第五十二話 高等科試験

 精神を集中させる。コントロールはあまり考えず、目一杯の炎を出す。それを魔法に変換する。今回はとびっきりの量の氷。


神権術 <凍結魔法>“氷の領域アイス・テリトリー” 


 おれの周りから氷となった魔法が勢いのまま一気に広がっていき、文字通り一面の“氷の領域”が出来上がる。夕日が出てきたタイミングと重なり、おれの氷のフィールドは照らされて煌々こうこうくれないに輝く。


「おおー、やっぱフレっちは天才だね」


「ふぅ、でもこの威力の魔法、まだ連発は出来ないかな」


 おれはベルナに教わりながら、魔法の鍛錬をしている。

 

 魔法における等級は、低位〈中位〈上位〈最上位〈極位の順で強くなる。強さの指標は、炎のだ。

 つまり、一般的には中位魔法とされる魔法も、ものすごく炎を込めればその威力は上位魔法に相当する。上位魔法を使ってくるダイオ先生におれが対抗できたのも、おれの魔法が中位魔法だとしても、威力は上位に匹敵していたからだ。

 だが、威力はたとえ上位でも、それは、中位魔法で通される。曖昧さを防ぐためだ。


 そんな曖昧さを明確に区別化するため、「この魔法が出来ればあなたは上位魔法の使い手ですよ」というように、魔法によってそれぞれ等級が設定されているのだ。


 そこで、どうせなら名実ともに上位魔法を習得したい、という事で修行を始めた。

 しかしまあ、正直出来る。今まで使っていた魔法は、無意識ながら上位に匹敵するからだ。上位相当の炎が出せれば、あとは変換の仕方を工夫するだけ。

 あのファントムと闘った時の状態なんかは、上位でもかなり上の方、下手したら最上位とも呼べるかもしれない。

 

「ちくしょう、フレイはやっぱ上位ぐらいなら出来るよな。おれはまだまだだぜ」


 そう嘆くエルジオも、こうして一緒に修行をしている。

 だが、エルジオはやはり何か一歩足りない。エルジオと知り合った頃、一緒にに受けた探求『攻撃系統魔法学 実践形式』で、彼は最終的に岩を破壊できた。

 それでも、同じ探求を受けている者の中でエルジオは最下位の成績だった。努力はしているし、成長もみられるのだが、やはり違和感が残る。


 エルジオが何かを隠している事は明白だ。それは彼の触れられたくない部分かもしれない。

 だが、今はそうも言っていられなくなった。



 『高等科チーム試験』



 突如として発表された高等科試験。試験本番は一週間後で、この試験方式は叡学園初の行いだという。


 内容はチーム試験。そう名付けられた試験で、この試験に参加を希望した中等科生徒は、教員によってそれぞれ「三人一組」のチームを構成された。

 そして、その三人一組のチームがいくつもの項目で競い合い、最終的に教員の判断によって合格不合格を決定する。この合格とは高等科進級を指す。


 おれは今から三か月以内に高等科へ進級出来なければ、『叡学園祭 闘技大会』の資格は得られない。フローラと闘うという約束を果たすためにも、チャンスを逃すことは出来ないのだ。


 そして、エルジオに対してそうも言っていられなくなったという理由はここにある。今回の三人一組のチームは、おれ・エルジオ・エルジオと仲が悪そうなあの同期だという長身の男。

 彼の名前は、“グロブス”。戦闘時は魔道具の“魔法銃”を片手に戦うという。


 けどうちのチーム、ちょっと問題ありなんだよなあ。

 この試験が発表されたのは一週間前。そして生徒の参加募集を締め切った後、チーム構成を発表されたのが今日の朝だった。エルジオは気乗りしないようだったが、こいつを強引に引っ張りながらグロブスに話をしにいった。

 しかし、


「今のこいつと組む気はならん。当日までそのままでいる気ならば俺は単独で動く。以上だ」


 と、あっさり返されてしまった。単独で動くなんて、おれたちにとってもグロブスにとっても不利益しかない事は明白だ。このままでは絶対にダメだ。


「エルジオ、話がある。この後付き合ってくれ」


「! ……お、おう」


 今日の修行を終えたところでベルナとは別れ、おれとエルジオは男子学生寮で話をすることにした。




◇◇◇




 男子学生寮のおれの部屋。


 いつも孤独なこの部屋も一人いるだけで随分と違う。一人用にしては部屋は大きすぎるからな。最初は二人で歓談をしていたが、やはり二人とも気になるのか、話題は徐々に本題へと近付いていく。

 様子をうかがったのち、真剣な面持ちでおれが話を始める。


「エルジオ」


「……言いたいことは分かる。試験についてだろ」


「そうだ」


「……なあフレイ、今のオレじゃ力不足か?」


「そんな――」


 ことはない。と咄嗟とっさに言いそうになるが、本当にエルジオ、そして自分の事を考えるならば、


「ああ、力不足だ」


「! ……そうかよ」


 エルジオは一瞬目を見開いた後、少し睨むようにおれを見る。でも、ここで引くことはしない。これはエルジオの為でもある。


「でも、それは本来のエルジオの力じゃない」


「何が言いたい?」


「何か隠していることがないか?」


「……」


 黙ってしまった。そして、何も言わずにすっと席を立ったエルジオの足は、部屋の出口へと向かおうとする。


「エルジオ!」


「フレイ、すまねえな。オレが悪いのは分かってる。けど、力不足だと言われちゃしょうがねえ。これ以上お前の足は引っ張れねえ。それじゃあな」


「それじゃあなって、それまで何もしないつもりか!? 試験まであと一週間しかないんだぞ!?」


「お前に見てもらわなくても仕上げてくる。じゃでな」


 そう言って去って行ったエルジオを、おれの足は追いかけようとはしなかった。




◇◇◇




 エルジオと喧嘩別れのような形になり六日。一緒に受けていた探求でも、昼食でよく座っていたあいつの席でも、エルジオの姿を見ることはなかった。

 エルジオの同期で長身の男、グロブスは相変わらずだ。おれが話をしにいっても、エルジオの様子を聞いた後に「あいつが変わらないのならば俺からは話すことは無い」の一点張り。


 周りでは高等科試験に向けて、チームでの修行、連携の練習をしている中等科生徒がよく見られる。十チーム、総勢三十人が参加するこの試験の中で、全くチーム練習をしていないのはおれたちぐらいだろう。


 『高等科チーム試験』本番は明日。

 おれたち三人は最悪の形で本番を迎えることとなった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る