第九話 対決

 フレイにラフィ、両者共に構えをとる。


 おれはとりあえず腰をぐっと落とし、両手を広げていつでも神権術が出せる構えをとった。

 ラフィはおそらく魔道具であろう杖をこちらに向け、機会をうかがっている。


(案外冷静なんだな、感情にまかせて突っ込んでくるかと思ったが)


 などと思案していると、


 ! ッ!


 後方にジャンプして咄嗟に躱す。

 今のはなんだ、光線?


「やるじゃない、私の“光の矢ライト・アロー”をかわしたわね」


「“光の矢ライト・アロー”、<光魔法>といったところですか」


「正解よ、チビ。私は<光魔法>を扱うわ!」


 <光魔法>か、魔法で直接攻撃してくるところを見ると、おそらくだろうな。


「あんたのさっきまでの威勢はどうしたのよ、さっさとやり返してきなさいよ」


「言われなくても!」


 次はこちらから攻撃に出る。

 

低位神権術 <強化魔法>“身体強化”+<風魔法>“追い風”


「フレイ君はや!」


 瞬時にラフィの懐に潜り込み拳を振り上げる。


 ラフィがギリギリのところでおれの右拳をはじく。


「くうう、危なかったわね」


「いいえ」


 パチンとおれが指を鳴らすと杖に静電気が流れる。

 びりり!


「いっっ」


 ひゅっ、ぱしっ。

 その隙を見逃さず杖を奪い取る。


「<電撃魔法>“充電”です、構えた時からずっと溜めてました。これでもう、魔法は出せませんよね」


「そこまで! 勝負あり、勝者はフレイ!」


 ヒューゴ先生の合図で勝負が終わる。勝者はおれだ。

 わああ、と他の生徒が集まってくる。


「すごすぎるよ! フレイ君! <電撃魔法>って言ったっけ? その前にも何か使ってたよね!」

「おまえ小せえくせにやるじゃねえか」

「ぼくはコロン! よろしく!」


 わーわーと一斉に喋られてよく聞き取れない。良かった、勝てたのもそうだがなにより相手を傷つけずに済んだな。と、そうだラフィ……。


「返しなさいよ!」


 ぱしっと乱暴に杖を奪い返される。

 その後ツカツカと歩いていって大きな樹の下に杖を抱えて座り込んでしまった。




◇◇◇


 

 

 授業が再開された。おれは先生から休んでいるように言われて、ラフィとは遠くの樹の下で休憩している。


「君の魔法、すごかったね。複数使えるのかい?」


 生徒達の様子を見ながらヒューゴ先生が隣に座り込んでくる。

 

「あ、いえ、神権術です」


「! ほう、それはそれは……。久しぶりにそんな名前を聞いたね」


「ご存知なんですか?」


「名前だけね。詳しくは知らないよ。それにしても……そうか、今時いるもんだね。ここにいる子達は知らないんじゃないかなあ」


 そっか、やっぱりマイナーなんだな。先生が名前を知ってただけでも少し嬉しかった。

 

「ラフィさん、気になるかい?」


「え!?」


「いやあすまない、女の子としてって意味ではなくてね。彼女には彼女なりの事情があるんだよ」




 それから少しラフィのことを聞かせてもらった。ラフィはこの隣町では魔法関係で偉い家の娘らしい。そのため父の娘に対する期待は大きく、彼女の負担になっているのかもしれないとのこと。それから元々はいわゆる金持ち学校に通っていたが、そこで騒動を起こしてこの学校に来たこと。

 ただの番長気取りかと思っていたけど、父に振り向いてほしくてわざとやんちゃに振る舞っていたりするのかな。まあただの素の部分もありそうだけど……。

 

「そんなとこだ。だから彼女とも無理に仲良くとは言わないが、あまり邪険には……あーと、いじわるはしないであげてほしい」  


「わかりました」


「うん、やはり君は賢い子だね」


 ある程度賢いのがわかってこの話を振ったのか。この先生見る目がすごく優れている。ラフィがこの学校に来たのも半年前だというし、態度はあれでも案外この先生に懐いているのかもな。




◇◇◇




 その後いくつか授業があったが実践は最初の時限のみで後はいわゆる座学だった。

 ラフィは頬杖をつきながらもずっと一番前の席で先生の話を聞いていた。

 

 そして放課後。

 放課後といっても午前で学校は終わったんだけどね。子どもは遊ぶのが本業という先生の意向らしい。


「フレイ君! 結局朝の魔法はなんだったの?」


 ああ忘れてた。クラフにおれの魔法について聞かれててずっと誤魔化してたんだった。


「あれは神権術っていうんですよ」


「神権術? なんだいそれ? ああー、あとその話し方! 僕たちもう友達でしょ? なんだか距離を感じるよ」


「はい、……あ。う、うん」


 クラフはおれより二つ上の七歳だ。子どもではあるんだけど、実年齢で年上だとどうしても敬語になってしまう。これも元日本人の悪い癖が出てるな。今はもうこっちの世界だ、直していこう。


「ところでさ、このあとうちに来ない?」


「え?」


 正直すごく嬉しい提案なのだが……迎えに来るって言っていたしどうしようかな。


「大丈夫だ。そうゆうことならワタシも付いていく」


 びっくりした、セネカだ。もう迎えが来てたのか。


「誰?」


「うちのメイドさんだよ」


「ふーん、そうゆう風には見えないけど」


 まあな。家事全般がリリアがしているし、たまに手伝っているところは見るけどメイドらしいことはしていないかも。


「まあそうゆうことなら——」


「フレイツェルト!!」


 なんだ、ラフィか?


「覚えてなさい、わたしはあんたなんかより強いんだから!」


 バンっ! と音を立てて帰って行った。相変わらずだなあ。まあ不思議と、先生の話を聞いた後ならそこまで悪い気はしない。


「喧嘩か?」


 とセネカが尋ねてくるが、


「ううん大丈夫」


「そうか、お前が言うならそうだろうな」


 そうしておれとクラフ、セネカを加えてクラフの家に向かった。

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