第五十四話 第一種目終了
試験会場、観客席。今回受験する者が集まっていた広場からは、八つの巨大なモニター型の道具が試験を中継している。全チームの居場所を示した全体中継から、各チームを入れ替わり映したもの、各エリアを中継するものなどがある。
『おっと、ここで今試験初めてチーム同士のぶつかり合いだ! やり合うか、お互いに手を引くか見物だ!』
戦況を実況しているのは今回の監督教員。生徒たちへは丁寧な言葉遣いで通していたものの、テンションが上がり口調が実況風になっているようだ。
「さーてどうなりますかねー。開始して一時間だしぶつかるのは分かるけどやり合うのは得策とは思えないかなあ」
両手を頭の後ろで組んで各モニターを眺めて自身の考えを述べるベルナ。に対して、
「目と目が合ったらそれは勝負が始まる合図よ! ここで逃げるなんてありえないわ!」
観客席でも闘争心を剝き出しにするラフィ。
「はは、ラフィは相変わらずだね……。それよりもフレイ君たちはちょっとまずいかも」
「んーそうだねー。今のところ“答え”までは一番遠いかなあ」
クラフの声に反応して、ベルナとラフィもモニターでフレイ達の位置を確認する。
「なにやってるのよエルジオは! あの黒髪の奴もなんか気に食わないわ!」
「声は聞こえないけど、なんだか雰囲気はよくなさそうだね」
★
三人で意見を出し合い、進む方向は決めた。だが二人の意見が噛み合わない分、やはりチーム全体としての遅れは出る。
「てめえに任せてられっか! フレイ、こっちいこうぜ」
「お前はバカなのか? 光の差し込み具合からこちらに決まっているだろう」
「うるせえ! こうゆうのは感覚なんだよ! オレの勘がそう言ってたんだ!」
おれが意見を出し合おうと提案したところ、二人とも口を開いてくれた。が、口を開けば開いたでこれだ。何度も二人を制し、三人の意見をまとめてここまで進んできたが……これでは
「二人とも」
「なんだ? フレイ」
「どうした」
「一旦チームであることを捨てよう」
「どうゆうことだ?」
エルジオが
「お前の言いたいことは、このままチームで進んでいようが一向に進まない。それならば一旦分かれて各々突破口を開く、そうゆうことだろう?」
「ああ、そうだ」
グロブスはやはり賢い。
「でもよ! フレイが独りで動くのはダメだって言ってたんじゃねえか」
「出遅れてるんだよ」
「! ……フレイ?」
「お前たちいつまで喧嘩してるつもりだ? 今のおれたちはチームですらないんだよ! ただ足を引っ張り合っているだけの集まりなんだよ。わかっているのか?」
おれの言葉にエルジオもグロブスも少し
「ただ今は怒ってる場合じゃないのは確かだ。時間もないなら今は各々が思ったように進もう。だから目的地の方向や敵、何かあった時には
おれは手を平げて、一つ一つは小指ほどの小さな青白い炎を六つ灯した。
「これは?」
「
二人とも言った通りに炎を手に取る。すると、
「なんだこれ! ははっ、すげえ!」
青白い炎は持ち主の周りを生きたように飛び交う。まるで小さな精霊のように。
「これはおれたちが離れた時に、各々がどの方向の先にいるか示してくれる。もし何かあった時はその場所で何でもいい、とにかく大きな音を立てるんだ。そこへ他二人がこの炎を頼りに音の元へ急いで行く。そうしよう」
今からバラバラに行動するおれたちの道しるべになるものだ。発想は禁忌の森から帰る時に役立った
「今はとにかく時間がない。自分たちが行きたい方向へ進んで、何かあれば大きな音で知らせる。わかったか?」
「ああ、わかったぜ」
「その方が助かる」
「じゃあ健闘を祈る!」
おれの合図でバラバラの方向へと散る三人。これが吉と出るか凶と出るかは分からないが、喧嘩ばかりしてダラダラと進むよりはずっと良いはずだ。これで誰かが何かしらを掴める事を願うしかない。
◇◇◇
「はっ、はっ」
おれは剣を片手に森の中を駆け抜ける。二人とも別れてからはだいたい二十分ほどか。
それにしてもなんなんだこの森は。一面全く変わることのない景色で、正しい方向に進めているのかも分からない。方向を決めた後はずっと直進してきたから、真っ直ぐ戻ればさっき三人でいたところまでは帰れると思うが。
そんな事を考えながら後方を振り返る。エルジオとグラブスの方向を示す青白い炎は南西・南東方向を向いて時々くいっと微動している。
その時、大きな爆発音がする。この方向は南東、グロブスか!
