猫を見る①
次の日の放課後、僕は早速猫を見ることにした。
偶然、下校中に塀の上で丸まっている猫を見つけたのだ。今日は瑠香に予定があるらしく帰ってしまったので僕も早めに学校を出たのが功を奏した。
猫を見れば、瑠香が何を考えているかわかる。
その言葉が嘘だとは思わなかった。彼女は昔から自分の考えを半分も口に出さない代わりに、嘘も無駄なことも言わないことを知っている。
そして僕は、そんな彼女の頭の中身に少し興味があった。
僕はじっとその場に立ったまま猫の様子を眺める。茶色のような灰色のような毛色の猫はお日様の下で気持ちよさそうに大きく欠伸をした。その間の抜けた顔は平和の象徴にでもなりそうだ。
「お」
猫は僕の視線に気づいたのか、その縦長の瞳をこちらに向けた。そしてゆっくりと立ち上がり塀の上を器用に歩いていく。
「ん?」
猫は数歩進んだところで立ち止まった。
それからちらりとこちらを振り返り、長い尻尾を大きく左右に揺らす。その優雅な所作に、僕は悟った。
「……ついてこい、ってことか」
息をひとつ吐いた。そして吸う。
物語が動くのを感じる。期待と緊張が入り混じる。
まだ見ぬ展開に向けて僕が一歩を踏み出すと、足並みを揃えるように猫も一歩踏み出した。
と、思ったのも束の間、そのまま猫はすたすたと塀の端まで早足で歩いていき、民家のベランダに飛び移ったかと思えば、ひらりと軽やかなジャンプで民家の屋根に登る。
そして一瞬のうちに、屋根の向こう側へと姿を消した。
「…………」
猫って、身軽なのね。
何の物語にもならなかった僕の頬を乾いた風が撫でた。
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