悪いこと

卒業式の前の日、紺野愛梨こんのあいりとあつが交際した。


「信じられないんだけど」


「ごめん。何か、泣かれちゃったんだよ。俺、あれから毎日頭使って痩せただろ?そしたら、急に興味がわいたんだって」


「はあ?」


確かに、最近は昔のあつにもどってきていた。


「ねぇー。ごめんって」


ただの通過点なのは、わかってる。


だけど、あつの初めては私じゃなきゃ許せなかった。


芽唯めい


掴まれた腕を振りほどいた。


「どうせ、すぐにキスするんでしょ」


胸がズキンって痛くなった。


学校を飛び出して、走り出した。


ドンッ…


「いった」


「ごめんなさい」


「原口、じゃん」


佐伯君に、ぶつかった。


「何で?泣いてんの?」


「そっちもだけど」


「ああ、ちょっと酷いことしたから。で、好きだったやつに嫌われたから」


「それ、見られてたの?」


「いや、他の奴らが話してんの聞かれて。笹部も居たのにさ。笹部は、いいってさ」


「それって、紺野さんだよね?」


「そうだよ」


「私、佐伯君が好きだったよ」


「えっ?原口」


「さよなら」


腕を掴まえられそうになったのをかわして走り出した。


馬鹿馬鹿しい。


まだ、一日あったのに…。


明日また佐伯君に会うのに…。


私は、答えを聞かずに走り出してしまった。


いや、答えはわかっていた。


だって、好きな人って言って、泣いてたじゃん。


私は、家に帰って泣いた。


泣いて、泣いて、泣いて


「芽唯、国厚くにあつ君きてるから」


「断っといて」


「自分で、出なさい」


そう言われた。


「もう」


私は、涙を拭って玄関を出た。


「なに?」


「ちょっときて」


「痛い、離して」


「いいから、来て」


腕を引っ張られて、ズンズン連れていかれる。


「何よ、離してよ」


「無理」


あつの家に、連れてこられた。


「今日誰も居ないから」


「はあ?」


部屋に連れてこられた。


「何のよう?」


「佐伯に、ふられたんだろ?」


「何言ってんのよ?」


「だったら、もう我慢しなくていいんだよね?」


「あつ、痛い。離してよ」


「ごめん」


あつは、腕を離した。


「そんなに、佐伯が好きなんだね。」


涙を流し続ける、私の涙をあつが拭ってくれる。


「苦しいぐらい好きなの…。心臓が潰れそうなの。私ね、あつじゃ駄目。どうしようもないぐらい佐伯君が、好きなの。でもね、でもね、初めては全部あつがいい。」


「えっ?」


「変だよね…。おかしいよね。でもね、身体と心がバラバラなの。」


「俺ね、新田にったや佐伯達と一緒に小野田先生、襲おうとした。」


「はあ?何考えてんの」


「新田に、鋏渡して。小野田先生のタンクトップ切られて…。胸が見えて、新田がそれさわりながら、キスして。それ見て、下半身がジンジンして。とめれなかった。」


「あつ、何してんのよ」


バシン… 


私は、あつの頬を何度も何度も叩き続けた。


「ごめんなさい。ごめんなさい」


あつは、亀みたいに丸まって謝り続ける。


「謝るのは、私にじゃない。小野田先生にでしょ?早く立って」


「嫌だ。いけない」


「駄目、行くの」


私は、嫌がるあつを学校に引っ張って行った。


「小野田先生?さあ?保健室かな?」


たまたま通りすぎた羽尾はお先生に声をかけたら、そう言われた。


ガラガラ…


「どうした?原口」


「管野先生、小野田先生知りませんか?」


「さあ、知らないよ」


「それなら、謝っていてもらえませんか?」


「えっ?どうしてかな?」


「あつが、悪いことしたんです。私が、何度も殴りましたから。もう二度と小野田先生に酷いことをさせませんから…。ほら、あつ」


「ごめんなさい。ごめんなさい。許して下さい。許して下さい。」


あつは、亀になって謝り続けた。


「笹部がした事は、許されない事だ。でも、そんなに怯えてるのは虐待されてるのか?」


「あつ、亀はやめて」 


「ごめんなさい。ごめんなさい。」


「原口、笹部は?」


「虐待されてます。毎日殴られて、無視されてる。私だけが、あつに愛をあげ続けた。でも、小野田先生に酷いことをした事を聞いたから殴り続けた。」


「原口、もう許してやってくれ。小野田先生には、俺から伝えておくから。笹部、もうそんな風になるな」


管野先生は、あつの背中を撫で続けた。


「先生、あつはね、皆に嫌われたくなくて参加したんだと思うの。利用される事が愛だって信じてるから。だけど、やった事は許されない事。私が二度と近づけないから」


「わかった、原口。ありがとう。俺から、小野田先生に伝えておくよ」


「よろしくお願いします」



私は、あつを連れて保健室を出た。


なぜ、管野先生に伝えてくれと頼んだのかわからなかったけれど…


管野先生の雰囲気を見て、小野田先生が好きだとわかったから…



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