第19話 カルロスの剣
カルロスは長剣を手に馴染ませるように数度軽く振ると、腰を落として静かに目を閉じた。深く息を吐き出し、カッと目を見開くと目にも止まらぬ速さで長剣を数太刀振り抜いた。柄に嵌め込まれた魔石の光が、残像となって宙に赤い軌跡を残す。
「さて、準備運動はこれぐらいにしてそろそろ行くぞ」
カルロスはそういうと、地面を強く踏み締めて
「は、速い!」
アルトゥロとナディアは、剣術という思いもよらない戦法に唖然とした。
基本的に魔法使いは魔力に突出しているため、カルロスのように武器を自在に操り、力強く機敏な動きをする者は見たことがない。魔法使いが戦場に出る場合は、他職業の者とパーティを組んで、攻撃魔法や支援魔法といった専門分野に適した戦法で戦うものだ。カルロスの動きは、剣術に特化した剣士と同等レベルか、それ以上のものであった。
カルロスは、フェイントを入れながら不規則な動きで
「グッ、小癪な」
素早さに翻弄される
「おっと」
カルロスは咄嗟に回避しつつも左肘に《
「ちっ、とんだ馬鹿力だな。受け流すだけで腕が痺れる」
カルロスは痺れた腕を軽く振りながらも攻撃の手を止めない。
「クソ、クソォォォ!!」
一向にカルロスを仕留めきれず、眉間に血管を浮き上がらせて怒り狂う
「どうした?もう降参か?」
カルロスは挑発するように
「ふ、フザケルなァァァ!!俺ガ、俺様ガ、最強なんダ…!」
「ふ、隙だらけだぞ」
戦斧は一撃の威力が凄まじいが、重量のある武器のため、攻撃の前の構える際に隙が生じる。カルロスはその隙を見逃さなかった。深く身を屈めて
「グアァ…!」
ズゥン…と前のめりに地面に膝をつく
「無駄だ。大腿四頭筋を切断した。立ち上がるのは無理だろう」
カルロスは長剣を振り、剣についた血を払った後、ナディアを受け止めたのと同じ小さな竜巻を起こして
そして、何かを確認するように
「やはりか」
カルロスは顎に手を当て、
「ご主人様ー!!」
勝敗が決したと判断したのか、《
「ご主人様!!魔法だけでなく剣技も嗜んでおられたとは流石です!!あまりの強さに、ナディア感激致しました!」
目を輝かせながら興奮気味にナディアが言った。
「昔にちょっとな。だが、勘を取り戻すのに時間がかかり過ぎたな。やっぱりたまには剣技も使わないと腕が鈍るな」
そう言いながら長剣を持つ方の肩を回す。その様子をうっとり見つめていたナディアが、ふと
「あれ?傷口から何か漏れ出ていますね」
ナディアも異変にすぐに気がついたようで、よく確認しようと
「待て、あの靄には触れない方がいい」
「す、すみません…あれは何なのでしょう?」
ナディアは慌てて飛び退くと、カルロスの後ろに隠れるようにして傷口を指差した。
「ああ、説明するより見せたほうが早いな」
カルロスはそう言うと、長剣の刀身に手を滑らせた。すると光の粒子が昇華するように舞い、長剣は元の杖の形状に戻った。そして呻きながら蹲っている
「《
「グ、ァ…ギャァァァ!」
眩いほどの光が
「頑張れ、少しの辛抱だ」
カルロスはそう言い、更に杖に力をこめて魔力の出力を上げる。
次第に、
しばらくして靄が全て出尽くしたことを確認したカルロスは、息を吐きながら杖を下ろした。
浄化の光が収まり、光に包まれていた
「い、一体何だったんですか…?」
目をぱちくり瞬かせながら改めて尋ねるナディア。その問いに応えるため、カルロスは静かに口を開いてこう言った。
「ああ、さっきの黒い靄は瘴気だ…100年前に消滅したはずの、魔王の魔力の一端だ」
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