第五十一話 叡学園祭

 『叡学科 フローラ様』、そう書かれた階から下っていき、帰路につく。

 おれはあの後、しっかりと受け答え出来ていただろうか。


 彼女がヴァレアス帝国現国王の娘、つまり出身国の王女であると知った途端、おれの思考は止まってしまった。

 それもそのはず、おれの父テオスは国家転覆を狙っている身だ。もちろんおれは、それはテオスが平和に導くためだと信じているし、むしろそれに加担している側だ。しかし、現国王レオノス、フローラからすればおれたちは一番の敵であるだろう。


 事実、フローラは国王レオノスに憧憬しょうけいの念を抱いているようだった。彼女が国王レオノスを実際に目にしたことがあるのは幼き頃に一度のみで、幼少期からここリベルタにお世話になっているというが、その一目が彼女をここまで強くさせたのだ。よほど立派に映ったに違いない。


 そして、成長したフローラは、十歳でファーリスさんの推薦状により叡学園入学、現在十五歳の彼女は、叡学園の頂点である叡学科にいるというわけだ。

 そして彼女が“卒業試験”を受けない理由は、王都が封鎖されているため国に帰る事が出来ないからであり、彼女自身もこの叡学園が好きだからだという。まあ、現国王がまだまだ現役である内は、急いで帰る必要もないのかもしれない。




 フローラとの話を整理しているのち、寮に着く。 

 なんだか疲れたな。今日はここまま休むか。

 夜も近く、フローラの部屋にてたくさんのお菓子やら甘い物をもらったため、そこまでお腹も空いていない。

 重力と疲労に身を任せたままベッドへダイブすると、一枚の紙がピラッと落ちる。


 あ、これ。



『リベルタ叡学園祭 闘技大会開催のお知らせ』



 フローラからもらったチラシだ。たしか彼女は、


「これは毎年開かれるリベルタ叡学園の祭典だ。祭典は二日間開催。この二日は探求も全て休止され、叡学園中の生徒が参加する。毎年様々な催し物、出店が開かれて大変盛況するわけだが、やはり一番はこの闘技大会だ。私と君と闘いたい。これに出ろ、フレイ」


 なんて言っていたな。


 リベルタ叡学園祭は半年後。さらに、闘技大会の出場資格を持つのは高等科以上。初等科・中等科の生徒とは力の差がありすぎて危険というのわかる。

 ただ、問題はおれだ。おれは現在中等科。半年で高等科なんて、それこそフローラ並の早さだ。


 でもまあ、彼女のあのキラキラした目、ここでやれなきゃ男じゃない、かもな。フローラが大勢の目の前に姿を現す貴重な機会みたいだし、せっかく友達になれた彼女のためにもここは一皮剥けるときなのかもしれない。

 ……それにしても、フローラもちゃんと戦闘狂だったな。上へいく者の特性なのか、これは。




◇◇◇




 月日は過ぎ、フレイがリベルタ叡学園に入学してからは三か月が経った。


「遅い! エルジオはもう一歩早く!」


「――くッ! ああ!」


「ラフィは前に出過ぎだ! おれの少し後方へ!」


「わかってるわよ!」


「クラフ、ベルナ! 支援を!」


「う、うん!」

「あいよー」


 五対五、広大な砂漠フィールドにて、集団演習が行われている。


「そこまで! 今回は両者引き分け!」



「くうー、今回も引き分けかよ」

「相手側に入り込めていないわ。もっと前進を意識した方が良いんじゃないかしら」

「いや、それはリスクが大きすぎる」

「フレっちの言う通りだねー」



 おれたちは今、合同探求『集団戦の鍛錬』を受けている。文字通り、集団戦を学ぶ探求だ。こちらのメンバーはおれ、ラフィ、クラフ、エルジオ、ベルナだ。ちなみにフレっちというはおれのこと。ベルナは仲の良い者は「っち」を付けて呼ぶのだ。

 ベルナはこちらでは唯一の高等科だが、相手も中等科三人・高等科二人、と両等級が混じったパーティー構成になっている。

 

 この三か月、様々な探求や生活を通して、エルジオ・ベルナはみんなと仲良くなった。普段受ける探求はおれ・ラフィ・エルジオは実践、クラフ・ベルナは座学といった感じだが、今回は集団戦ということで二人にも参加してもらっている。


「や、やっぱり僕は付いていくのがやっとだよ」


「にししー。クラフっちは体力ないもんねー」


 この二人仲良いんだよなあ。


 おれたちがベルナと仲良くなったのは二か月ほど前。おれが入学してからは一か月が経ったぐらいだ。

 その時はクラフが紹介してくれたのだ。「よく一緒に探求をしている学友だ」と。ベルナは高等科のため、一つ上の博等科の探求へもいったりするが、高等科の探求を受けるときは二人は基本一緒にいるイメージだ。

 あれ、もしかして付き合ってる? おれ聞いてないんだけど。さすがにないか、いや、どうだろう。今度クラフに問い詰めよう。


 まあそんなこともあり、エルジオもみんなに紹介した。

 それからは五人、たまに集まったりもしながら学園生活を満喫している。三か月後にはおれは高等科へ進まなければならない、そのために必死に鍛錬をしているが、焦っても決して良いことは分かっている。おれのペースで一歩ずつ、進んでいこう。




 そうだ、フローラとはあれからも定期的に会っている。おれ自ら会いに行ったりもしているのだが、大抵は彼女からの招待状だ。

 フローラの世話役、ピオニーさんから招待状をもらい、フローラの寮へ行く。招待状に書かれているのは、その多くが「ねえ、そろそろ来てくれない?」といった内容のもので、おれがこれを一枚でも落としてしまったあかつきには彼女の面目は丸潰れ。おれは日々プレッシャーを感じているのだ。案外、可愛いと評判になるかもしれないけどね。

 ちなみにピオニーさんは決して招待状を開封しない。それは礼儀か、それとも自衛のためなのかは分からないが。


 ある時、まずは女の子から仲良く出来るかと思って、サプライズでラフィとベルナもフローラ寮へ連れていってみた。二人とも珍しく緊張していたが、すぐに打ち解ける事が出来た。二人とも、のちに「イメージが変わった」と言っていた。フローラのあの時の嬉しそうに話す顔は、今でも憶えている。




 といった具合で、おれは良い学園生活を送れている。

 魔法も成長している。ベルナがじょう魔法を連発していたことがあり、彼女からも教えてもらいながら、今は自分なりの試行錯誤をしている。


 エルジオの秘密、長身の男との関係、ソミシアの今など、知れていない事・不安な事もあるが、自身の魔法や友達が出来た事、確実に成長している事など、総じて楽しく毎日を送れているのには間違いない。


 今の目標は高等科進級。どんな試験なのかは分からないが、今から三か月後の叡学園祭には間に合わせる。闘技大会でフローラを戦うために。


 そんな思いを胸に、おれは今日も仲間と探求に励む。

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