第五十六話 真の実力

「エルジオ!」


「……フレイ」


 叡学園内、学園エリアをずっと西に行った先、叡学園敷地内の端にエルジオは居た。

 校舎群からそれなりに離れ、辺りには立派に育った木々が並んでいる。


「さっき、いただろ?」


「! 気付いていたのか」


「ああ」


 エルジオは横目でおれの目をじっくりと見る。


「それで、聞いたのか? オレのこと」


「聞いたよ」


「そうか。……情けないだろ? オレ。親友だった奴も裏切り、新しく出来た友達の試験でもオレのせいで追い込み、まじで、なにやってんだろうなあ」


 吹き込んでくる気持ちの良い風が、儚げに上の方を向いて話すエルジオの長めの金髪をなびかせる。

 

「なあフレイ」


「なんだ?」


「この試験、いけると思うか?」


「分からない。最下位である以上、次の方式で逆転の芽があることに賭けるしかない」


「だよなあ」


 少し、間が空く。エルジオが何かを言いたそうにしているのは分かってる。おれは、それをじっくり待つのみ。





「……オレの頼み、聞いてくれるか?」


「聞くよ」


 エルジオが口を開いた。亡き兄の魔法が保存されているというペンダントの握りしめ、エルジオが続ける。


「これ、捨ててきてくれ」


「! いいのか?」


「オレはこうでもしなきゃダメなんだ。自分でも分かってる。オレは、過去に囚われすぎてるんだ。だから強制的に決着をつけなきゃならねえ。これを身に付けてる内は、オレは兄貴に甘えちまってんだよ」


「……わかった。預かるよ」


 首元のペンダントをぶちっと引きちぎったエルジオから、それを手渡される。


「オレは、一度友を裏切っちまった。そいつは今でもオレに構ってくれるが、オレがお子様なばかりに迷惑ばかりかけちまってる。……考えたよ。オレは、今の友達は裏切りたくねえ」


 エルジオは今の友達と言っておれの方を真っ直ぐに見てくる。


「信用して、いいんだな?」


「ああ、任せてくれ。逆転するぞ、フレイ」


「よし!」


 エルジオは一足早く会場へと戻っていく。

 そして、おれは――。




◇◇◇





「来たか」


「ああ。……その、悪かったな、色々と」


「ふん、謝るなバカ者め。悪いのはお互い様だろう。そんなことよりも、準備は出来たのか?」


「ああ」


 先程までとは目付きが違うエルジオとグロブスが言葉を交わす。


「いくぞ、二人とも」


「任せろ」

「ああ!」






『それでは午後の部、第二種目へと入ります。すでにお伝えいたしました通り、競ってもらうのは“強さ”。そこで今回はこのような形で争っていただきます。どん!」



 会場内、巨大なモニターに各チーム現在のポイントが出される。



『登録者:フレイツェルト・ユング、エルジオ、グロブス。 ポイント0」



 各チーム、第一種目での順位とタイムによってポイントが付与されている。

 一位50ポイント、二位40ポイント、三位32ポイント……おれたちは0だ。



『方式は“バトルロワイヤル”。倒したチームのポイントは、全て自チームの現在ポイントから加算され、付与されたポイントが一番早く100ポイントへ到達したチームが優勝となります。戦い方はチームそれぞれ、試験規約に反しない限りは何をやっても構いません。それでは今から十分後に試合を開始します』



 バトルロワイヤル。各チームが一同に会して総力戦を行うというわけか。そして自チームのポイントが100に一番早く到達したチームが優勝。


「まだ勝ち目はあるな」


 グロブスの言う通りだ。

 

「だけど相当厳しいものになるのは確かだ」


「大丈夫だって、フレイ。それより作戦はどうする? つっても採れる作戦は一つしかないよな」


「うん、そうだね。おれたちに残された道は一つ」


「「全員倒す」」

 「全員潰す」


 ん? 今一人物騒な事言ってる人がいる気がしたけど。まあ、意見は同じだ。


「大事なのはここでも“速さ”だ。方式上、戦ってるチーム同士で傷ついたところを外から攻撃してそのまま二チームとも倒すのが一番効率が良い。“漁夫の利”ってやつだ。おれたちはそれすらさせない為にもとにかく早く決着をつけるんだ」


