第五十九話 合格発表
グロブス・エルジオの視線の先、見えるのはニメートルほどのゴツい体格の奴だ。
「あんな奴いたか!?」
「わからん、だが最初からいたわけではないのは確かだ。あんなに目立つのなら忘れるわけがない」
「ああ、急に出てきやがったんだ。フレイが二位チームへ行ってる間、こっちでは七位チームのあいつが一気に周りを
二人とも悔しそうな顔を浮かべている。おれに「牽制しておいてくれ」と頼んだことを完全に遂行出来なかったからだろう。
「なに、気にすんな二人とも! 勝負はまだついてないだろ?」
「ああ、もうヘマはしねえ!」
「無論だ!」
二人により一層気合が入る。大丈夫だ、これならいける。
現状はおれたち、ゴツい奴のいる七位チーム、守りを固めきっている一位チームだ。
どちらかとやり合うのは得策じゃない。もう一方のチームから打ちたい放題になってしまうからだ。さあ、どうするか。
「あれ、やっちゃっていいのか?」
ゴツい奴がチームメイトに話している。声が大きいから丸聞こえだ。
それにあえておれたちに聞こえるよう、リーダーらしき顔長の奴も答える。
「ええ、いいですよ。あれが前に言っていたフレイツェルト・ユングです。戦うには良い相手でしょう」
「わかった」
おいまじかよ!
ゴツい体つきの奴が真っ直ぐこちらに向かってくる。そんなことをしたら、
「“
「“樹海”」
「“飛斬”」
一位チームの一斉攻撃だ。ただ男は魔法の方向を一切振り向く様子はない。
受けられるのか?
――!!
「“リク”に一切攻撃を通しはしない」
リク、ゴツい男の名だろう。リクに魔法と斬撃が当たる瞬間、チームの仲間が壁を張った。あれを一心に受けて壊れる様子は全く無い。あいつもかなり
嫌な予感がする。
「あいつらを近づけさせちゃダメだ!」
「ああ、なんだかやばそうだ。オレも全力でいくぜ」
エルジオが構えを取る。さっきまでより深い。エルジオも本気だ。
「うおおおおりゃあ!」
<渾身魔法>“
「ほう、さっきのあれか。お前は手を出すな」
リクは仲間を指示をし、ニヤリと笑った。
「ふん!」
まじか!?
エルジオの全力、威力ならおれよりも上の拳の風圧をリクは正面から受け止める。
「ぐおおおおお……っらあ!」
後ずさりしながらも男は腕で後方に風圧を逸らした。
「ふん」
「てっめえ……」
<爆発魔法>
「……」
――!!
「なっ!」
リクはグロブスの魔法には一切興味を示さず、ただ右拳で魔法を掻き消した。挙動から、
こうなれば、
「おれがやる」
「ま、またかよフレイ! オレだって――!」
「違う。見てみろ」
おれは<大地魔法>“
「フレイ!」
「一位のチームが標的をおれたちに変えた。このままじゃまずい。だからおれがあのリクとかいう奴に集中できるよう見ててくれないか?」
「良いだろう」
「そうゆうことなら! わかったぜ、フレイ」
リクは一歩も止まることなくこちらへ向かいながら話しかけてくる。
「もう話し合いは良いのか?」
「ああ、思う存分やってやるよ」
低位神権術 <強化魔法>“身体強化”
中位神権術 <強化魔法>“
上位神権術 <風魔法>“風神の加護”
一位チームの狙撃が当たらないよう、なるべく空中で動き回りながら戦う。グロブス・エルジオの事も信頼しているからな!
上位神権術 <凍結魔法>“
先手必勝! 動きを止めれば勝ちだ!
「――ッガアアア!」
「いっ!?」
リクは被弾する前に口から発した圧のようなもので氷ごと掻き消す。
なんだよそれ!
上位神権術 <火炎魔法>“
「効かん!」
足をダン! と地面に叩きつけたリクはまたも圧のようなものでおれの魔法を掻き消す。
「まじで言ってんか……?」
冷静に考えろ。おれの一番威力の高い二つの魔法が消された。ならおれが次にするべき行動は……
「お疲れさまでした」
「!」
ガチャリ。
後ろから声が聞こえ、気付いた時にはすでに手首に手錠がかけられていた。
リクのチームのリーダーの男だ。
「この!」
振り向きざま、剣を抜いて斬ろうとする。が!
「うおわっ! ――っ! いってえ!」
そのまま落下、三メートルほどの宙から地面に落下する。なんだ、“跳躍脚”が切れた?
「あまり乱暴しないように」
「わかってるって!」
「えっ?」
突進してきたリクに反応が出来なかった。急いで体勢を立て直そうとするも、体が動かない!
「フレイ!」
「エルジオ! ダメだ!」
「がっ!」
リクは突進の姿勢のままエルジオに激突。エルジオは吹っ飛ばされた後、そのまま戦闘不能判定へ。
「こっちにこい! ユング!」
グロブスがギリギリのところでおれを抱え、間一髪その場を離れる。
エルジオに激突したこと、一位のチームがここぞとばかりに乗り込んできた状況に合わせてだ。
「ハァ、ハァ。助かったよ」
「ああ、だがどうした? 急に落下したように見えたぞ。それにこの状況……」
一位チーム対リク。
圧倒的なのはリクだ。一位チームの魔法、剣の猛攻をリクは己の身一つで全て掻き消す。
「一体どっから出てきたというんだ。あのバカも戦闘不能。それにあっちも長くはもたないぞ」
おれとリクが戦っているところに勝機を見据え、満を持して乗り込んできた一位チーム。だがすでに彼らは負けが濃厚だ。それじゃリクのチームが100ポイントに到達してしまう。
「なぜかは分からないが、この手錠をかけられてから魔法が出ない。だが、やっぱりあいつらをおびき寄せられるとすれば、おれだ」
「ああ」
グロブスが何を言いたいか察したように返事をする。
「おれが囮になる。だから、頼んだぞ」
「任せておけ」
「――ッガアアア!」
「ぐうっ!」
「なんなのよあいつ!」
「俺も知らねえ!」
一位のチームの戦闘不能は目に見えている。倒されてはダメだ!
