第十六話 覚悟
「準備は出来たか?」
「うん」
「再度言う、生半可な覚悟じゃ死ぬぞ。それでもやるのか?」
「……やる」
「わかった」
半日休み、今日は覚悟を決めた日だ。今日でおれが変わらなければセネカを助けに行く許可を出してはくれない。ただ、具体的に何をするかは全く伝えられていない。事前に内容を聞くことでおれが怖くなってしまうことを防ぐためだそうだ。
「君がやるべきことは一つだけ。炎を全て使い切れ。持て余すことなく
「え、それだけ? 疲れて炎が出なくなったことは何度もあるけど……」
「それは体力の問題だ。僕が言っているのは、その魂に宿る全ての炎を吐き出すこと。それはつまり生命力を削ること、命を削ることと同じだ」
「そんなことして何の意味が!」
「覚悟を決めたんじゃなかったのか? 生半可な気持ちでやればただ疲れ果てるだけだ。今ならまだやめることはできる。家族を助けるのをやめてここでのんびり暮らすか? 僕はそれでも構わないぞ」
何の意味があるかは分からない。口に出したのは単純に混乱してしまったからだ。心の内では彼らのことを疑っている自分はもうどこにもいなかった。きっと彼らは……。よし、覚悟を決めろ。セネカを助けに行くために!
「始めて……いいんだな?」
「大丈夫、お前ならきっと出来る」
「!」
全身に力を込める。
「うおおおおおおお!!」
ぼわ! ぼっ、ぼおお!!
今まで見たことのない量の炎が体内から
「お前の力はそんなものなのか! その程度であの男に勝てると思うな!」
「まだ……まだ!」
◇◇◇
「もうそろそろ一時間よ!? まだやらせる気なの!?」
「まだだ。あのレベルの質の炎、おそらく宿す量が尋常じゃない。ここで踏ん張れなければ僕がやめさせるよ」
ぼぉぉ……
「どうした? 炎が弱っているぞ、もうやめるのか?」
「ハァ……ぜん、ぜん! ハァ、まだまだ、これ……から、だ!」
ぼうっ!!
「そうだ、絞り出せ! まだ底にもっているものも、全部だ!」
「言われ……なくても!!」
◇◇◇
「もう三時間よ!? あなたはあの子を壊してしまうつもりなの!?
ねえ! ……ッ!」
「超えろ、超えるんだ……信じてるぞ」
「……もう少しだけ見守るわ」
「ああ」
……頭が
おれ、なにしてたんだっけ。そうかセネカを助けに行くんだった、おれ、行かなきゃ……セネカの、とこ……ろ……に…………
「―――! 早く―――!」
「今――! ――、――!」
◇◇◇
あれ? ここはどこだ?
「目が覚めたのね」
ん? あ、仮面の女性だ。なんでおれこんなとこで寝て・・・、はっ!
「おれはどうなったの! 力は、炎は!」
勢いよく起き上がる。うっ、一瞬頭がくらっとした。
「まだだめよ! 休んでなきゃ」
「あ、う、うん。ごめんなさい」
再び横になり仮面の女性の膝枕に頭の位置を戻す。すると仮面の男性が説明を始める。
「いいか、落ち着いてよく聞くんだ――」
結論から言うと、どうやらおれは覚醒に成功したようだ。頭がくらくらしてそんなテンションは上がらないがとにかく良かった。そしておれは一体何をしていたのかの説明も受けた。
魂は炎を
この【内なる炎】とは、普段使っている炎になる
おれは炎を無理やり消費し尽くすことにより、普通であれば長い時間を経て自らの炎へと変わっていく【内なる炎】を、強制的に
つまり、“
ここまで聞いていて思う……なんてむちゃくちゃな。
「炎を全て使い切るということは、生命力を使い切るに等しい。あの瞬間、魂がほとんど晒された状態なった君は、一度仮死状態に入ったんだよ。そこで”内なる炎”を目覚めさせ、即座に生命力の源であるこの
仮面の男性はそう説明すると、残りは一つしかないという、手の平サイズのその生命力の源の光をかざして見せた。そんな大事なものをわざわざおれに。
「そうゆうことだったんだ……」
魂が晒された状態というは非常に危険である、と本で読んだことがある。
だが今は、無理やり何時間も全力疾走をしたようなものなのに、不思議と体が軽い。これは【内なる炎】を目覚めさせたからなのか?
「今すぐ力を試したいかもしれないが、今日これ以上動くのはダメだ。明日戦いながら
「ダメだ、明日行こう」
「わかった、なら今日はもう休め。明日の早朝出発だ」
「うん」
【内なる炎】。全くの未知数だ。使いこなせずいつも通り戦うことは困難かもしれない。でもおれは行く。必ずセネカを助けてみせる。
その後安心したからか、疲れからか、眠りについたのは一瞬だった。
―――――――――――――――――――――――
~後書き~
【内なる炎】についての説明は本編の通りですが、説明が長いと思われた方は
『自分の生命力である炎を消費し続ける、という辛い試練を超えた先に、フレイはさらなる力を手に入れた』とだけでも抑えていただければ嬉しく思います。
本編中にもあります通り、死ぬかもしれないリスクは背負いましたが、回復を施したため幸い寿命が縮んだ等のデメリットはありません。
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