「それができれば理想だな」


「それと、おそらくポイント下位の順位のチームはポイント上位の方を積極的に狙うと思う。ポイントがおいしいからね。おれたちはそれにいかず、あえて中ぐらいのポイントのチームを狙う」


「なんでだ?」


 エルジオが聞き返してくる。


「多分、中ぐらいの順位チームは開始直後は様子見から入ると思う。そこまで焦る必要がないからね。それからさっき言った“漁夫の利”を得られるところへいくはず」


「ポイント上位と下位がやり合ってるところをあえて中ぐらいのチームを狙い、さっさと終わらせる。その後残ったチームでポイントを多く持っているところを狙うのだな」


「そうゆうこと。おれたちが最初から上位を狙っても100ポイントには遠く及ばないからね」


「わかったぜ」

「了解した」


 おれたちの方針が定まる。ここで全てが決まる。やるぞ。







『それでは十分が経ちましたので、これから第二種目を開始したいと思います。会場はです。それでは、お願いします』



 監督教員の声と共に、競技場内が動く。各々のチームは指示されたはじの場所に三人ずつ固れられていたため、段々と互いに距離が離れていく。

 動くというより中央から新たな空間が広がっていってる? とでもいうような現象が起き、あっという間に競技場内は各チームが遠目にしか見えぬほどの距離になった。



『はい、ありがとうございます。ただいま、教員陣の<空間魔法>によって競技場を広げさせてもらいました。これで各チーム思う存分戦っていただけるでしょう。それでは早速、スタートです!』



 急な開始の合図に少し戸惑うが、そんな事を言ってる場合じゃない。


「いくぞ! あのチームからだ!」


 おれの掛け声と共にどのチームより早く動く。狙いは定めていた。

 五位のチーム、持っているポイントは20ポイントだ。


 しかし、


「あれだぞ!」

「先に仕留めろ!」

「いけええ!」


 おれの予想に反し、三チームが一気にこちらに向かってくる。

 なんでだ、おれたちを襲うメリットがないだろ!


「あれは……おそらくチームというよりお前、フレイツェルト・ユングを狙いにきているな。後に障害になるよりここで潰しておこうという作戦か」


「そうかよ、きたねえな! で、どうする、フレイ」


 向かってくるチームを引き連れたまま他のチームを狙うのは無理だ。ならば!


「向こうから来てくれるなら好都合だ。時間も省ける。全員倒す!」


「おう!」

「さすが!」


 向かってくるならこちらは魔法を貯める時間が出来る。

 おれはすぐさま、炎を出力を高める。が、俺の目の前をさえぎる手が現れる。


「フレイ、一回オレにやらせてくんねーか? 久しぶりで感覚がわかんねーんだよ」


「エルジオ……」


 そんなエルジオの言葉に受け、グロブスの顔をちらっと見ると「やらせてやれ」とでも言いたげなうなづきを返される。


「わかった、かましてくれ! エルジオ!」


「ああ、任せろ!」


 エルジオは腰を落とし、ダンッ! と左足を前に出して右腕を思いっきり後方に引く。

 エルジオが力を込めると共に魔法の威力を視覚的に確認できるエルジオの魔道具、【ブースト・ブレスレット】に炎が灯っていく。四つ、五つ、六つ……七つ!


 威力だけならおれよりも上か!?


「<渾身魔法>“勇敢な拳フォルティス・クラーク”」


 エルジオがまだそれほど近くはない先頭のチームに拳を放つ。


「くらえええええ!」


「「うおわああああ!」」


 後方から一気に前に押し出したエルジオの拳からすさまじい風圧が起こり、先頭のチームを吹き飛ばす。


「……まじ?」

「ふん、相変わらずだな」


 これでエルジオの真の実力。これなら、いける!

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