第四十九話 クラフの研究
“神権術”。それは、僕、クラフがこの叡学園でひたすら追っている題目であり、研究を続ける理由でもある。
後に思い出した、フレイ君が
しかも、あろうことかそれを忘れてしまっていたなんて。
僕は、自分が許せなかった。
ラフィと全てを思い出した日、後悔に打ちひしがれ、自分の弱さを恨んだ。
初めて出来た友達だった。周りには魔法が出来ないドジっ子だと思われ、バカにされてきた。だけど、君が学校へ入ってきた日、勇気を出して声をかけて良かった。あんなに魔法が出来るフレイ君は、僕を決して笑う事なく友達になってくれた。ラフィとこうして話せるようになったのも、フレイ君がいたからだ。
でも、フレイ君はどこかへ行ってしまった。僕が、学校へ帰ってきた日に君を思い出すことが出来なかったからだ。今後、フレイ君に会えることはないのかもしれない。
それでも、ラフィは前を向いた。誰よりも強くなると意気込んで。
彼女はフレイ君を好いているように見えた。そんな人を失っても、あるいは失うことで、後悔を乗り越えた彼女にはさらなる火が着いた。
僕は、そんなラフィがかっこよく見えた。そして同時に、隣に立ちたいと思った。
そうして僕たちは、必死の勉強や修行の末、僕は十一歳、ラフィは十二歳でリベルタ叡学園へ入学した――。
僕は筆記試験、ラフィは実技試験により、無事リベルタ叡学園へ合格することが出来た。
僕は少し、低位の魔法ならば出せるようにはなった。でも、まだ中位は出せない。もちろんラフィから教えてもらったり、自分でなんとか出してみようとはするものの、やはり上手くはいかない。何がいけないのだろう。
でも、今はそんなことよりも研究したい事がある。そう、“神権術”だ。
僕、クラフは叡学園に入ってから本格的に神権術について研究を進めてきた。
きっかけはもちろんフレイ君。僕の中で一番強い人といえば、やっぱりフレイ君だ。ラフィも修行を重ねて、最後に見たフレイ君よりは強くなったかもしれない。ヒューゴ先生も、本気を見た事はないけど強いのだろう。だけど、違うんだ。魔法の多彩さ、向上心、色んな面を見てきたから、僕にとってはフレイ君が一番なんだ。
しかし、考えるほどに不思議な事がある。“神権術”って一体なんなのだろう。
人は生まれ持った炎により、魔法の適正が変わる。その上で、普通は適正が高い一つの魔法を極める。一つの魔法といっても、使い様によっては色々な事が出来るからだ。
フレイ君は使っている魔法を、全て最高の適正があるように扱う。
なにより、そもそも多数の魔法が使えるのも普通じゃない。どんなに明るい炎を持っていても、出来ないものは出来ない、限度があるのだ。ただフレイ君は、少なくとも僕からは出来ないものはない、という風に見える。
そしていつも、彼に尋ねれば「神権術だから」だ。
魔法について知れば知るほど、その神権術の“異質さ”が見えてくる。加えて、ヴァレアス帝国で勉強していた時はそんな記述、どこにだって載っちゃいない。もはや言論統制されているのでは、と考えられるほどに。
そして、今日。ついに見つけることが出来たんだ。ここ叡学園で研究して早二年。現代の本からは見つけることが出来なかった、神権術の記述。最初にそれらしきものを発見し、その記述を読むため、現代使われていない古代の文字を一から独学で学び、ようやく辿り着いた。
さあ、神権術のその正体を、僕に見せてくれ。
「クラフっちー」
「わあ!」
しまった。大きな声を上げてしまったことに気付き、我に返って辺りを見回す。
「しー、大きな声出しちゃダメだよ。ここ、図書館なんだから」
急に耳元で話しかけてきた女の子の方を振り向き、僕はこそっと返す。
「“ベルナ”が話しかけてくるからでしょ」
「いやあ、今日もやってますなーって思って」
今話しかけてきた彼女、名前は“ベルナ”。
十三歳の僕より一つ上、ラフィと同じ十四歳の女の子だ。髪は肩ほどまでのミディアムな長さで、全体的にもふっとした茶髪なのだが、所々濃い茶色と明るめの茶色が入り混じっている。カジュアルなペイントTシャツをよく着ており、こんな感じでいたずらをしてくる。
だが、こんな彼女は実は
僕と彼女が会ったのも、数か月前の図書館だった。
「ねーねー、探求いこうよー。そろそろ時間だよ?」
「あ、本当だ。気が付かなかったよ」
「クラフっちは没頭すると時間忘れちゃうもんね。わざわざ呼びに来てあげたんだから感謝してよ?」
研究がとても良い所だったのに! まあ、探求の時間ならば仕方がない。研究は明日からも自由に出来るし、なにより上等科の探求は一回でも受けないと途端に付いていけなくなってしまう。また明日、研究しに来よう。
ーーー
「っだー、くそっ! 壊せねえ!」
「エルジオ、今日はもうやめておこう。魔法の使い過ぎだ」
「フレイ。でも! 見ただろ、おれだけなんだよ。あの岩一つ壊せてねえのは! もう少し、もう少しだけやらせてくれ」
「エルジオ……」
中等科探求『攻撃系統魔法学 実践形式』を受けて二日目、が先程終わったところだ。周りは一段階上のさらに巨大な岩へ進む中、エルジオは相変わらず一日目の中程度の岩を壊せていない。探求の時間自体は終えているが、今はおれと二人。おれがエルジオの自主練に付き合っている形だ。
だが、そんな時、
「フレイツェルト・ユング様はいらっしゃいますかー?」
校舎側から、おれを呼ぶ一人の女子生徒が姿を現す。
「あ、はい。フレイツェルト・ユングは僕ですが」
「あ、あなた様が。今回は
「は、はあ」
手紙? のようなものを渡され、その女子生徒は
「なになに……これは、招待状?」
これ以上ないほどに整った綺麗な字、丁寧な挨拶から始まるその手紙は、内容から招待状のようだ。
「なんだそりゃ……っておいまじかよ、その差出人」
珍しくエルジオが驚き、目を見開いている。
「誰? 知っている人?」
「知っているというか、この叡学園で知らない者はいねえよ。“フローラ”。現在唯一の叡学科の奴だ。そしてなにより……お前と同じ、
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