問いを解く②
「てかあんなのついていけるわけないだろ。こちとら帰宅部だぞ」
「体操部でも無理でしょ」
「あいつがついてこいって言ったのに」
「いやそれ多分馬鹿にされてるだけ」
瑠香がぱたぱたと画面を叩く音を聞き流しながら英語の問題を解く。今日も自習室には僕たちの他に誰もいない。
「単語は順調に憶えてる?」
「ああ。言われた通りマーカー引いた単語を重点的に憶えてるよ。まだ全然だけど」
「単語って憶えるの大変だよね。同じ意味なのに違う言葉もあるし」
「ほんとそれ」
僕はノートに書かれた『meet』と『see』を見る。どちらも『会う』という意味だ。
「しかも『see』には『見る』って意味もあるし」
「あるあるだね。逆に『見る』には『look』も『watch』もある」
「おいおいなんでもいいだろ」
「それが微妙に違うんだよねえ」
瑠香は言いながら、スマホを触る手とは反対の手で僕の辞書を指差した。
調べろ、ということらしい。辞書を引くことの大切さをすでに教わった僕は大人しく従う。
辞書を引く行為自体が記憶を引き出すカギとなる。手間ではあるが『この単語、あのとき調べたやつだ』と思い出しやすくなるのだ。
「へえ。『look』が『意識して見る』、『see』が『無意識に見る』、『watch』が『動くものを見る』ってことなんだ」
「じゃあ猫は?」
「『watch』」
「よろしい」
満足げに頷いた彼女は再びスマホに指を置く。
そこではじめて彼女の指が止まっていたことに気付いたが、そのあまりに鮮やかな指捌きを見ていると、気のせいだったのかもしれないとも思えた。
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