第25話 混血
「
「そ。だから俺様は嗅覚が人並み外れてるし、感覚も勘も普通の人より鋭いぜ」
ふふんと鼻を擦りながら自慢げに語るレオン。
エスメラルダ王国では、多種多様な種族が共生しており、異種族の婚姻も認められているため、混血というのは大都市ではさほど珍しいことではない。だが、モラド村といった辺境の地では中々珍しいらしく、アルトゥロは目を丸くして驚いている。
「…なるほど。それであの高い身体能力って訳か。本当にカルロス達と出会ってから驚かされることばかりだわ。自分の世界の狭さを思い知る」
「ハハッ、そりゃそうだろ。この国だけでもクソデケェのに、国外にも未知の世界が広がってるんだ。ま、俺様が率いるからにはお前達の見聞を広げてやるから安心しな」
レオンは仰々しく両手を広げて言葉を続ける。
「聞いてると思うが俺様の部隊は、元犯罪者や荒くれ者が多くてな。どんどん受け入れてるからもう100人以上はいるかもな。一人ひとり生きてきた世界が違うし、色んな生い立ちの奴がいる。だが俺様はどんな奴でも受け入れる!誰かのために働くってのは存外気分がいいもんだぜ!」
レオンは自分勝手で自由奔放、高飛車なところもあるが、根幹の部分ではエスメラルダ王国を愛し、民を大事に思っている。だからこそレオンの部隊の隊員達は彼を慕っているし、彼に着いていく。誰にでも分け隔てなく接するため、こう見えて国民からの支持も厚い。彼が言うように、伊達に25年も分隊長を任されていないと言う訳だ。
カルロスは昔から変わりのない旧友の姿に思わず笑みを漏らす。カルロスもレオンの裏表のない性格には何度も救われてきた。悔しいので本人には伝えていないが、心から大切に思っている友人の一人なのだ。
「さて、そろそろ町に戻るかぁ。この人数を抱えるとなると事務処理も大変だろうしな…隊服や宿舎の手配もあるし…ま、そこはアイツに任せるとして…」
ブツブツとこれから必要な手配や処理のことを呟きながらも、彼の右腕である副官に丸投げする気満々なレオン。「ま、いっか」とすぐに考えるのをやめて、カルロスに向き合った。
「じゃあな、カルロス。またゆっくり戦おうぜ〜!よーし、お前ら遅れずに着いてこいよ!」
それからレオンは後ろ手にカルロスに挨拶をすると、地面を強く蹴って砂埃を巻き上げながらあっという間に小さくなっていった。去り際も潔く、まるで台風のような男だ。
「って、ちょ!待てって!じゃ、じゃあな!カルロス!本当に世話になった!また会おうぜ」
勢いよく走っていくレオンを追って、慌てて山賊達も走り出し、アルトゥロもバタバタと別れの挨拶をしてレオンのあとを追って行った。
「カルロス殿、この度は本当に世話になった。感謝してもしきれない。俺はこの後どうなるか分からんが、また会えることを楽しみにしている」
ウーゴもカルロスに深く頭を下げ、「俺は走るのが苦手なんだが…」とため息を吐きながらレオンやアルトゥロ達を追って走り出した。
「…慌ただしい別れになっちゃいましたね」
「そうだな。まあしんみりした別れよりずっといいさ」
つい先ほどまで賑やかだったカルロス達の周囲は急に
「寂しいのか?」
カルロスが尋ねると、
「そ、そんな訳ないじゃないですかぁ!全然へっちゃらですよ!へっちゃら…」
と強がりを言うが、下を向いて砂を蹴っているその姿が全てを物語っている。
「大丈夫さ、また会える」
「…そう、ですね」
カルロスとナディアは再び、皆が去っていた方に視線を向けると、村に戻る道を歩き始めた。これでようやく全て解決したため、その旨をディエゴに報告するためだ。
「それにしても、あのレオンって男、
「そうだな、今では都に行けば混血は珍しくないな。レオンは父親が
ナディアが最後に外界に出たのは数十年前であるため、まだ今ほど多種族との交流が盛んでなかった。親の特性が子に遺伝するのであれば、高い身体能力や人より長い寿命を得るのだろう。
「なんかいいですね。種族を超えて恋に落ち、その子供も高い能力を持つことが出来るなんて」
ナディアはロマンチックだと言いたげに、頬に手を当てて少しうっとりとした表情で言った。
「まあな。だが一概にいいことばかりって訳でもないんだ」
「え?」
カルロスの言葉に、ナディアはキョトンと首を傾げる。
「2つの種族の能力を得れる反面、2つの種族のどちらとも異なる存在になってしまうからな。自分は何者なのか…2つの種族のどちらにも属さない異質な存在。レオンは自分が混血であることをはっきりと公言しているが、混血であることを隠して生きている奴も結構多いんだ。今は混血の人口も増えたし、差別するような風潮も無くなったが、昔は結構居たんだよ。悪気なく異質な者を排除するって奴がな」
「そうでしたか…軽率な発言でした」
少し遠い目をして語るカルロスの言葉に、ナディアはしゅんと肩を落とした。その様子に、フッと優しい笑みを浮かべながらカルロスはナディアの頭を撫でた。
「気にするな。ナディアは純粋なんだな。これからも変わらずそのままで居てくれ」
カルロスの手の暖かさを感じながら、ひょっとするとカルロスも…とナディアはふと思い当たり口を開いた。
「あの、もしかしてご主人様も…」
「ん?」
「………いえ、なんでもありません!さ、村長のところに向かいましょう!」
「あ、おい、急に走ると危ないぞ!」
主人の生い立ちや過去を詮索することは好ましい行動とは言えない。それにカルロスが自ら語ってくれるのを待ちたい、ナディアはそう思いカルロスへの問いかけをグッと飲み込んだ。
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