第四十七話 チャラい男

 朝、日差しがカーテンの隙間から差し込み、朝日を浴びながらゆっくりと目を開ける。

 ソミシアの革命軍基地も悪くはなかったが、やはり朝日はあるに越したことはないな。っとそうだ、今日はクラフとラフィと一緒に行く約束をしているのだった。早く準備をしなければ。





「フレイ君! おはよう」


「おはようクラフ、早いね」


「いやあ、こんなに早く同じ中等科にいけるなんて思っていなかったから、つい張り切っちゃったよ」


 そう、今日からおれは晴れて中等科へ進むのだ。といっても、初等科にはほとんど行ってないようなものだけどね。


「あれ、ラフィとはここで待ち合わせのはずなのになー」


 クラフと共に、男子寮と女子寮の真ん中に位置する広場へ足を運ぶ。今はラフィ待ちだ。


「まあ、そのうち来るよ。ここで待っていよう」




 

 ……来ない。集合時間から十分ほど過ぎている。


「こ、来ないね……」


 クラフがこちらを向き、そう漏らした時、


「悪いわね、準備が遅くて」


「ラ、ラフィ!」


 その姿に一瞬ドキっとしてしまう。


 か、かわいい。

 昨日までは特にいじられていなかったピンク髪のショートカット。それが今日は、左側は横髪から耳が出るよう、後ろの方へと三つ編みにされている。また対照的に、右側はこめかみの方から少し長めにあごぐらいまで伸ばした前髪を垂らしている。

 全体的に女の子っぽくなったというかなんというか。


「なによ」


「あ、いや、お似合いだなと……」


「! な、何言ってるのよ! さ、行くわよ、遅れたんだから!」


 そう言って、おれからスッと目を背けるように前を歩いて行ったラフィだが、三つ編みで見通しが良くなり、ちらっと見えた横顔は口元が緩んでいた。


 


 三人で中等科の敷地へ入る。

 おお、これはまたご立派な校舎で。初等科の教会のような校舎とはまた一風変わり、横に広く、教室が多数あるのが外からでもうかがえる。見る限りでは四階建てで、左右・そして真ん中の屋上の頂点は三角に尖っている。こちらの方がおれのイメージしていた、まさに金持ち学校の校舎といった感じだ。

 凄い校舎ではあるのだが、もはや驚くのにも疲れたのか、すでに目が慣れてしまったのか、そこまで立ち止まることはなく、今回はすんなりと校舎へ入ることが出来た。前世で言えば、東京へ行き、高い建物を見る度に立ち止まっていてはキリがないのと同じだ。


 初等科と同じく、まずは「探求」の内容一覧を確認する。今日は週半ばなので、ラフィとクラフはそれぞれ今受けている「探求」を引き続き受けるそうだ。おれが中等科の初日だからというとこで、ここまで案内してくれる事になっていたのだ。

 

 ちなみに、この午前からラフィが受ける「探求」は『広範囲魔法使いにおける接近戦の工夫』、クラフが受けるのは『魔法の進化論』というものらしい。相変わらずラフィは実践、クラフは座学に励んでいるようだ。おれはどちらかといえば、実践が好みかな。また、二人は他にも、今週別の時間帯で受けている探求があるように、週に最大五つまで受けることが出来るらしい。


「とりあえずわたしは行くわ。何か聞きたいことがあれば、また言ってちょうだい。力になるわ」


「僕もだよ。じゃ、また後で」


「うん、ありがとう、二人とも」


 さてと、おれはどうするかな。中等科に上がったことで高等科の探求も受けられるんだっけ。せっかくだし、そっちも覗いてみようかな。


 どれどれ、『強化魔法付与による熱血トレーニング』、『料理に使える魔法スパイス』、『馬車に変わる新たな可能性』……、他にも多数。

 いかにも体育会系のものから、そんなことまでやってるのかよってものまで。

 実に、実に様々だ。

 なんとなくだが、探求の個性が強くなっている気がする……! これは。

 そんな中で一つ、特に気になる「探求」を見つける。


 『亡き者の魂の行方』


 これって、おれの前世での死に関わってくるものなのか? 

