第十八話 おでまし

(止まれ!)


 常に少し先を進む仮面の男性の、”静止”を意味するジェスチャーで一行はその足をぴたっと止める。


「どうしたの?」


 すり足で近寄り小声で尋ねる。


「おそらく最下層が近い。それにこの先の大広間、一斉に攻撃を仕掛けてくるには絶好の場所だ。再度確認するが……いけるな?」


 これは最後の確認だ。ここに来る前一つだけ決めた作戦。その他大勢の敵はこの仮面の二人組が引き付け、おれが奴、νニュー一対一サシでやり合う作戦の確認でもあり、おれに覚悟は出来ているかという最終確認でもある。

 もちろん答えは、


「いける」


 力強く頷く。これがきっと最後のバトルだ。覚悟は決まった。


「いくぞ!」


「ああ!」

「ええ!」


 一気に大広間に出る。広い、野球のグラウンドぐらいはあるか?

 敵は……ざっと見積もって二十人! いける!


「避けろ!」


「くっ!」


 なんだこれは、矢? ちっ、あそこか!

 上方、足場が備わった塀に弓を構えた黒ローブ集団がいる。これはまずいな。地上の二十人に加えて弓を構えた敵が十人程。


 ! ……しかも、このタイミングでかよ。


「おいおい、随分と暴れ散らかしてくれたじゃねえか、お客さんよお。あぁ?」


 おでましだ。髪をかき上げながらだるそうに歩いてくる唯一黒ローブを着ていない男。

 νニューだ。


「来やがったなガキ。その覚悟だけは認めてやるぜ? ……さっさとこっちに来な」


 おれもいきたいのは山々なんだが、どうにも、弓が!


「あぁん? まさか人が喋っている時に黙ってきけねえバカがいやがるとは、な!」


 ボカーン!!


 んなっ!

 νニューが上方に居た弓連中を魔法で塀ごと吹き飛ばした。これにはこちら側もさすがに驚きを隠せない。


「あ、あのνニュー様? 一体何を?」


「うるせえ」


「ぎゃあああ」


 隣に居た黒ローブの一人も吹き飛ばす。めちゃくちゃだ。


「久しぶりにそこそこ出来る奴が来たんだ。邪魔する奴は。おいさっさとしやがれガキ、こっちは待ちくたびれてんだ」


 そうゆうことね。お相手もその気なら拒否する理由は無い。


「いってきます」


「僕たちもすぐにいく」

「やられそうになったら退くのよ」


 退かないよ。おれは一秒でも早く家族を迎えにいく。




 ざっざっ。

 その大きな広間を歩いて進む。νニューとの距離よそ10メートルってとこか。このかん黒ローブ集団はνニューにビビッて一切の攻撃をしてこなかった。


 νニューが人差し指と中指の二本指をくいっと下に向ける。


 ががが、ぼこっ、ぼこっ。


「さあ


 おれがさっき使った<大地魔法>“陥没創成クリエイト・ディンプル”で二人の足元が崩れる。監視カメラか何かで見ていやがったのか。


 おれとνニューの足場が綺麗に静かに落下していく。

 やがて着いたのは……実験施設か何かか?

 周りは一面白く、壁には等間隔に線が入っている。


「一つ良い情報を教えてやる」


「なんだ?」


νニューがくいっと親指を後方に向ける。


「こっち側を抜ければ嬢ちゃんがいる」


「! そんなこと教えていいのか?」


「そっちの方がてめえも燃えるだろ?」


「言われなくても取り返してやるよ!」

 

 なめられたものだ。待ってろセネカ! すぐに迎えに行く!




◇◇◇




 この前とは違うってことを見せてやる!


「“火球ファイア・ボール”」


 おれは火の玉を複数個周囲に浮かび上がらせる。続けて


低位神権術 <強化魔法>物体拡大+<風魔法>微台風


 ひゅんっ、ひゅんっひゅんっ。


 本来ならばただの小さな火球が拡大され、風魔法の応用によりおれを中心として弧を描く。

 それぞれの火球はおれの周囲を駆け巡り、加速したそれはやがて“火球の輪”と成す。

 

「それでお強くなったつもりか? ぼっちゃん」


「やってみなきゃわからないだろ!」


きぃぃぃぃん……


「“氷柱の弾丸アイシクル・バレット”」


 現状同時に出せる限りの氷柱の弾丸アイシクル・バレットを全力でνニューへと放つ。


「こんなもんか……、“氷柱の弾丸アイシクル・バレット”」


 νニューは全く同じ、いや、おれよりも一つ一つが大きな氷の弾丸で全て撃ち落とす。

 だろうな、だが本番はこの後!


低位神権術 <電撃魔法>“放電”


 あえてνニューを囲うように電撃を放つ。


「どこに向けて撃ってやがる」


 その電撃はνニューの周りに散らばった氷の残骸を伝い、無差別に近くの者を感電させる。もちろん対象者は、


「――ッ! ぐあああ!」


 当たったか?


「……となるとでも?」


νニューは“充電”の構えで電撃を全て吸収している。知っていたさ!


「やっときやがったか!」


<強化魔法>、<風魔法>のバフを存分に使って近接戦を仕掛ける。“火球の輪”をまとっているおれの方が有利のはずだ。まだまだ作戦はある。今のおれにやれる事を全て出し尽くす!


「うおおおおおお!!」




◇◇◇




 ……強い。


「ハァ、ハァ、くそっ!」


「おいおい、どうした? この前と何も変わんねーじゃねえか。その程度ならがっかりだぜ」


 どれだけ工夫しようが、どれだけ奇をてらった合わせ技を使おうが、所詮は低位神権術。まるで歯が立たない。持ってきた奇襲作戦は赤子の手をひねるように全て対処された。その上、“火球の輪”で少しばかり有利に戦えるものの、捕らえられたあの時から剣を持ってないおれは身体上のリーチ差において負けている。

 ならば中位神権術……だがいくら【内なる炎】をたずさえたといえど、おのれの限界が分かっていない以上乱発はリスキーだ。どうする?


「何か勘違いしてねえか?」


「何がだ!」


「神権術っつうのはあれだろ? あらゆる魔法の源流を扱うとかどうとかってやつだろ?」


「それがどうした」


 フッと小バカにしたような顔でνニューに上から見下される。


「結局なんだよ、そんなうさんくせえ魔法。確かにお前のそのでそこまでやれりゃ大したもんだ。だがな、俺様とお前には一つ決定的な差がある。特別に教えてやる、だよ。てめえのは結局どこまでいっても所詮神権術。だがな、俺様のは違う。神権術を使っているんじゃない、を使っているんだよ。本物と模造品レプリカ。なにが神権術だ、笑わせる。てめえがいくら手札を持っていようが所詮は全てしょぼい模造品、本物には勝てやしねえのさ。これが現実だボウズ、わかったか?」


「……」


 考えたことがないわけではなかった。いくら炎の扱いが難しいとはいえ多種類の魔法が使えるのならばもう少し有名であっても、それこそもう少し使い手がいてもおかしくないんじゃないのかって。おれが中位神権術まで学ぶ上で気付いた弱点。それはこいつの言う通り、。たとえ神権術を介して<火炎魔法>を使えようが、本物の<火炎魔法>のクオリティには劣る。それならおれは神権術をやめるのか?

 否。なぜならおれはすでにからだ。


「とっておきを見せてやる」

 

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