第八話 学校

 五歳になった。

 体が成長してきて食欲が増えたことにより、体力もすごく付いてきた様に思える。以前と比べると体格もかなり違う。我ながら子どもの成長ってすごいもんだなあ。


 続いて神権術。こちらは時々テオスに教えてもらいながら、今も『神権術 中位』を日々読み進めている。現在の習得状況は約半分といったところだろうか。低位神権術をわずか四日でマスターした割には遅いと感じるかもしれないが、はっきり言って中位ともなると低位とは全くの別物だ。

 魔法を学ぶ上で気付いたことなのだが、低位や中位といった“魔法の階級”というのは、で階分けされているようだ。

 つまり、低位に比べて出来ることが圧倒的に増えるのだ。簡単に例えると、低位では二つのお手玉をしていたのに対して、中位では急に五つのお手玉をしろ、なんて言われているような感じだ。単純な炎の量、炎のなコントロールなど、多くの事が問われる。

 今思えばここからが本番。低位は中位のためのほんの練習みたいなものだった。二年で半分習得出来るのも大概ではあるらしいけどね。せっかく長い期間をかけて炎を出せるようになった人間の多くが離れてしまうのが中位神権術だそうだ。




 そして今日から待ちに待ったが始まる。

 そう、学校だ。五歳になる少し前、そういえばと思ってテオスに尋ねてみたらすんなりと快諾してくれた。テオスはおれが尋ねるずっと前から近くの学校に申し出をしていたそうだが、無理やりには行かせたくはなかったためにおれが口に出すまでは黙っていたそうだ。本当におれのやりたいことを第一に考えてくれる良い親だ。

 

 実に五年ぶりの学校。

 今はテオスと手をつないで隣町の学校に向かっているところだ。

 

「ねえテオス、学校ってどんなところ?」


「ん? 自分から言ってきた割にはわからないのか?」


「あ、あーそれは……たまたま本で学校って言葉を見つけて興味が出ただけというか……あはははは」


 あぶないあぶない。ほんの情報収集のつもりだったがあやうく怪しまれるとこだった。


「そうだな。学校と一概に言っても色々あってな。これから行くところはフレイよりもう少し年上の子たちが魔法を習っているところだよ」


「へーそうなんだ」


 なるほど、魔法を教える小学校といったところか。本で読んだのだが、少なくともこの国では義務教育のようなものはないらしい。そのため、魔法を学ぶ学校、基本的な学問を学ぶ学校、貴族学校など色々あるが、中央の首都近くならばまだしも、こんな辺境の田舎に学校はそう無いだろう。だからおそらく今から行くところがこの辺では唯一の学校だ。

 それにしても、約五年ぶりの学校かあ。学校はまあ友達もいたし割と好きな方ではあったけど、毎日行くのが面倒ではあった。五年も行ってないだけで自分から行きたくなるとはなあ、おれってば偉いじゃん。


「さあ、着いたぞ」


「おお!」


 学校というより教会みたいだ。家からはそう遠くなく、隣町に入って少し歩いたところに位置している。


「いってらっしゃい、帰りまた迎えに来るから」


「うん!」


 なんだか転校生みたいでちょっと緊張するな。でもまあな、中身は元高校生なのでしっかりと大人の対応ってやつを見せていきますか。


「おはようございます!」


 扉を開け、大きな声で挨拶する。できる人間の基本だ。

 先生は見当たらなく、子どもがちらほら。生徒は五、六人といったところか。


「お、おお、お、おはよう! ってうわ!」


「っとと、大丈夫ですか?」


「いやあごめんごめん、いきなり支えられるとは……てへへ」


 挨拶を返してくれた直後にすっ転びそうになったメガネの少年を支える。


「君、名前は? 今日から通うの?」


「フレイツェルト・ユングです。フレイでいいですよ。あなたは?」


「僕はクラフだよ。クラフ・アドル。ユングって言ったらあれだね。テオスさんのところだよね?」


「おお、父をお知りで! これからよろしくおねが——」


 バンッ!!

 突然勢いよく扉が開く。


「あんたどきなさいよ。通れないでしょ?」


 おれよりは少し大きく、ピンク髪ショートカットの少女がいきなり現れて暴言を吐く。

 ふっ、しょうがないここは人生の先輩であるおれが


「そんな言い方はないと思い——」



 ……こ、こええ。今時の子どもはこうなのか。

 その少女はツカツカと歩いて先頭の椅子にどすんと座った。そこは先頭なんだ、てっきり一番後ろを占拠するものかと。

 

「あ、あの子は?」


「あの人はラフィ。僕より一つ上でここの中では一番年長さん。魔法でも一番強い人だよ。逆らうとどうなることやら……」


「そこっ! 聞こえてるわよ!」


 ビシッと指を指された。なんって地獄耳だ。


 ゴーン、ゴーン。

 チャイム、いや鐘が鳴った。


「始業の時間だよ。とりあえず僕の隣に座りなよ、フレイ君」

 

「は、はい」



 先生がやってきてから始めに前の方に僕を招く。自己紹介を簡潔に済ませ、次は早速授業だそうだ。 

 ラフィはつーんとした顔で頬杖をつきながら一瞬たりとも目を合わせてくれなかった。




◇◇◇



 

 一限目 実践魔法

 

「さてみなさん、昨日やったことは覚えていますか? と、その前にフレイツェルト君はすでに魔法ができると聞いておりますが、見せてもらうことは出来ますか?」

 

 ヒューゴ先生が訪ねてくる。


「はあ、いつでも構いませんよ」


「ほおなんと、五歳と聞いてますが素晴らしい才能です。ところで、魔道具を持ってないようですが……」


「このままでいきます」


 ん? と少し難しい顔をしたまま先生や生徒がじっと見てくる。それじゃ一発、


「“氷球アイス・ボール”」


 以前よりも少し大きな氷の塊を浮かばせる。

 おおおーと歓声が上がるが、まだまだこれから!


「“熱息ファイア・ブレス”」


 “氷球アイス・ボール”で冷やした空間に“熱息ファイア・ブレス”、熱の風を送る。するとどうなるか、


「“爆発ブラスト”!」


 ぼふん!!

 空気が膨張して爆発を起こした。もちろん威力は抑えたけどね。


「おおー!」

「すごい、すごいよ! フレイ君!」

「この年でそれをやってのけるとは、大したものです」


 えへへ、昨日練習してきて良かったなあ。これでおれも人気者に――


「なによ! それぐらい!」


 ん? なんだ?


「あんた、フレイツェルトって言ったわね? 勝負よ勝負! わたしと、しなさい!」

 

 おれの前までツカツカ歩いてきてその自前の杖を突き出してきた。

 でも初日から喧嘩するのは……。

 ちらっと先生を見る。えっこの人何笑ってんの。


「フレイツェルト君はどうしたいのですか?」


「お、おれはえーと、その」


「なに、逃げる気! そう! やっぱり大したことないわね! 小物に興味は無いわ!」


 ふん、とか言いながら背を向けるラフィ。ほう、そこまで言われちゃおれもだまってられないな。


「先生、ラフィさんとやらせてください」


 すると先生はにっこりした顔で


「いいでしょう」


「逃げないのね、その根性は認めてあげるわ!」


 初日からこんなことになってしまったが、なってしまったものはしょうがない。女の子と戦うのは気が引けるが油断はできないかもしれないな。


「あわわわ、どうなっちゃんだ……」


  クラフは遠くであたふたしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る