第21話 再び山賊達のアジト
カルロスは、アジトへの道中、山賊と
渓谷を通る道よりは少し遠回りになったが、無事アジトに続く洞窟前まで戻って来ることができた。
「さて、俺が先導する。ついて来てくれ」
アルトゥロが緊張した面持ちで松明に火を灯し、洞窟の中を進んで行く。上空から戻ったナディアと共にカルロスも後に続く。ヒヤリとした空気に身震いをすると、ナディアが「はっくしょーい!!」と豪快なくしゃみをした。
「大丈夫か?初めて通った時もくしゃみしてたよな」
ククッと思わず喉を鳴らして笑うカルロスに、ナディアは恥ずかしそうに頭を掻きながら鼻を啜る。
「ずみばぜん…やっぱりここ、寒くって」
「ナディアは薄着だからな。俺の外套を羽織るか?」
「えっ!?」
カルロスはナディアの返事を待たずに首元のボタンを外して、ふわりと外套をナディアの肩にかけてやる。身長差があるので、外套の裾を少し引きずってしまう。大事な主人に借りたものを汚すまいと、ナディアは慌てて余った布をたくし上げる。
「汚れは気にしなくていいぞ」
その様子に笑みを漏らしながらカルロスが言った。
「そんなわけにはいきません!…その、あ、ありがとうございます。暖かいです」
ナディアは余った布を胸元で抱えて、少し顔を埋めるようにして感謝の言葉を述べる。嬉しくてニヤける顔を隠す名目であるが、ついでに外套からかすかに香るカルロスの匂いを嗅ぐナディア。
「匂いを嗅ぐのはやめろ」
「かっ、嗅いでませんんん!!」
そんなやり取りをしていると、眩い光が視界を奪った。出口が見えて来たのだ。
「改めて、俺たちのアジトへようこそ。歓迎するぜ!」
先を歩いていたアルトゥロは、洞窟の出口で立ち止まり、カルロスとナディアを迎え入れた。
「あっ、お頭!お帰りなせぇ!」
「お頭ーっ!見てください!今日は魚が大量です!」
「お頭っ!お疲れ様です!湯を沸かしやすんで疲れを取ってくだせぇ!」
アジトにいた山賊達は、アルトゥロの帰還に気づくと皆嬉しそうに一斉に駆け寄ってきた。
「おいおい、落ち着けって。客人の前だぞ」
山賊達に囲まれたアルトゥロは、降参だと言わんばかりに両手を上げ、困ったように眉根を下げる。随分慕われているようだ。そして、山賊達は客人と聞いてようやくカルロスとナディアの存在に気が付いたようだった。
「あれ?お頭がこのアジトに客人を連れてくるなんて…初めてじゃないですか?」
「あー?…確かにそうだな」
山賊の問いに少し考える素振りを見せて頷くアルトゥロ。
「どうも!大したもんはありませんが、ゆっくりして行って…くだ、さ…んん?」
ヘラヘラと笑いながらカルロス達に挨拶してきた山賊は、二人の顔を交互に見比べる。
「なんだ?どうしたんだ?…って、あ、あんた達は…!?」
その様子に別の山賊が眉根を寄せながら、カルロス達の顔を覗き込み、サッと一瞬で顔を真っ青にした。
「俺たちの顔に何かついてるか?」
「あ、あんた達、もしかしてあの時の?」
首を傾げるカルロスと、何かに気づいた様子のナディア。
「ああ!あの時山で俺たちを襲ってきた奴らか!元気だったか?」
カルロスもすぐに思い当たったようで、ポンっと手のひらを叩きながらにこやかに挨拶をする。
「あっ…あ、あああの時は申し訳ございませんでしたあああ!!」
「どうか命だけは…!命だけはお助けくださいいいっ!!」
「…きゅう〜」
アルトゥロを取り囲んでいた山賊達は、奇遇にもカルロス達を山で襲った山賊AからEだった。あの時の恐怖を思い出したのか、狼狽しながら懺悔する山賊A、命乞いをする山賊B、泡を吹いて倒れる山賊E。
「なんだぁ?お前ら知り合いだったのかよ」
「じ、実は先日……」
その様子を呆れた顔で眺めるアルトゥロに、山賊Cが震えながら説明をしているようだ。
「……と、いったことがありまして…」
「ガッハッハ!!なんだお前ら!やたらとボロボロになって帰って来たと思ってたが、カルロス達に返り討ちにあってたとは…いやー、こいつらがとんだ粗相をしたみたいですまなかったな」
アルトゥロは可笑しそうにクツクツと肩を震わせながらカルロス達に謝罪した。
「いや、もう過ぎたことだ。俺達は無傷だったたし、気にするな。それよりもあの時は悪かったな。少しやり過ぎたかもしれない」
「ご主人様!謝ることはありません!こいつらは悪いことをした報いを受けただけです!」
まだ何やら根に持っている様子のナディアは口を尖らせながらカルロスに抗議した。
「まあその辺りは追々話をするとして、とりあえず休める場所を貸してくれないか?」
「おっと、すまねぇ。おい、お前ら!空いてる小屋を掃除してカルロス達を案内しろ!」
「へっ、へい!」
山賊AからEは、アルトゥロの掛け声で一斉に駆け出した。そしてものの数分で支度を済ませたらしく、猛ダッシュで戻ってきた。
「ゼェ…お、お待たせしやした」
「支度が整ったので、ハァハァ、案内しやす」
「どうぞこちらへ、ゼェハァ…」
皆膝に手をつきながら息を整えている。そんなに慌てなくてもいいものを…よっぽど痛めつけられたのがトラウマになっているのだろうか。
「悪いな、ありがとう。じゃあこいつも運んでしまおう」
カルロスは、騒ぎを避けるために入口の洞窟内にひとまず寝かせていた
「
「もしかして、この
山賊達は突然現れた
「はは、まあそんなところだ。目が覚めるまでこいつも一緒に世話になる」
そうしてカルロス達は、山賊のアジトに迎え入れられ一晩を明かしたのだった。
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