「リク!!」
手錠をかけられたままおれはリクに向かう。
魔法は出ない。相手は巨体。恐くないと言えば嘘になる。だが……頼んだ!
「凍結魔法!」
おれは手を前に、わざとらしく大声にして叫んだ。
「と、見せかけてグロブス君ですよね?」
またもや後方。おれは咄嗟に声のした方向、後ろを振り返った。
銃を構えるグロブスの横から決めにかかるリクチームリーダーの男。そして、おれはリクを前にして不覚にも背中を見せてしまった。
「作戦通りだ」
すでにどうすることもできない状況。
次に前を向いた時おれはぶっ飛ばされて場外、グロブスはゼロによる攻撃で戦闘不能判定となった。
『試験終了ー!』
場内に鳴り響く試験監督の声に、湧き上がる歓声。おれは場外からただ見ていることしか出来なかった。
◇◇◇
『それでは改めまして、最終結果発表とさせていただきます』
第二種目終了後、傷付いた者は治療を受け、全員列に並ぶことが出来る状況で結果発表が行われる。
「「「……」」」
おれたちの会話は無かった。試験終了後に三人で「お疲れ」と言ったのみ。他は「頑張った」「よくやった」などと称賛し合っているチームもあれば、悔しがるチームもいる。それでも各々全力を出したことを称え合っているのだ。
おれたちは?
試験前から一度も集まることなく、ようやく協力し始めたのは第一種目の終わり。後悔がないはずがなかった。おれがしっかりしていれば。
『それではまず優勝チームから発表させていただきます。優勝は……』
リクのチームだ。
それから順にチームを発表されていく。おれたちは78ポイントで二位。惜しかった、で済ませてはいけないだろう。
全チーム最終順位が発表される。
ごめん、フローラ。約束を果たせないかもしれない。
『はい。各チームの順位発表が終わったところで、次に』
ん、次に?
『今試験、合格者を発表します』
え?
「どうゆうこと?」
「何を言ってるんだ?」
「優勝は決まったんじゃ」
周りがざわつく。実際、おれも理解出来ていない。
「??」
エルジオが疑問符を浮かべてこちらを向く。対して、おれも「分からない」と首を横に振った。
『皆さんが混乱されるのも理解できます。ですが私を含め今回参加していただいてる教員陣はみな、
! 言われてみればそうかもしれない。
『それはあくまで生徒の皆さんに全力で取り組んでいただくため。もちろんチームの順位は加味いたします。その上で我々教員陣が認めた者に合格を出します』
そんな方式だったのか!
今回の試験、チーム試験といいつつも、しっかりと各々の生徒を教員陣が見極めている点、個人の力だけでは上がれないようになっている。公平な試験だったんだ。
『一位チームよりリク、ゼロ、トリン』
一位、リクたちのチームだ。ゼロがリーダー、鉄壁を張っていたのがトリンだ。この三人は当然といえば当然。問題は次。
『二位チームより……』
ここだ。
『フレイツェルト・ユング……』
「「!」」
おれの名前! 呼ばれた瞬間エルジオが下の方でこちらにグータッチを出してくる。
こいつ、まだ自分が受かってないくせに!
そう思いながらもそっとグータッチを返した。
『エルジオ……』
エルジオも! 再びグータッチを交わす。これならグロブスも……
『以上です』
えっ?
「……」
期待が高まる中、グロブスの名は呼ばれない。
グロブスはおれたちの方を振り返ることなく、ただ一心に前を向いている。
『続いて……』
その後二人の合格発表がされ、試験は閉会された。
「まてよ……」
エルジオの声にグロブスの足が止まる。合格が決まった者はこれから手続きがあり、不合格者はそのまま解散となる。
そんなグロブスにエルジオから声をかけた。
「何をしている。さっさと手続きとやらに行ってくるんだな」
グロブスはこちらを振り向かない。
「ッ! 待ってるからな!」
「!」
グロブスの肩がぴくっと動く。
「さっさと上がってこい! オレはお前がいなきゃ力を出すこともなく、合格も出来なかった! だから!」
「ふん」
グロブスがようやくこちらへ振り向く。
「別にもう顔を見なくなるというわけでもないだろう。なんだその言い方は、大げさな」
「……」
「だが、必ずすぐに高等科へ進む。待っていろ、次お前とやる時はその腕をへし折ってやる。
! グロブスが初めてお前じゃなく、“エルジオ”と名前を読んだ。
「ああ! じゃあおれは、お前のその自慢の銃をぶっ壊してやるぜ!」
それでいいのか? とは思うが、これが二人なりのやり取りなんだろうな。
「ユング」
「おう」
「迷惑をかけたな」
「! そんなの別にいいって。もう終わったことだよ。それにグロブスがいたからおれは合格出来た。早く上がってこいよ」
「ふん、どいつもこいつも。生意気な奴ばかりだ、まったく」
最後まで口は悪いながら、清々した顔でその場を去っていった。
「手続きにいくか」
「ああ」
こうして、叡学園初『チーム高等科試験』は幕を閉じたのだった。
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