イニシエーション?
「それから、気持ち悪いんだ。
「あつ、それは大人になる為の事でしょ?あっ、ほらほら」
私は、ある作家の小説のページを捲った。
佐伯君を好きになって、買った小説だった。
「なにこれ?」
「人は、身体で恋をするって小説」
「なにそれ?」
「待って、あつの話も書いてたから…」
私は、ペラペラとページを捲った。
「ここね、読んであげようか?」
内容をチラッと見て、あつは頷いた。
「彼女の小さな胸の膨らみが制服の上からでも確認できた。ズクンと胸の痛みと同時に下半身が熱を帯びる。「気持ち悪い。そればっかりだから男子は嫌い。」彼女が友達と話していたのを思い出した。僕が、トイレに走っていくと国語の岩橋先生が近づいた。「どうした?」その声に、僕は、泣きながら先生に話してしまった。「それはね、大人になる第一歩なんだよ。君の体が大人へと変わるためのイニシエーションだよ。」「なにそれ?」尋ねた僕に先生は、笑った。「ようするに、成長過程だ。君はもう誰かを妊娠させれる準備が整ったって事だよ。だからこそ、悪戯に女の子に
小説を閉じた私をあつが見つめる。
「イニシエーション?これが、そうだって事」
「うん、そう書いてある。岩橋先生は、女の子にも同じ事を言うの。彼を考えると胸と下半身がキュッとするって話した子にね。
イニシエーションだよって言うの。君の体は、男の人を受け入れる準備が整った証拠だから。悪戯にしてはいけないって、ちゃんと大切にしなきゃいけないって。」
「そうなんだね」
「うん」
私は、あつの膝を抱えてる手を握る。
「坂口君は、まだイニシエーションがきていないだけだよ。あつは、やってきたの。ほら、気付いてないだけで花村君も新田君も佐伯君もきてたわけでしょ?」
「うん」
「あつは、ちゃんと傷つける存在にかわった事を、頭の片隅で理解していたんだよ。わかる?」
「うん」
「だから、その下半身をそんなに否定するのはやめてあげなよ。」
「芽唯も、佐伯を見たら下半身がキュッとなるの?」
照れ臭そうにあつは、下を向いて話した。
「なるよ。キュッてなる。それだけじゃない、もっと奥の方からズキズキする。多分、体が佐伯君を欲しがってるんだと思う」
「嫌じゃないの?」
「嫌なわけないじゃん。好きな人に
「それって?」
「あつが見たお母さんと同じだよ。好きじゃなくたって出来るんだと思う。下半身の声に従うのはやめるべきだよ。あつは、従ってないけどね」
私は、あつの両頬をつねった。
「芽唯に感じたのは、違うって事?」
「この胸の痛みと連動しなかったなら、それは単純に下半身の誤作動だよ」
あつは、片方の手で胸を押さえる。
「ズキンってしないみたい」
「だったら、下半身の誤作動だね」
私は、あつに笑いかけた。
「でも、キスしたい」
「はっ?何言ってんの?」
「佐伯に、芽唯の初めてのキスをとられるのは嫌だよ」
「だから、何言ってんの?」
「それは、俺だってわからない。でも、イニシエーションってやつの一つなら。俺は、芽唯のキスから始めたい。」
「すぐに覚えた難しい言葉使うの好きだね?」
「うん。はぐらかさないで」
私も、きっとそう。
このキスには、何の意味もない。
ただの通過儀礼の一つだってわかってる。
でも、その一つにあつがいてくれるなら…
あつの一つに私がなるなら…
それで、構わないって思ってしまいそうになった。
「芽唯、帰るまでに返事くれたらいいから」
「うん」
あつは、またクッキーを食べる。
私、佐伯君が好きなんだよね?
何か、わからなくなってきたよ。
一週間後ー
「ねぇー。考えてくれた?芽唯」
「えっ?ううん。まだ」
「いつにする?」
「佐伯君にふられたらね」
「それっていつ?」
「卒業式」
「そこまで、待つから。だから、絶対、初めては俺だよ。わかった?」
って、言っていた癖に…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます