第四話 炎

「リリアー、神権術ってなにー?」


 昼寝から覚めても神権術が頭を離れなかったおれは、夕飯のタイミングでリリアに聞いてみた。何に対してかは分からないが心の内では警戒をするように。その結果まるで見た目は子ども、頭脳は大人のあの名探偵のようにあざとく聞くことになってしまった。


「神権術だと!」


 ガタっと急に立ち上がったテオスにびくっとする。え、もしかして本当にまずいこと聞いちゃったかな……?


「あ、ああ、すまないフレイ。驚かせてしまったな……。」


「あなた……。」


 場が重い。なんとなく下を向いてしまう。会話は無いが、テオスとリリアがセネカを交えて目配せし合っているのは分かる。

 ……気まずさからご飯を一口。うん美味い。




 数分後、


「フレイ、神権術をやりたいと思っているのか?」


 意見がまとまったのか。おれも顔を上げて応える。そうだな、元々魔法には一応興味あったし、


「いや、そこまでではないけど……その、単に気になったというか、まあ出来るならやってみたいかなー……なんちゃって」


「この子は最近『魔法全書』をよく読んでいたのよ」


 リリアの一言解説が入る。


「そうか。わかった。……明日の朝、庭に集合だ」


「う、うん」


 それにしてもあの重い空気はなんだったのだろう。

 まあいいか、魔法教えてくれるっていうならこちらとしても嬉しい。それにしてもテオスは魔法ができたのか、やるな我が父よ。




◇◇◇




 次の日の朝。


「それじゃフレイ、お父さんの言われた通りにやってみせろ。まずはこう、利き手を前に出すんだ。お前は右手だな」


「うん……」


 言われた通り手のひらを上に向けるように手を出す。

 一体何が始まるんだろう。いつのになく真剣なテオスに若干緊張する。遊びではないということか。


「それから目を瞑り、ぐっと集中力を高めるんだ。その後、難しいかもしれないが自分の中にあるオーラのようなものを感じ取れ。もし感じ取れたならなんとなくで良い、それを心の中ですくい上げるよう努力してみろ」


 オ、オーラ? 急に言われても全くわけがわからない。けどまあやってみよう。


「……やはり無理か」


 テオスがぼそっと何か言った気がしたがあまり聞こえなかった。

 集中、集中、集中……、? なんだ、なんとなく何か暖かいものを感じる(気がする)。


「! フレイ、目を開けてそのまま手に精一杯力を込めろ! その今感じているものを体の中から出すように!」


 ぼわっ!!


 うおっ、熱っ! ……くはない?

 なんだこれ、オレンジの……“炎”?

 少し眩しいけどなんとなく見ているだけで心が安らぐような、そんな感じがする。


 それで集中が切れたのか、胸から頭ぐらいまであろうかという大きさの炎は消えた。


「テオス、今のは……?」


 テオスの方を向くとその驚いた顔がリリアとこちらを行き来している。メイドのセネカは腕を組んだまま目を見開いたままこっちを向いて固まってしまっている。

 すると、リリアはすごく嬉しそうな顔で駆け寄ってきておれを抱き上げる。


「すごいじゃない!! ねえあなた今の見た!?」


「あ、ああ、正直驚いたよ。まさか本当に炎を出すとは。それも橙、加えてあの純度の高さ……」


 良かったのか? 一体何が起こったのかさっぱり理解できない。


「疲れたでしょう? フレイちゃん。さあ一旦中に入りましょ」


 るんるんと鼻歌を歌うリリアに続いて家に入る。そして、そこでおれは初めて魔法について教わる。

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