第五十七話 良い流れ

 先頭のチームが崩れた。一気に畳みかける!


「エルジオ! グロブス! 乗れ!」


「了解!」

「ああ!」



上位神権術 <風魔法>“風神の加護”



 おれは薄緑色に光るサークルを出現させる。このサークルに乗った者は、加護により一時的に移動速度が大幅に上昇する。


「グロブス!」


「任せろ!」


 グロブスの魔道具である銃はガキン、ガキンと音を立てて長銃へと変化する。

 


<爆発魔法>解放拡散砲リベラシオン・ブレッツ



 これならおれは!



上位神権術 <風魔法>“大竜巻”



「「ぐわあああ!」」


 グロブスの魔法に合わせる形で螺旋らせんを描く竜巻を放つ。

 おれたちにチームプレイは存在しない。ならば、おれが二人の魔法に合わせて相性の良い魔法を繰り出す。これでいい!



『おっと早くも二チームがダウン! さあ、この第二種目にきてフレイツェルト・ユングだ! 第一種目は奮いませんでしたが、ここで巻き返してくれるのでしょうか!』



 実況の声と共に場内に響く歓声が聞こえる。見世物ではないんだけどな。まあ、悪い気分ではない。


「このやろおお!」


 真っ先に向かってきたチームの内、残りの一つと真正面からぶつかる。

 でも、そこはすでに危険区域だぞ?


「<渾身魔法>勇敢な拳フォルティス・クラーク


 先程のチームよりもかなり近い距離、エルジオの拳が風圧でそのチームを吹き飛ばす。まさに一撃必殺。

 おれの上位魔法、“大竜巻”よりも明らかに風圧が上だ。


「ふうう……」


 魔法を放った後、エルジオが腕を震わせている。やはり、負担が大きいのか?


「大丈夫か、エルジオ」


「あ、ああ。ちょっと久しぶりでな。筋肉がびっくりしちまってる」


「違う、まだやれるかって言ってるんだ」


「! もちろん!」


 その返事が聞きたかった。



中位神権術 <回復魔法>“精霊の加護”、“生命力促進”



「疲労が……」


 回復系統の基本的な魔法でエルジオの筋肉疲労を回復させる。

 上位の回復系統はまだ習得していないが、神権術で扱える中位回復系統はマスターしている。


「全員倒すんだろ?」


「頼りになるぜ! フレイ!」


 おれたちは再びスタートを切った。








「いいわよ! そのまま全員ぶっ潰しなさい!」


「エルっちってばやるじゃん」


 大いに盛り上がりを見せる観客席。友の応援を続けている彼女らもその盛り上がりに負けていない。


「それにしてもびっくりだよ。エルジオがあんなに強かったなんて」


「んにゃー、何か持ってそうな気はしてたけどねえ。まさかあれほどとは思わなかったけど。エルっちも中々やりますなあ」


「ベルナは気付いてたの! 僕は全然気付かなかったよ。なんならちょっと親近感も沸いてたし……」


「クラフっちに親近感湧かれるのはちょっと可哀そうかも」


「どうゆう意味だよ!」


「にししー」


 二人がいつものやり取りをする中、ラフィは少し冷静に戦況を見つめる。


「一位、二位のチームはね」


「んーそうだねえ。ま、そうくるだろうねえ」








「ちっ、あいつら自分の陣地を固めやがって」


「あれを攻めるのは少し厄介だぞ」


 一位、二位のチームは開始直後に自分たちに有利なフィールドを創り、周りを固めた。

 とにかく終盤まで残ることで、ボロボロになりながらも勝ち残った多くのポイントを持ったチームを倒せば、それで100ポイントに届くからだろう。


 おれたちを襲わなかった下位のチームは、予想通り上位のチームを狙った。だが、その強靭なフィールドの前に上位のチームを中々崩せないでいる。無理に突っ込めば後方からも狙われるのがオチだろう。


 残るチームは六チーム。おれたち以外のチームが戦闘を繰り広げているが、そこまで本気でやり合ってはいなく、牽制し合っている程度。体力を温存するためだ。


「どうするのだ? ユング」


 グロブスこいつ、呼ぶのがめんどくさなってユングで呼び始めたな。


「そうだな……じゃあ、戦闘をか」







『おおっと!? これは一体どうゆうつもりだ!?』



 実況の声が相変わらず競技場中に届く。


 

『フレイツェルト・ユングが南側から、競技場内を氷のフィールドでおおっていきます。このままでは競技場内が狭くなっていく一歩ですが、何をしているのでしょうか! 注目のフレイツェルト・ユングのチームは現在五、六、八位のチームを倒して36ポイント! この先も注目です!』



 円形の競技場、おれたちは一番南側からのスタートだった。それに向かってきた三チームはこちらに寄ったがそれを倒したことで、残りの六チームは中央、もしくは北側に固まっている。


 ならば、全体のスペースをせばめることで各チームの距離を短く、自然に戦闘を起こさせる。


「フレイ、そんなに炎を消費して大丈夫なのか?」


 南側から全て氷で埋めていくため、進むスピードは当然早くはない。少し余裕が出来たエルジオが話しかけてくる。


「全然、このぐらい大丈夫だよ。エルジオも、筋肉疲労は回復させたけど炎までは時間経過じゃないと戻せない。使い過ぎないように」


「へへっ、わかってるって」


 せっかく膨大な炎を持ってるんだ。有効活用しないとな。






「ええい! 我慢できるか! あれをやっちまえばおれたちも大量得点だ!」


 その声に反応し、おれはぴたっと手を止め、三人とも前進を止める。

 競技場内半分を埋め尽くしたあたりで、一チームが仕掛けてきた。

 だが、こちらに向かうということは当然……


「ぐあああ!」

「後ろかよ! 卑怯な!」


 北側の連中に背を向けるということ。向かってきたチームは南北両方から狙われる立場となる。

 おれたちは南側を背にしているため、その心配はない。氷のフィールドで埋めてきたのはその対策でもある。


 おれは左右の二人とアイコンタクトをして、息を合わせる。



上位神権術 <凍結魔法>“氷晶の山岳ベルク・アイスクリスタル

     


 <凍結魔法>“氷晶の城アイスクリスタル・キャッスル”の正統進化だ。

 向かってきたチーム、三人を氷の山で閉じ込める。



<爆発魔法>圧縮閃光砲コンプレシオン・ブリッツ

<渾身魔法>勇敢な拳フォルティス・クラーク



 二人の魔法が炸裂。爆発と同時にエルジオの拳による風圧で一気に戦闘不能だ。

 両方から狙われたからといって、ポイントは譲らない。



『ここでまたもやフレイツェルト・ユングチームが撃破だあ! 止まりません、このチームの勢いが止まりません!』



――わあああああ!!


 実況と歓声を受けることで、客観的にもおれたちの勢いを認識する。 


「当然だな」


「ああ、良い調子だ。……ところで」


「ん?」


 おれはエルジオの顔を覗き見る。


「もしかして魔法、あの一種類しかない?」


「ああ! そうだぜ!」


 何故か誇らしげに胸を張るエルジオ。まあ、あの威力があれば十分か。

 本当の魔法の方も不器用なのかもしれない、と思ったのは内緒だ。


 さっき九位のチームを倒して現在38ポイント。まだまだここからだ。


「この先が正念場だ。後半戦いくぞ!」


「おう!」

「ああ!」


 

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