おれは進行方向から
低位神権術 <強化魔法>“身体強化”
上位神権術 <風魔法>“風神の加護”
これが今のおれの最速。
今すぐ向かうぞ、グロブス。
「どうした!」
グロブスは銃を携えたまま、その場にしゃがみ込んで何かを観察しているようだ。
「む、早いな。まあいい、それよりこの痕跡を見ろ」
「?」
グロブスが痕跡を言って指したのはただの地面。何かおかしなところあるか?
「まるで空間が後からくっつけられたような裂け目がある」
「そ、そうなの?」
「ああ、間違いない」
言われてもイマイチ分からない。が、「こうしてみろ」と言われた通りに魔法を慎重に感知することで、この場所に使われた異常な魔法の跡を感じ取る。
「なんとなくだけど、ここでとんでもない魔法が使われたってことか?」
「おそらくな」
そして後方から声がする。
「おーい! フレーイ!」
エルジオだ。グロブスの爆発音を聞いて戻ってきてくれたみたいだ。
「揃ったな。ならばやるべき事は一つ。ここでおれたちの魔法をぶっ放す」
「どうゆうことだ?」
「おかしいと思わなかったか? どれだけ走り回ろうと周りからは一切の音が聞こえない。十チームもあるのに、だ。加えてこんな広大なフィールド、教師が金の卵である生徒を遠くの地に転移させるとは少し考えにくい。叡学園生というのは金持ち出身も多く、ただでさえ外では狙われる存在だからな」
金の卵って自分で言う? まあ実際、叡学園生ってのはそうゆうことなんだろうけどさ。
「つまり、ここは
「わかった」
「了解」
異空間だとか色々
「いくぞ!」
「ああ!」
「任せろ」
おれの掛け声で互いに距離を取り、各々最大火力の魔法を構える。
上位神権術 <火炎魔法>“
<水魔法>
<爆発魔法>
三つの大魔法が一か所に集まり、激しい火花を散らす。グロブスの示した地面に魔法を放つと、地面は
「もっと! 火力をあげろ!」
さらに火力が上がった魔法はやがてその地面を突き抜ける。すると、
「な、なんだ?」
「森が
破れる。そう表現するのが正しいほど、周りの景色が崩れ落ちていく。
そうして、やがて見えてきた景色は。
「ここは、叡学園内の建物群想定の施設か!」
グロブスが声を上げる。学校敷地内の施設のようだ。
どうやらおれたちは、本当にずっと幻覚のような魔法の中に囚われていたらしい。
あの空間の裂け目、魔法が交わってから明らかに異質な変化を見せた。ということはつまり、幻覚の魔法だということを見抜いて
「見えたぞ、あっちだ!」
エルジオが遠くを指す。ゴールはあちらの方みたいだ。
「急ぐぞ!」
それからは少し時間がかかったが、何事もなくゴールへ辿り着く。
途中障害などはあるものの、おれからすれば特に取るに足らなかった。チームでの攻略を想定していたみたいだが、急いでいたことからおれが全て吹き飛ばてきた。
だが、
障害が簡単過ぎたのではない。本来は争い合い、敵対しながら進むことを想定されている。おれたちの周りにはどのチームもいなかった。それはすなわち、
最下位。
タイムは一時間五十五分。
残り時間五分のギリギリのタイムだった。
午後の第二種目へ続く。
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