私の日記 #3

同じものを読んで、同じものを食べたからって、同じになれるわけじゃない。

冬夜くんのそばにいる時、ずっと考えていたことだ。だけど同じになりたかった。だから彼が好きという本は全て読んだし、彼に勧められた音楽は全て聴いた。

冬夜君の眼に、一体どんなふうに世界が見えているのか、私はどうしても知りたかった。

傲慢にも天に近付こうとするバベルの塔のように、彼が好きだという本を部屋に積み上げてみたけれど、やっぱり私は冬夜くんにはなれなかった。

彼が好きだという本は、私にとってはそれなりで、でもそんなふうにそれなりにしか好きになれない自分のことが、私は嫌で嫌で仕方がなかった。

私がそう言うと、彼はいつも複雑そうに曖昧に笑った。別に同じになれなくたって、二人でいられたらいいじゃん、と寂しそうに言っていたあの時の優しい目を、今でも思い出す。


でももう、2人ですらなくなってしまった。

私でない私は、冬夜くんが好きだったものを好きなのか。それは心底羨ましいことだ。

まごついていると、電話口から口角の上がった声色で声がした。

「冬夜さん、なんか電話だと雰囲気違いますね」

瞬間、私は固まってしまった。

この人は今、なんと言っただろうか。冬夜さん?

「…そうですか?」

動揺を隠しながら、私は適当に話を合わせた。

「うん、なんか、喫茶店で話した時はもっとこう、会話慣れしてるなぁって感じだったんですけど、今はミステリアスな感じがします」

どうやら私じゃない私は、自分のことを冬夜と名乗っているらしい。勝手なことをするものだなと私は忌々しく思った。

冬夜くんはもういないのに、冬夜くんに成り代わろうなんて愚かなことをなぜ考えるのだろう。酷い冒涜だ。でももう1人の私も私なのだとしたら、私は心のどこかで望んでいるのだろうか?冬夜くんに成り代わることを?

「もっと知りたいなぁ、あなたのこと」

知りたい、という彼女の言葉に、私は狼狽える。結局、この女はどこまで知っているのだろう。私のことや冬夜くんのことを。ペラペラしゃべってほしくないのに、もう1人の私はあまり口が固くなさそうだし、この分じゃいつかほとんど知られてしまうんじゃないか。

私は適当に彼女にお礼を言って、電話を切った。

美奈子というその女性がどんな姿をしていたか、私はもうほとんど忘れている。

起きたばかりだったはずなのに、私はまたうんざりしてベッドに体を投げ出して、うとうと眠り込んでしまった。


次に目を覚ました時、身に覚えのないメモがスマートフォンの中に追加されていた。

また私か、と私は思った。

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