猫を見る
池田春哉
問いを解く①
「猫になりたいって言う人、嫌いなんだよね」
スマホゲームに興じる
僕はシャーペンを走らせながら、珍しいな、と思う。彼女は「嫌い」なんて強い言葉を使うタイプじゃないからだ。
「何がそんなに嫌なんだ?」
「なんていうか目を瞑ってる気がしてさ。だめだよ、それじゃ」
何がだめなのか。でも周りが見えなくなるほど猫に執心するのは確かにだめかもしれない。
「……ふう、やっと解けた」
「じゃあ次はこの長文問題ね」
「悪魔かよ」
「悪魔にならなきゃいけないときもあるんだよ」
瑠香は容赦なく僕の英語の問題集のページを捲る。ずらりと並んだ謎の文章を見ていると眩暈がした。
「次のテストで赤点だったら夏休み無し」
「うっ」
担任の脅し文句を思い出す。あれがなければ、受験を終えたばかりの僕は今頃遊び呆けていただろうに。
「……やるよ」
目の前の全く読めない英文を睨みつける。
僕が問題に向かったことを確認して、瑠香はゲームを再開した。どうやらリズム系のゲームらしく、机の上に置いたスマホの画面をすごいスピードでタップしている。
「長文問題は単語をどれだけ憶えてるか、だよ。だからわからない単語があったら、すぐに辞書引いて憶えるの。単語さえ読めれば、なんとなく話の流れが見えてくる」
「流れ……そんなもんなのか」
「うん。
瑠香は昔から頭が良い。英語に限らずどの教科の成績もトップクラスだ。その彼女がそう言うなら間違いないだろう。僕は意味のわからない単語に青のマーカーで線を引く。
しかしその賢さゆえか、彼女が何を考えているのかよくわからないことがあった。きっと色々考えてるんだろうけど、彼女はその半分も口に出さない。
「今、私が何考えてるかわからないって思ったでしょ」
あたかも心を読まれたかのような台詞に顔を上げると、瑠香は指を止めた。彼女のスマホの画面には『Excellent‼』の文字が光っている。
「猫を見れば、私が何を考えてるかわかるよ」
「そんなんでわかるのか」
「ちゃんと目を
なんだかおかしな言い方だな、と思いながら僕はまたひとつ英単語に線を引く。そして、ほとんど青色で染まったページにうんざりとした。
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