第十七話 攻略開始

 気持ちの良い朝。大森林の名に恥じぬその大きな木々の隙間から差し込む木漏れ日。遠くからは鳥のさえずりも聞こえてくる。改めて光景を眺めると美しい。


 ここは仮面の二人組が作った“安全地帯”ではあるが、立派な大森林の一部ということに変わりはない。ただ単に周りから侵入できないまじないをしているだけで、見た目は大森林の中にぽつんとできた小さな村のようである。あちらの世界の日本や、こちらの世界のトヤムとはまた違った、特別な景色だ。少し名残惜しい気もするが、おれは前に進まなければならない。そのためにも家族を失うわけにはいかない。覚悟はとうに決めている。


 今日は決戦の日だ。


 作戦などは無い。本拠地の場所はわかっているが、中の施設だとか構造の情報をこちら側は一切持っていないからだ。よって取れる手段は一点突破のみ。難しい事を考えるよりもそっちの方が単純でずっと良い。おれはセネカかぞくを取り返すため、仮面の二人組はまだいるであろう子ども達を救出するため、敵地へ向かう。


「またどこかいっちゃうの?」


「そうよ、良い子にして待っててくれる? それとまたお友達が来るかもしれないから仲良くしてあげてね」


「わかった!」


 仮面の女性と幼い子が話している。彼女たちにも守るべきものがある。必ず生きて帰ってくるんだ。


「叫んでたお兄ちゃんもいってらっしゃい」


「え、おれのこと?」


「うん。昨日うおーってなんかすごく頑張ってたから」


 うーむ冷静になると少し恥ずかしい……。どうしよう帰りたくなくなっちゃったな。冗談だけど。


「行こう」


 仮面の男性の掛け声で再び気合を入れる。


「ええ」

「うん!」




◇◇◇




(止まれ、この先だ)


 事前に聞かされたジェスチャーでそう伝えられる。“安全地帯”からはおよそ一時間程度。途中、“安全地帯”を創り出すのと同じ要領で創られた“空間ショートカット”を渡ってきたとはいえ、案外近かったな。それにしても……、


「小さくない?」


「ええ、そうみたいね……」


「……」


 コソコソ声で話す。本拠地にしては小さすぎると。見た感じそれほど大きくもない一軒家程度だ。これが本当に敵の本拠地か? などと考えていると、


「地下だ」


「え?」


「地下に建物の反応がある。こっちはただの入り口だ」


 仮面の男性が金属探知機のような小道具を使って敵情を探っていた。なるほど、それなら納得だ。


「どうするの?」


「言った通りだ、正面から突き進む。それと先程も伝えたが、νニューには君をぶつけるしかない。おそらく奴は最奥、最下層にいるだろう。いざというときは私たちが敵を引き付けて君が進むんだ。出来るか?」


「任せて」


「よし。では行くぞ!」


 三人一斉に飛び出す。飛び出すともちろん見張りに見つかった。こっからは時間の勝負だ。あちらが態勢を整える前に一気にセネカのとこまで辿り着く!


「貴様たち! 何者――」

「うわあ!」

「なんだ!」


 仮面の女性のスモークで自分たちを隠し、一瞬で叩く。第一関門は突破。



 真正面から堂々と入り込み、そのまま一直線に突き進む。

 ここからはほんの少しの判断の遅れが命取りになるため、仮面の男性のジェスチャーで大まかな道筋を決めて各々の判断で動く。


(右!)


低位神権術 <凍結魔法>“氷球アイス・ボール”+<火炎魔法>“熱息ファイア・ブレス”=爆発ブラスト


ドカーン!!


 おおまじかこの威力! 人一人通れるぐらいの穴を開けるつもりが、壁一面吹き飛ばしてしまった。これが【内なる炎】をたずさえた魔法の力か!


「何事だ!」


 ま、当然気付かれるでしょうね。それなら!


低位神権術 “身体強化”+“追い風”おれの最速で


 えっ?


 ドゴッ!!


「ちょっと!」

「大丈夫か!」


 いってえええ。今、何が起きた? いつもの強化セット使って・・・まさか、速すぎたのか? 自分でも制御出来ずにそのまま壁に激突したのか。

 まったく、【内なる炎】。

 確かに火力は飛躍的に上がったがこれは……とんだだ。


「なんだこのガキ!」

「やっちまえ!」


 寸前のところで仮面の男性が敵の振り下ろした武器を足で受ける。


「大丈夫なんだろうな!」


「大丈夫!」


 どのぐらい火力が上がっている? どのぐらい制御すればいい? 戦いながら体で覚えていくしかない!


低位神権術<電撃魔法>“電の光線サンダー・レイ


     <大地魔法>“陥没創成クリエイト・ディンプル


「うおわあああ!」

「ぐわああああ!」


 一気に殲滅していく。モブに構っている暇はない。多対一ならおれの領分だ。


 「すごいな」

 「ええ……」




◇◇◇




 再び三人で進攻していく。くそっ、思ったよりでかいなこの本拠地とやらは。

 

「体力に余裕はあるか?」


「若干疲れてきたけど大丈夫!」


 走りながら会話する。


 「そうか、なら体力を温存しておくんだ。そろそろが出てきてもおかしくはない。ここから先は僕たちが優先してて敵を倒して行くよ」


 「了解!」




ーーー




「あいつらが来やがったな」


「ああ。本当にあちらから来てくれるとは。よっぽどこの女が大事らしいな。まあ良い、これで我々の目的にもまた一歩近付く」


(まさか! フレイか!? あのバカ、ワタシの事など放っておけばいいものを!)


「ま、俺はあのガキがどう出てくるかにしか興味ねえがな。」


「目的が釣れればなんでもいい」


「はいはい、では俺はボチボチいくとしますかー。じゃ、また後でな


 その男νニューはセネカにそう言い残して部屋をだるそうに出ていく。


(くっ、何も出来ない自分に腹が立つ。頼む、無事でいてくれ、フレイ!)


 フレイとνニューの再戦はもうすぐそこまで迫っている。




―――――――――――――――――――――――

~後書き~


お分かりいただいているかもしれませんが、『低位神権術 “身体強化”+“追い風”』のところは、正式には『低位神権術 <強化魔法>“身体強化”<風魔法>+“追い風”』です。ただ、文字が長すぎるのか、<>内を入れてしまうとうまくルビを入れられなかったため、少し省略しています。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る