ませて、教室を出て行く。


 「よし!次こそ!」


 「どうしたの?蜜樹」


 大学で知り合った友達に独り言が聞かれたのをバレた。


 「いや、なんでも…」


 そそくさに荷物をまとめて行く私。


 「それじゃあ。私この後用事だから」


 「おんっ!じゃあお疲れ」


 手を振って帰る事にした私は急足で真人先輩の元へ向かう事にした。


 先輩のいる所はどこか分からないが、取り敢えず向かう事にした。

 キャンパス内には教室を設置してある建物が3つある。先輩がいる建物は出入り門の近くにある建物で、キャンパス内で一番小さい所。研究ラボが設置されているだけの施設な為、教室の数は2つのみである。


 先輩は何処に?


 私は取り敢えず建物内に入り、先輩に会えるように探す。


 キーンコーンカーンコーン


 あっ!チャイムが!もうすぐ皆出て行く頃だ。


 先輩はどの教室にいるんだろう。必死に探して行く。


 「あれ?蜜樹か?」


 「……えっ?」


 後ろから声がした。私が振り返ると、なにやら教材を手に取りながらこちらに歩みに来る人が。先輩だった。90分もの見ていない間でも、相変わらず素敵な佇まいである。


 「先輩!」


 嬉しくなった私は、思わず大声で言ってしまう。


 ようやく出会えた。よかった!まだ帰っていなくて。


 「どこか用事か?」


 「いえ。先輩を探してました!」


 「おぉ、そうなのか。なんか用なのか?」


 「あの、今日も一緒に…帰りませんか?」


 「あぁ、別にいいぞ。今日はアルバイトも休みだしゆっくり出来る」


 やった!さっき逃した告白チャンスを確保出来た。


 「はい!帰りましょう」


 そして一緒に帰る事が出来た。


 こうして一緒に帰るのは今週では初。いつもは大学からではなく、いつも通っているサークルで一緒に帰る事が殆ど。だからこうしてキャンパスから一緒に帰るなんて事は珍しい方だった。

 

 自転車を押しながら一緒の歩幅で歩いてくれる先輩。お互い会話などなにも話さずにいた。

 駅まで向かう最中、先輩が異国の人達が何やら会話している様子を遠まで見ていた。私もそれを一緒に見る。すると、突然先輩が語り出した。


 「この世は複雑…」


 「はい?」


 独り言だろうか?私は取り敢えず返事してみた。


 「この世は異なる文化が混ざり合う複雑な世界…だがその一つ一つが我々のいる世界を形成している」


 いきなり厨二気質な発言をし始める。どう返事をするべきか悩む。


 「…はぁ…なる程」


 いや、納得などしていなかった。正直先輩の思考に迷子になっている。普段からこんな事言う人ではないのだが、今日はなんだか変だ。

 

 「我々には我々の文化があり、我々の日常を作ることとなる。しかし、他の文化を取り入れる事で、我々は常識という枠外に出て、更なる人生を形成できる。それが我々人間の素晴らしい可能性だ。そもそも我々は…」


 『我々』というワードが多すぎて、先輩は地球外生命体なのか?と疑ってしまいそうだ。お願いです。地球にいる以上、地球の文化に合わせてください…


 「アハハハハ…」


 もう笑う事しか出来なかった。

 私の頭の中の先輩像は、厨二病or地球外生命体or変人のどれかしか浮かばなかった。

 どれも当てはまって欲しくないが…


「…先輩って…面白いですね」


 色んな意味で…


「いや、あるいわ我々がこの星に誕生させられたのか…」

 

 まだ喋っていた。やめてください…段々嫌いになりそうです。


 「我々は何者によって生みだされたのだろ…」


 「先輩!」


 私が独り言を口喋っている先輩に私が目を覚ましてあげた。気がついた先輩は、無事駅まで到着した事に気づいた。


 「もう着きましたよ。先輩」


 「……。我々は何故異なる文化に分けられ…」


 え?まだ続けるんですか?もう着いたって気づいてらでしょ?

 先輩は今違う世界にいる。私達とは違う別次元。この人、アカシックレコードとかに迷い込んだ事がある人なんじゃ…


 「どうした?蜜樹」


 「え?」


 え?いつの間に現実に戻ってきたんですか?


