第27話 湖畔の街、サルモン
「ご主人様、サルモンは大きな湖の湖畔にあるんですよね?」
「ああ。アスル湖と言ってな、対岸が見えない程大きいぞ。内陸に存在する小さな海といったところだな。ネグラ山脈の雪解け水が水源なっているから湖底が見える程水の透明度が高くて、山から流れた草木が栄養になって淡水魚もたくさんいるんだ。初めて見たらその美しさと雄大さに驚くぞ」
「それは楽しみですね!早く着かないかなぁ〜」
次の目的地に思いを馳せながら、カルロスとナディアは歩いて3日程の行程を進んでいた。
そして3日後ーーーーー
「ご主人様…?」
「うーん、おかしいな。場所は間違いないはずなんだが…」
ナディアは訝しげにカルロスを見上げ、カルロスは今眼下に広がっている光景を見て首を傾げていた。
二人がいるのはアスル湖が望める小高い丘の上。ちょうど陽が傾いて来ており、本来であれば透き通った湖面に夕陽が反射して、それはそれは美しい景色を作り出すのである。
「ない…ですね」
「…無い、な」
そう、湖が無いのだ。見渡す限りは広く窪んだ乾いた土地があるばかりで、水が全く無い。
「俺が知らない間に湖が無くなるほどの地殻変動でもあったのか…?」
頭を悩ませていても仕方がないので、カルロス達は丘を下って窪地の隣に栄える街に向かった。湖畔の街、サルモンは、商業も盛んな街で各地から商人が往来しており、街に入るためには関所を通る必要がある。名前と訪れた目的を記録するのだ。パラパラと人がまばらに行き交う関所を無事に通ったカルロスとナディアは、サルモンへと足を踏み入れた。
「ほわー…」
サルモンの街は、建物が主に淡いピンク色のレンガで建てられており、彩豊かな草花が街道を華やかに飾っている。商店や露店も多く軒を連ねており、街自体はカルロスの記憶の通り活発に賑わっていた。しかし、隣のアスル湖で採れたての魚介類を売る店が人気であったのだが、湖があの状況であるため、魚介類を取り扱っている店はほとんど無かった。
ナディアは統一感があり美しい街並みとあちこちで飛び交う客寄せの声に反応して、目を輝かせながら落ち着きなくキョロキョロと辺りを見回している。ちなみに街に入ってからは宙に浮かないようにとカルロスがしっかりと言い聞かせていた。
「とても綺麗な街ですね!」
「そうだろ」
カルロス達はせっかくなので、街を散策しつつアスル湖について情報を集めることにした。
「すまない、それを2本くれないか」
「はいよー!すぐに焼くからちょいとお待ちを」
カルロスは露店で販売されていた鶏肉を団子にして竹串で刺したものを2つ注文した。店主は割腹のいい女性で、団子を取り出して店の前で炭火で焼き始めた。ナディアは漂う香ばしい香りに鼻をひくひくとさせている。
「お客さん達、観光かい?」
店主の女性は団子が焼けるまでの間、カルロスに世間話を持ちかけてきた。
「ああ、アスル湖を楽しみに来たんだが…一体何があったんだ?」
カルロスが尋ねると、店主の女性は困ったように息を吐いた。
「それがね…ここ半年程この辺りは例年よりもずっと雨が少なくてねぇ…ネグラ山脈も積雪が少なくて、冬が明けても中々雪解け水が流れてこなかったんだよ。まあそれだけだったら湖の水位が少し下がる程度なんだけど…何故だか湖の水はすっからかんになっちまったんだよ」
「原因は分からないのか?」
「うーん、私は知らないねぇ…街の役人なら何か掴んでるかもしれないね。っと、ほい!団子が焼けたよ!熱いから気をつけて食べな!」
店主の女性は、焼けた団子の串にたっぷりとタレをつけてカルロスとナディアに渡した。
「ありがとうございまふっ、ふあちちちち!…ほいひい〜」
「おい話聞いてたか?」
ナディアは忠告を聞かずに受け取るや否や大口を開けて団子に齧り付き、口をハフハフさせながら団子に舌鼓を打った。カルロスも苦笑しながら少しずつ団子を齧った。
お礼を言って店を後にし、その後もカルロス達は街の者に湖の状況を尋ねながら、夕飯がてら目についた食べ物の露店に足を運んでお腹を満たした。
「結構聞き込みをしたが、みんな同じような話だったな」
「そうですね〜」
そうこうしている間に陽は落ちて街灯の灯りが夜道を照らし始めた。ナディアは街灯の光で長く伸びた自分の影を踏んで遊んでいる。その様子を微笑みながら見ていたカルロスは言った。
「今日は宿を探して、明日街の役人を訪ねてみることにしよう」
「わかりました!」
カルロス達は手頃な宿を見つけると、2部屋借りて各々ゆっくりと身体を休めることにした。
隣の部屋からベッドで飛び跳ねてはしゃぐ声がする気がするが、カルロスはベッドで横になりながら今日集めた情報を整理していた。
ここしばらくこの辺りの降水量が少なかったこと。
ネグラ山脈も降雪量が少なく雪解け水の量が激減していたこと。
過去にも降水量が少ない年があったが、それだけでは水位は下がるが湖の水が干上がるようなことはなかったということ。
そして気にかかるのは、何人かの証言によると気がついた時には湖の水が無くなっていたということーーー
何か異変が生じていることは間違いなさそうだ。
カルロスは大事にならないことを祈りながら、眠りについた。
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