 そう思った瞬間から、自然とおれの足はその教室へと進み始めていた。




 サッ、と人を検知したドアがスライドする。魔法で自動ドアを再現しているのか。なんてハイテクな。

 指定された教室は中等科校舎内。高等科の「探求」ではあるが、想定人数などに応じてそんなこともあるそうだ。


ざわざわ。


「ねえ、あの子って」

「だよねー、思ったよりちっちゃいかも」

「教員ぶっ倒したんだろ? 信じられねえな」

「いや昨日見たけど、相当だったぞ」


 ……相変わらず、周りからはおれの話題がちらほら聞こえる。自惚れていたわけではないが、一応覚悟はしていた。変に目立ってしまったしなあ。ちっちゃいと言われるのは少し納得いかないけどな! おれだってもう十一歳だぞ、って言っても多分周りの方が断然大人なんだろうな。

 まあいいか、席は割と空いているしその辺に座ろう。


「はは、人気者は大変だな」


 少し前方、頭の後ろに手をやり、足を組んで椅子を後方にゆらゆらとさせている男に話しかけられる。にっと笑った口からは八重歯が目立つ。

 第一印象は……チャラい! まっきんきんの金髪にピアス。少し大きめの半袖で、首筋からは褐色の体をチラつかせており、その首元には銀色にキラリと光るネックレスだ。サーファーみたいな格好だ。年齢は見た目から十五、六ぐらいだろうか、二十代まではいってなさそうだ。


「ここ、座るか?」


「あ、じゃあ……はい」


 言われるがままに隣に座る。きつくない程度に香水のような甘い匂いがした。


「オレは中等科の“エルジオ”だ。お前、フレイツェルト・ユングだろ? 昨日の試験見てたぜ、すごかったな」


「そ、それはどうも」


「にしても、こんな探求を受けるとは意外だったな。興味あるのか?」


「ええ、まあ、一応」


 こっちのセリフだよ! というのは口にせず、受け答えをする。なんだか緊張してしまう。こっちの世界に来てからこうゆうタイプは初めて出会う。そりゃ大陸中から集まってくるんだもんな、色々な人がいて当然か。

 そんなこんなで時間になり先生が登壇、探求が始まった。


 探求は席に座ったまま話を聞き終わる。座学だな。

 肝心の内容は、正直おれが知りたい事、つまり“転生について”は分かることがなかった。まあ、せっかく受けたのだし、残り二日はこの「探求」を受けてみようかな。

 探求はそれほどでもなかったが、時々、チャラ男、改め“エルジオ”がペンダントを開いてはぼーっと眺めているのは少し気になった。





「いやー、ここの飯は相変わらずうめえ!」


 お昼時、「探求」を終えたおれはエルジオと学食に来ていた。


「本当ですね、こんな美味しい物をタダなんて贅沢です」


「おう、敬語なんて水臭いもんはいらねえぞ。あとそうだな、お前の呼び方ってなんかあんのか?」


「一応、フレイと」


「お、そうか! じゃ、よろしくな、フレイ」


「こちらこそ、エ、エルジオ」


 距離の詰め方がすごい。ちょっと戸惑ってしまうが、周りでひそひそ言われているよりはずっと良い。不思議と一緒にいて居心地も悪くないしな。


「そういえば、ペンダントには何が?」


 軽いノリから、おれはつい聞いてしまった。


「ああ、これか。……すまねえ、やっぱこれについてはまた今度でも良いか?」


 エルジオは勢いのよかった食事の手をぴたっと止め、少しペンダントの中身を見てから、少し遠くを見てしまった。

 しまった、これは聞いてはいけない事だったか。


「! おっと、こんな空気にするつもりはなかったんだけどな。今はあんまり気分じゃねえってだけの話だ。いつか話せる時が来るかもしれねえが、今は……その、ワリィな」


「こっちこそ無神経だったよ、ごめん」


 それからは元の? チャラ男に戻ったようにエルジオは話してくれた。

 それにしても、あのペンダントはなんなのだろうか。気にならないと言えば嘘になるが、今はそっとしておくのがベストだろう。話してみると意外と友達にもなれそうだし。




 これがおれとエルジオの最初の出会いだった。




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