第十話 クラフ

 クラフの家に向かう。ユング家とは反対方向だ。つまり、ユング家から学校に向かってさらに向こう側というわけだ。隣町の中心側だな。

 少し歩くと「ここだよ」と言われて見上げた。すると、


『アドル魔法書店』


 おお! クラフの家は書店なのか! それも魔法書の! テンション上っがるー!

 そしてそのもじゃもじゃした特徴的な白いひげとふくよかなこの店番のおじさんはおそらく、


「ただいまー」


「おうクラフ、今帰ったか。お、そちらはお客さんか」


「うん友達のフレイ君とフレイ君ちのセネカさん! テオスさんの息子だよ」


「おお、あいつんとこの! よろしくな、フレイ君」


 やはりな。クラフの父だった。挨拶されたので挨拶を返す。


「はじめまして。フレイツェルト・ユングです。今日から学校に通い始めてクラフとは友達になりました。よろしくお願いします」


「わっはっは、テオスんとこの坊主が何お堅くなってんだ。それぐらいの年の子がそんなんだとすぐ老けちまうぞ? ほら、そこの小娘のように」


 そうだなあ、お堅くなっちゃうのはおれの課題だな。それとなんだ? そこの小娘?


「久しぶりだね“本爺ほんじい”」


「おう、久しぶりだなセネカ。少し大きくなったんじゃねえか?」


「いんや変わんないよ」


 セネカも知り合いだったのか。テオス繋がりか? 仲良さそうだな。それにしても……本爺。なんかちょっと笑っちゃうな。


「まあまあ、おらぁまだ店番してるからよ。中に入りな。クラフ、めし用意してやんな」


「はあい。行こ、フレイ君」


 クラフに連れられて中に入る。店の奥側がそのまま家になっているみたいだ。




「はい、どうぞ。セネカさんも」


「ありがとうね」

「ありがとう」


 二人で感謝を述べる。


「これはクラフが?」


「そうだよ。割と自信作なんだけど、どうかな」


 クラフがご飯を用意してくれた。これは……あっちの世界でいうところの炒飯チャーハンにかなり似ている。


「ほう、これは美味いな」


 真っ先にセネカが頂いてその感想を言っていた。

 いただきますはしていたな。リリアが普段からしっかりするよう言っているし。


「うん、美味しい! クラフ料理出来るなんてすごいじゃん」


「ふふっ、そうでしょ。後は魔法が出来ればなあ、なんて」


 そうだ今日の実践で気付いたことだが、クラフは魔法がまるで出来ない。おそらく自身の魔道具であろう本を持っているが、実践授業のときは全くといっていいほど魔法が出なかった。魔道具があれば誰でも出来ると思っていたが……そうでもないんだな。


「ねえねえそんなことよりさ、さっき言ってた神権術? って魔法なの? そんな名前どの本でも見たことすらないよ」


 そしてクラフは魔法こそ出来ないが魔法に関するは豊富だった。おれも普段からそれなりに魔法の書籍を読んでいるつもりだが、クラフの口からはすらすらと知らない事が出てきた。その知識の豊富さはこの家柄が関係しているのかもしれない。


「一応魔法は魔法らしいんだけど……」


「らしい?」


 クラフに神権術のことを話した。超マイナーな魔法である事、その特殊な性質など。そして色々な話をしてるうちに子どものくだらない話に繋がり、気付いたら夕方近くになっていた。


「フレイ、そろそろ帰る時間だ。親方様とリリアが心配する」


「ん、もうそんな時間か」


 セネカに帰ることを促される。ちなみにセネカは途中でおれたちの会話に着いてこれなくなったのか、クラフの親父さんのとこで話していた。

 

「楽しかったよフレイ君! また遊ぼう!」


「もちろん、いつでも! それじゃまた学校で」


「うん!」


 いやあ楽しかった。初めての学校で少し緊張したけど良い友達ができて本当に良かった。そういえばクラフはこちらの世界では初めての友達になるのか。……ちょっと嬉しいな。




 セネカと歩くうちに家に着く。


「フレイちゃん! おかえりなさい! 学校は? どうだったの? どこ行ってたの? セネカがいるから大丈夫だとは思っていたけど……」


 心配そうなリリアにセネカが答える。


「大丈夫だよリリア。こいつ学校で友達が出来たみたいでその子の家に行ってたんだ。それも本爺の息子」


「あら、アドルさんとこの! 良かったわねえ。さ、家に入りましょ」


 やはりリリアも本爺と知り合いか。テオスとセネカだけ知り合いって事はないと思っていたけど。



ーーー



「神権術を扱うフレイツェルト・ユング、か……」


「お父さん?」


「いんやなんでもねえ。さあ家入るぞ」


 その特徴的な髭をいじりながら男は何かを思案する。



 そして学校を機にフレイツェルトの物語は動き始める―—。

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