猫を見る③

 次の日の放課後。

 下校中に見つけたその猫は、今にも消えてしまいそうな色をしていた。

 何も食べていないのか、痩せ細った身体を一歩踏み出すたびにふらつかせ、乱れた固い毛にはコンクリ色の砂埃がまとわりついている。風が吹くたびに立ち止まり、震える脚でなんとか堪えていた。

 そして風が止むと、猫は灰色の塀に身体をぴったりと寄せ、再びゆっくりと歩き出す。

 けれど僕には、その猫の歩む先に希望があるようには思えなかった。そこには夕焼けの向かい側の夜が広がっているだけだ。

 一層、強い風が吹く。

「……っ!」

 風に煽られた猫は足を滑らせたように転び、横向きに地面に叩きつけられた。僕は思わず目を逸らす。

 そして、目を逸らしてしまったことに気がついた。

 ――猫を見る。それが僕の目的なのに。

 視線を戻そうと試みる。しかしどうしてもその痛々しい姿を見ることができなかった。

 理由なんてない。

 目を瞑っていたいだけだった。

 最期の力を振り絞って終わりへと向かっていく後姿を見ていたくないだけだった。

「……あ」

 少ししてゆっくりと視線を戻すと、そこにはもう猫の姿はなかった。交差点の角を曲がったのか、塀の隙間にでも身体を滑り込ませたのかもしれない。とにかく猫は僕の視界からいなくなっていた。

 それを知って、僕は歩き出す。猫の進んでいた方向とは逆向きに。

 夕焼けが照らす道を歩きながら僕は一度目を閉じた。

 そして、目を開ける。

「猫になりたい」

 言葉にしてみたが、そこに心はなかった。

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