 「何か考え事でもしていたのか?」


 それはさっきまでの貴方です…


 「いえ、なんでもないです!今日もお疲れ様でした…アハハ…」


 「あぁ、気をつけて帰るんだぞ」


 私はこの時、告白するべきか迷った。この人…一緒にいて大丈夫な人なのか。その疑問が脳裏から消えない限り、告白するか否かが問われる。しかし、それ以前の問題である。

 先輩は普段一緒にいる時は、キャンパス内では気さくに声をかけてくれる人であり、サークルでは面白い話や本を教えてくれて、常に優しく気を配ったりしているのに。

 でも早めに告白したい!それが私の思いだった。


 「あの…先輩」


 「どうした?」


 手を振って帰ろうとしていた先輩が、私の呼び止めに応えてくれた。


 「せ、先輩に…今日伝えたくて。…だから一緒に…帰ろうと思って…」


 「なんだ?何でも言ってみなさい」


 「……あの、先輩……」


 内心ドキドキが高まり、緊張してきた。だが、いつまでも時間を掛けるわけにはいかない。


 「私、先輩の事…」


 そしてはっきりと目を見て伝える。


 「好きです!」


 内心顔真っ赤だろうと気付いてる。しかし、言ったのだから、後は返事を待つ事にする。


 「………」


 先輩がじっと見つめる。そして口を開いた。

 何て返してくる……!


 「……それはどういう意味でだ?」


 !?。え?それは…


 「それはその…人として…です」


 「何故だ?」


 「え?…何故って、いつも優しいし、私と一緒だと、ご飯とか奢ってくれたり、サークルでも色々楽しく過ごしたりして。気がついたら先輩の事が…」


 「何故そんな事が好きに繋がったんだ?」


 「え?」


 ………?どういう意味?


 「蜜樹。俺、分からないんだ。人が人を好きになるという感情が…」


 「…………?」


 !?。………先輩は厨二だったという事か?


 「我々は…」


 いや!地球外生命体だった!


 「人を好きになる事で、その相手の事を寄り添いたいという気持ちになるというらしい。そして、その人に同じ気持ちでいて欲しい為に、その相手の事を知ろうとするというらしいが…」


 「あ、あのぉ…先輩?」


 「心がその好きという気持ちに血を通わせる事がその人の心を動かす、いわば車のガソリンのような物なのか」


 変人だった!

 どれにも当てはまった先輩は、淡々と話し続ける。だが、もう内容が追いつかない私にとって、どうすればいいのか分からない。


 「心とは…。いや、人間には心という臓器はない。それは勝手に人間が生み出した産物に過ぎない。なぁ蜜樹!お前の心とやらはどういう経緯があって『好き』という感情が芽生えたんだぁぁぁ!」


 「………」


 駅付近でそんな大声で言われたら…恥ずかしくて何も言えなくなる…


「……せ、先輩!やめて下さい。こんな公共の場で!」


 「…そ、そうか!じゃあ公共の場ではなければいいんだな?なら大学に戻るぞ!」


 「いや二度手間ですよ!しかも大学なら尚更嫌です!大学も公共の場ですし!」


 「じゃあどこで話せば…いや、サークルが…クソッ!今日休みか……」


 「先輩馬鹿みたいです!私が言いたいのは、こんな人気が多い所でそんな大声で話さないでくださいって事ですよ!」


 「でもお前も大声で話しているではないか!」


 ……あっ。


 私はふと我にかえると、自分もそうだった事に気づく。

 周りには通行人やさっきすぐ近くにいた異国の人達もこっちを見ていた。

 顔が段々と真っ赤になっていくのがわかった。

 熱くなっていく。顔だけが変に熱い。


 「……蜜樹。今日もお疲れ」


 「いやぁぁぁ!先輩待って!待って下さい!」


 何でこの勢いで帰れると思った!?どんなメンタルなんだこの人は!

 こんな所を見られて一人で帰るのは嫌だ!


 「なんだ?まだ言いたい事があるのか?」


 「………先輩…」


 私は先輩を連れて駅から離れることにする。

 先輩が言う、心とやらが恥ずかしさで埋め尽くされたら。そしてあまり人が多くない所まで着いた。


 「どうした?こんな不良が集団で一人の人間を追い詰めてカツアゲしそうな所に連れてって」


 「そんな事しません!もう!」


 私は、先輩の腕を離す。そして真っ赤になりながら先輩の顔を見上げる。


 「今から、先輩の家に行かせて下さい…」


 「何で!?」


 「帰りが電車だとあんな所色んな人に見られて落ち着いて乗車できません。だから…今から連れてってください。すぐに帰りますから」


 「……わ、わかった…」


 もう!先輩の馬鹿…

 

 内心そう思いながらも先輩の家に向かう事になった。


 


 

 


 

 


 

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