親父の問いかけ
シヨゥ
第1話
「なにをやりたいか。始まりはそこだよな」
雑貨屋の親父はそう言う。
「俺の場合は商売がやりたかった。ガキの頃に荷物を山積みにしてやってきた行商人を見たのがきっかけだな。俺の育った村は貧しかったから持っていることが裕福な証だったんだよ」
たしかにその夢を叶えた親父の店はたくさんの荷物で雑然としていた。
「商売をするとして誰に商売をしたいかを考えたんだ。売る相手が決まっていないのに商売はできないからな。それで俺は冒険者相手に商売をしようと思ったんだ。なぜかって? そりゃ冒険者が活躍してくれりゃあ世の中は平和だろ。平和になりゃ村が潤う。そう思ったのさ」
たしかに見渡せば冒険者が好む商品の方が多い気がする。
「売る相手を決めたらあとはそいつの喜ぶ商品や仕掛けを考える。そうやってコツコツ信用を積み上げて今に至るわけだ」
「なるほど」
「というわけで今度は俺が質問する番だな。お前は冒険をしたい」
「ああ」
「じゃあ、お前はなぜ冒険をしたいのか?」
「広い世界を見たいから」
「それは本当に冒険者じゃなきゃできないのか?」
「と言うと?」
「行商人だって各地を旅する。司祭様になれば各地を巡礼することもできる。パッと浮かんだ限りじゃこの程度だが広い世界を見るなら別の仕事でも出来るじゃないか」
そう言われると返す言葉ない。
「おそらくだが」
親父はそう前置きをすると、
「お前がしたいことは広い世界を見ることじゃない」
と言い切った。
「その答えが出たらもう一度来な。そしてその答えに納得がいけば売ってやるよ」
財布が突き返される。仕方なくそれを受け取った。
「許せよ。お前にもお得意様になってほしいんだ。この問答をするより前は二度と敷居をまたぐことのない奴が多かった。そいつらは冒険をしたいだけの奴らだったんだろう。だから最後に踏ん張れなかった。芯がある奴は違う。お前にはそういう芯のある奴になってほしいんだ」
『大きなおせっかいだ』と言ってしまうことも出来たが申し訳なさそうなその声に口をつぐみ店を出る。
「また来いよ!」
そんな親父の声が聞こえた。
「なぜ冒険したいか」
問いかけを反芻する意味でも口に出してみたがなかなか答えがまとまらない。ため息が出る。冒険に出る前に冒険のやり直しを迫られるなんて思ってもいなかった。
「これが親父の問いかけか」
噂以上だ。冒険者界隈では有名な問いかけではある。だがここまで難しいとは思わなかった。ただ答えられない問いではないはずだ。
「なぜ」
ただ、答えを得るまでにはまだまだ時間がかかりそうだった。
親父の問いかけ シヨゥ @Shiyoxu
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