第四十八話 同期

 ぼおぉぉ……。

 エルジオの右手首に着いた魔道具【ブースト・ブレスレット】の周りに付属した十の玉の内、三つが炎を灯す。


「そう、そこで放つ!」


「はあっ!」


 縦横十メートル程はあろうかという巨大で頑丈な岩に、エルジオの<水魔法>が激突する。だが、亀裂が入ったのみで岩は崩れない。


「っかー! 今のでもダメかあ」

 

「うーん、威力がまだ足りないかな」


 先週の探求で出会い、仲良くなったおれとチャラ男のエルジオ。

 今日からまた新たな週になり、授業、ここ叡学園風に言えば“探求”も一新されたわけだが、おれたちは二人で中等科探求『攻撃系統魔法学 実践形式』を受けていた。

 おれももちろん興味があったし、受けるのに決して不服はない。だが、これはどちらかといえば、エルジオが「頼む、おれと一緒にこの探求を受けてくれないか」と熱望してきたこともあり、今に至るのだ。

 先週エルジオと出会った探求『亡き者の魂の行方』とは全く趣旨が違っているが、どうゆう意図なのだろう。


「フレイ、お前ならあの岩壊せるか?」


「多分ね」


 やってみせてくれ、ということか。それなら。


 手を前方に構え、そのまま力を込める。体の奥底から燃え上がるような炎を出し、その炎を魔法に変えるイメージで……


中位神権術 <火炎魔法>“爆炎波フレイム・ノヴァ


 魔法により自然に亀裂がなくなっているその巨大な岩は、おれの魔法着弾後、爆発音のような大きな音と共に中心からバラバラに砕け散り、欠片は四方八方へと弾け飛ぶ。

 岩が砕ける瞬間に魔法の結界が張られるため、他の生徒への影響は心配ない。


「すっげえ……」


「はは、そうかな」


 エルジオの心の中からの感嘆にちょっと照れる。


 でも、おかしい。こういっちゃ悪いが、エルジオが中等科ならこれぐらい当たり前に出来てもおかしくない。現に、周りの生徒も苦労こそしているものの、岩を壊せていないのは目の前のエルジオぐらいだ。……何か、違和感が残る。

 エルジオの魔道具【ブースト・ブレスレット】は、溜めている魔法の強さによって付属している玉に灯る炎の数が変わるらしい。つまり、今から出す魔法の威力が視覚的に確認出来るということだ。

 さっきエルジオが魔法を放った時に灯った炎は三つ。おれの爆炎波フレイム・ノヴァ”ならば五つは灯るだろう。


「それではみなさん、今日はここまで。各自、魔法の威力は確認できたと思いますので、今探求で一つ上の段階の岩を壊せるよう研究・鍛錬を怠らないように。基本は独学ですが、つまづいたのであればなんでも聞いてください。では、明日の探求で」


 担当教員のふわふわ白髭しろひげじいちゃん先生の締めで、今日の探求は終わる。午後からも一応気になる探求はあるが、今は一旦お昼時だ。


「昼、行くか」


「うん、そうしよう」


 


 

 探求が開かれていた校庭を出た足で、そのまま学食の並ぶ場所へ向かう。

 相変わらず人の数がすごいな。ってあれ、エルジオは……、!


「んだよ、何か用でもあんのか」


「別に、今のお前に用などない」


 少し後方で一人の長身の男と向かい合って話している。

 長身の男は本を片手に持ち、整えられた黒髪にスーツのような格好で、全体的に清潔といった印象を受けるような男だ。

 対して、エルジオはいつものチャラい格好に、長身の男とはポケットに両手を突っ込んで相対あいたいしている。周りから見れば正反対のようなこの二人。雰囲気は見るからに良くない。

 長身の男が口を開く。


「お前はまだ攻撃系統などというくだらない事をやっているのか?」


「てめえ……それ以上言ったらぶっとばすぞ」


 攻撃系統がくだらない? どうゆうことだ?

 

「ふん、好きにするが良い」


「なら最初から話しかけてくんじゃねえ」


「……それもそうだな」


 と言いつつも、お互いに一歩も足を動かすことなくその場で睨み合う二人。これはすぐに仲介しなくては。


「ちょっと! 喧嘩はよくないって!」


「誰だお前は」


 本を片手にした男は、その長身から間に入ったおれを見下ろす。


「おれのダチだ。手出すんじゃねえ」


「ふむ、そうか。これは失礼した」


 長身の男はエルジオには一切目をくれず、おれの肩にポンと手を乗せた後、そのまま去って行った。一体、なんだったのだろう。


「あの人は?」


「……同期だよ。一年ちょっと前、オレとほぼ同時期に入ってきた奴だ」


「仲、悪いの?」


「悪くは、ねえ」


 しかし、その言葉とは裏腹に、エルジオは男の行った先を睨むような少し怖い顔をしていた。


「ま、今の事は忘れてくれ。悪かったな」


「それは良いんだけど」


「そうか。じゃあさっさと飯いこうぜ! 早く行かねーと混んじまう」


「う、うん」


 いつものエルジオのにかっとした笑顔に戻ったようで良かったが、あの男との事は少し気になるな。


 道中、幾度も「気にすんな」と言ってくるエルジオだったが、気にしているのは明らかにエルジオだ。この二人、何があったのだろう。




ーーー




「やっと……辿り着いた」


 男の机には、現代使われていない文字がびっしりと載った本の数々。常人にはその一文でさえ読むことは困難だろう。だが、彼はあらゆる文献、あらゆる記述からその意味を推測・考察し、今ではその本文の七割ほどを理解できるまでになった。


(ラフィとここへ入学して、早二年。ここまで長かった。ようやく……見つける事が出来た)


「“神権術”」

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