第五十八話 一人で十分

 現在残っているのは六チーム。

 一位、二位、三位、四位、七位、そしておれたちだ。

 持っているポイントは38。一位の50ポイント、もしくは二位の40ポイントに加え、もう一チームを倒さなければならない。それも、他のチームが100ポイントに到達する前に。


 だが現状、


「ポイントが欲しいならそっちから来いよってか」


「ああ、そう言いたいらしいな」


 一位のチームは十二時の方向、自然と基軸とした自分たちに有利なフィールドを創りあげている。右側前方、二時方向の二位チームは様々な属性の魔法結界を何重にも張っている。

 残りのチームはまばら、もしくは左前方の十時方向に展開している。


 さて、どうする。


「左の数チームをぶっ倒しに行くのはどうだ?」


 エルジオの提案だ。しかし、


「良くないな。数チームがいることで横から“漁夫の利”を得られて、おれたちが巻き込まれる可能性がある。やるなら」


「二位のチームか」


 グロブスがおれに続く形で補足した。


「そうだな。だが、一位のチームがおそらく干渉してくる。さらに言えばおれたちが二位とやり合っている時に先に100ポイントに到達されるのは阻止しないといけない」


「じゃあどうするんだ?」


「まず競技場を。それから……」







『ここでまたもやフレイツェルト・ユングチームに動きがあります! 今度は一位のロザリチームと二位のゾンチームを引き裂く狙いか? ただしこれを許す他チームではないでしょう!」



「あれを止めろ!」

「堂々と隙を見せやがって!」

「生意気な!」


 その場から<大地魔法>で地面を隆起させていき、一位と二位のチームの間に巨大な壁を創っていく。大胆な行動をするおれに、当然四方八方から魔法が飛んでくる。


 頼むぞ。



<渾身魔法>勇敢な拳フォルティス・クラーク(弱め)

<爆発魔法>対空砲フラック



「させん」

「フレイはオレが守るぜ!」


 二人がおれに対する魔法を近づけさせない。さすが! 頼りになる!

 エルジオの圧倒的パワーとグロブスの正確な射撃。なんだ、こいつらめちゃくちゃ良いコンビじゃないか。


「てめえ! もうちょいでフレイに当たるとこだったじゃねえかよ! しっかり相殺しやがれ!」

「お前こそ、その知能のカケラもない拳をユングに当てるなよ」


 いや、そうでもないかも。


「くっ、なんだあいつら」

「あの金髪、全くマークしていなかったぞ」

「まずい、壁が出来上がる」


 多方から声が聞こえるが、もう遅い。


「準備が出来たぞ。二人とも助かったよ」


「ああ、だが本当に大丈夫なのか?」


「任せてくれ。こうでもしないと勝ちの芽は無い。さっさと倒してすぐに戻ってくるよ」


「信頼したぞ、ユング」


 一位と二位の間に、高さ五メートルほどの巨大で分厚い土の壁を創った。ファントムの時にも結界として使っていた<大地魔法>“地の壁アース・ウォール”だ。


 さて、エルジオとグロブス壁の外側に残し、おれは一人壁の内側へ。

 二人にはどのチームも100ポイントに到達しないよう、各チームを牽制けんせいしてもらう。


 そして壁の内側、いるのはおれと二位のチームの三人だけ。おれは真っ直ぐに二位のチームへと歩を進める。


「さあ、やるか」








「生意気なガキね、フレイツェルト・ユング」


「そうだね姉貴。まさか一人で向かってくるとはね」


「私達がそんなに弱く見えるのかしら」


 ゾン、ドン、ノン、三人姉妹の二位チーム。周囲をそれぞれが得意とする属性の結界で固め、他チームの様子をうかがう。


 そしてそこに一人で向かってくる少年。フレイだ。


 当然、それを黙って見ている彼女らではない。

 彼女らが得意とする<光・炎魔法>、<光・氷魔法>、<光・雷魔法>による応戦をするが、魔法が何故かフレイの目の前でふっと

 競技場内、フレイ以外の者なら近付くことすらままならないその猛攻にも関わらず、だ。


「なんなんだい、あいつは!」


「魔法が効いてない、というより届いていないよ姉貴!」


 フレイがまとっているのは調和の炎。対ファントムで見えない<安寧魔法>をかいくぐる為に使った技だ。

 だがあの時のように自身を強化する必要はない。まとっているといっても、今回は常に周り一メートル付近に放出しているだけだからだ。

 歩いて近付くのはまだコントロールし切れていないため。早く移動すればその調和の炎が自身に振りかかり、魔法を使えなくなる。だが一歩ずつ、着実に一歩ずつ、フレイは二位のチームに迫る。

  

「悪い、時間がないんだ」


「ひっ!」

「姉貴ぃ!」

「姉さん!」


 フレイの手が結界に触れる。幾重いくえにも重ねてあった結界はパリンッ!という音と共に崩れ去る。


「このお!」


 三姉妹はそれぞれが得意とする魔法、<光・炎魔法>、<光・氷魔法>、<光・雷魔法>の属性を帯びた光線を放つ。ラフィの<光魔法>と源流は同じ魔法だ。


 それに対し、調和の炎を解除したフレイは広げた手を前方に構える。


上位神権術 <召喚魔法>“召喚陣”


 特殊系統の<召喚魔法>“召喚陣”。魔法陣の周りのものを吸い取り、違う場所へ召還することのできる魔法だ。

 それをフレイは規格外の大きさで魔法陣を展開し、三姉妹の魔法を全て吸収する。


「反転」


 そのフレイの言葉と共に宙へ浮かぶ魔法陣が反転。


「まさか!?」


 三姉妹の嫌な予感は当たる。


「召喚」


 フレイが召喚したのは今吸収した彼女たちの魔法。それがそっくりそのまま返ってくる。


「姉貴、こりゃ勝てねえや」

「だな」


 三種の光線は三姉妹へと直撃、そのまま場外へと運ぶ。フレイの勝利だ。





「少し時間が掛かった!」


 二位のゾンチーム三姉妹を倒すとすぐに二人の元に帰って来たフレイ。


「見てたぜ! まじかよなんだよあれ!」


「お前はよそ見をするな!」


 二人のやり取りは相変わらずだが、試合決着の合図はまだだ。


「こっちはどうなってる?」


 フレイの問いに一瞬止まってしまう二人。少しの間の後、グロブスが答える。


「ここにきて七位のチームが出てきた」





 現在のポイント。

 午前の部一位50ポイント、七位76ポイント、最下位(フレイツェルト・ユングチーム)78ポイント。


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