問いを解く③
「猫パンチ舐めてかかれば返り討ち」
「なんで五七五」
「僕は日本語を愛してるんだ。これは断じて英語側にはひれ伏さないという意思表示さ」
「パンチ英語だよ」
punch、と瑠香の嫌味なくらいに流暢な発音が週初めの自習室に響いた。
どうやら僕の脳は少しずつ英語に侵食されているようだ。日々の勉強が身になっているのだろうか。それなら悪い気はしない。
「大志ってイケメンだよね」
不意に瑠香は言った。
「なんでバレたんだ」
「中身が残念だけど」
「そこがまた良いって言ってくれ」
スマホの画面を軽やかに叩きながら瑠香はため息をついた。僕は話を戻す。
「で、急になんだよ?」
「今日体育で男子がマラソンしてるのが見えてさ。みんな大志のこと見てきゃーきゃー言ってたの思い出しただけ」
「よく体育館から見えたね」
「女子ってイケメン見つけると視力が良くなるの」
「すごい生物だな」
僕がそう言うと、彼女は下を向いたまま「愚かだけどね」と零した。そして彼女は「そういえば」と話題を変えた。
「大志って視力いいっけ?」
「え、ああ。視力検査なら一番下の輪っかまで見えるぞ」
「あれ『ランドルト環』って言うんだってさ。あのCみたいな輪っか」
「なんでそんなの知ってんだよ」
「最近はスマホがあれば何でもわかるからね。あとは気付けるかだよ」
確かにそうだ。この世の大抵のことは調べればすぐにわかる。
それでも調べなかったのは、あの一部が切れた黒い輪に名前があるなんて考えたこともなかったからだ。あんなにじっくり見ていたのに。
昔から僕は、瑠香のことを頭がいいと思っていた。でもそれは少し違ったようだ。
「瑠香は目がいいんだな」
「視力は悪いけどね」
「目の前にイケメンがいるのに?」
「中身が残念なんだよね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます